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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
第六BF:スピリットフォレスト 精霊さん お願いします 早押しクイズ

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旅人の適性 2


 朝食を終えて、一人でホテルの駐車場へ向かう俺。


 駐車場?

 馬車も車のうちだ。

 何も問題はない。


 木と革と鉄でできた素朴な馬車たち。

 車輪はぎしぎしと音を立て、御者の手綱ひとつで進む乗り物。

 そんな四人乗りや十人乗りの馬車が並ぶ中。

 ただ一つ。


 ドーンと観光バスが君臨してるっていう違和感。


 馬車に比してバスは、あまりにも異質だった。

 直線的なフォルム。

 均一な塗装。

 ガラス窓の規則正しい並び。


 魔道具なのか機械なのかも曖昧なその存在は、

 この世界の風景から半歩どころか、三歩くらい浮いている。


 それなのに――


 その最先端の塊を普段引いているのは、巨大な「生き物」というアンバランスさ。


 だからこそ、この光景は面白い。

 みんなが出発する前にこれを撮りたかった。

 パシャパシャと。

 実質フィルム上限が無いので気軽にシャッターを押せる。

 シャッターを切るたびに、自分が今ここにいる証拠を刻んでいるような感覚になる。


 そこに。

 ずしりずしりと。

 にじり寄ってくる圧倒的な質量が、俺を自らの影で覆った。


「…………」


 物凄い重圧感を伴った目線と、鼻息。

 視界の端が、ぬっと熱くなる。

 振り向かなくても分かる。

 でかい。

 そして近い。

 このバスの動力源のサイもどきことセラさんだ。

 種族名はトライセラヒーモスと言うらしい。


 重厚な鉄より硬い硬膜。

 それが層のように重なり、鎧のように全身を覆っている。

 だが、その継ぎ目。

 関節の隙間や首元には、意外なほど柔らかそうな毛が生えている。

 ごわついているようで、実際に触れるとふわりと沈みそうな質感。


 巨大な角は三本。


 正面に突き出した一本は、触れるだけで城壁すら貫けそうな存在感。

 左右の角はやや短いが、それでも人間の胴体くらいは余裕で貫通しそうだ。


 体躯は完全にサイ。

 サイズはサイの倍以上。

 一歩踏み出すたびに、地面がわずかに沈む。

 空気が揺れる。

 視界も揺れる。

 呼吸一つで、周囲の温度が変わる気すらする。


 それでいて、目だけはやけに優しい。

 小さくて、黒目しかないように見える瞳。

 じっとこちらを見ている。

 威圧感と安心感が同居している、妙な存在。


「あーニホンジンさん、今からこの子バスにつなぐんで、ちょっと退いてくれません?」


 現地スタッフの御者さんが遠慮がちに告げてくる。

 その声で、現実に引き戻される。

 俺は軽く手を振ってセラさんの鼻っ面をなでる。

 硬い。

 でも、完全な硬さじゃない。

 奥にちゃんと生き物の温もりがある。


 セラさんが軛に接続されるところをパシャパシャ。

 金具がはまる音。

 革が引き締まる音。

 そして、巨体がわずかに前傾する。

 それだけで、観光バスという巨大な塊が「従属」した感じになる。


 この、巨獣が観光バスを曳いてるって姿。

 文明と野生の接続点。

 閑君にカメラを預けられて、まず浮かんだのがこれだった。


「へー、写真始めたんだ」


 後ろから大渓さんの声。

 振り向くと、アタッシュケースをごろごろと引いていた。

 片手には日本の新聞四紙。

 この世界に似つかわしくない紙束。


 でもこの人には妙に似合う。


 ホテルで宿泊できる時、彼は必ずこれを購入する。

 俺の目線に、大渓さんは答える。

 少し照れながら。


「まあ、自社新聞を観光地価格で購入することに思うところはあるけれど。ブン屋のカンと魂を失うわけにもいかなくてね」


 前も似たようなことを聞いていた。

 でもその時は自社新聞のみ手にしてた気がする。

 日本との距離が空いた分、情報密度で距離を埋める。

 旅の中でも、自分を手放さない。

 それがこの人の強さなんだろう。


「本当にいいんでスか大渓さん。転送費、馬鹿になりまセんよ?」


 隣を歩いていた現地ガイドのサンタフェさんが小首を傾げる。

 手には電卓。

 このファンタジー世界において、あまりにも現実的なツール。

 このギャップよ。

 だがサンタフェさんのみならず、都市部の商店では当たり前にみられる光景。

 日異貿易、順調な模様。

 文化侵略ともいうかもな。


「三日分お願いするから、その分まけてくれないかな?」


 三日。


 今回は通常のクイズサプライズ開催では無かった。

 三日後の午前中にクイズが行われることが事前告知されていた。


 つまりその三日に、何かがある。

 つまりその三日で、何かをさせられる。

 そう考えるのが自然だ。

 ウルティモは、フリータイム以外には無駄なことは一切しない。

 本番前の二日で、なんか絶対仕込みがある。


「夕刊も転送していただけるならお勉強させていただけまスよ?」


 あんたの女神顔からこの文脈でのお勉強って聞きたなかったわ。


 大渓さんは肩を竦める。


「どんな世界でもニッチな物流費は高くつくね」


 市場原理。


 プロ意識。


 この人が一番大人だ。


「あと15分で出発なので、市籠サンもチェックアウトお願いしまス」


 背後にざわめきを感じて振り返ると、女子組が椰子泉さんに率いられてこっちへ向かってくる。


 ハナさんはいつも通り衿衣の手を引いている。

 椰子泉さんはモーリーのジーパンに結わえられた腰ひもを引いている。

 囚人かよ!

 囚人以下だな、ヨシ!


 スタッフたちも整然と、別車両に機材を搬入し始めた。


 俺は円らな瞳でじっと圧力をかけてくるセラさんをもう一度撫でて、荷物を取りにホテルへと戻る。


 スピリットフォレスト。


 ヒューマン都市とは交流を閉じ、森に生きる精霊の友人たち。

 希少種族・エルフの居住区。


 そこでは何が待ってるんだろうな。

 どんな出会いがあるんだろうな。


 楽しみだ。



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