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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
第六BF:スピリットフォレスト 精霊さん お願いします 早押しクイズ

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旅人の適性 1


 隣から響いてきた酒臭いいびきで、俺は目が覚めた。

 第六バトルフィールド・スピリットフォレスト。

 その手前の人族の街。

 元国営鉄道の資本が入ったホテルの一室。

 今日の朝食後から、エルフの領域という文明から隔絶された世界に入る。


 ……楽しみだ。


 このワクワクする気持ち。

 最近、この衝動に突き動かされて行動することが増えた。

 短絡的だな、とは思う。

 思考で感情を制御してこその大人じゃないのかって。


 でも、大渓さんや椰子泉さんを見ていると、案外感情で動いている部分もある。

 後さんなんかは言わずもがな。

 はしゃぐし怒るし笑う。

 悔しがる。

 でも、なぜだろう。

 大人だとは感じる。

 振り回されてるようで、振り回されてない。

 手綱はしっかり握れている感じ。


 そこで握り切れてないのがイラちの垂須の兄貴だったり。

 嫉妬の化身のナース双滝だったりする。

 でも、あの人たちもまだこれからだ。

 きっと成長していくんだろう。


 大人になっても。

 歩みは止まらない。

 成長できる。


 ……なんか大事なことを言った気がする!


 でも思考に沈みすぎちゃ駄目だ。


 外部の刺激が欲しくなってカーテンをシャアッて開けた。

 地平線が薄く白んできた。

 南の太陽は深い森に閉ざされて、まだ暗い。


 ……そういえば俺、まだこっちに来て日の出って見てないよな。

 二つの方向から一斉に昇る太陽。


 東のはまっ平らな地平線から。

 南のはもっさもっさの森から。


 見たい。

 見なくちゃじゃないかそんな景色!


 俺は上着を羽織り、垂須の兄貴を起こさないようにそーっと部屋を出る。

 廊下からエレベーターに乗り、パネルを見る。

 屋上、行けるな。


 ボタンを押すと、音も無くスーッと上昇する。

 体だけが。

 魔道エレベーター。

 どっちかというと近未来の謎のテクノロジー風味を感じる。

 やがて緑色と黄色のツブツブが小さくなると。

 チン。

 日本と変わらない到着音が鳴って扉が左右に開く。


 眼に飛び込んできた朝焼け。

 地平線が黄色に染まる。


 その逆光に、一人の先客の影が大きく伸びた。

 顔も服装も眩しすぎて見えない。

 でも小柄で筋肉質で、首の太いシルエットを、俺は知っている。


「朝日に誘われましたか」


 穏やかな口ぶり。

 穏やかな低音。


「おはようございます、閑君さん」


 閑君は三脚に大きなカメラを構えて、東の空を見つめていた。


 カメラか。


 カメラな。


 俺も旅行に持ってくるべきだったな。

 インスタントなやつでいいから。


 ストローマンとか。

 成層圏とか。

 ティリザベス様の火口とか。

 すごい景色、一杯見たのにな。


 あれらは今、俺の頭の中にしかなくて。

 それは日々の生活で少しずつ新鮮さが擦り減っていって。

 思い出すことはできても。

 どこか色あせてしまうんだろうな。


 写真があればな。


 街中でカメラ売ってないか、朝食の時にサンタフェさんに聞いてみるか。

 ここにも緑のATMはあったしな。


「日の出というのは」


 不意に背中越しに落ちてきた声。

 視線は空に向けたまま、閑君は話し始める。


「瞬間瞬間で違う表情を見せてくれます」


 プロっぽい発言だ。

 経験に裏打ちされた重みがある。


 俺は目を細めて地平線を見つめる。


 ブラウン管越しにサバンナとかで見たあれが。

 現実の空気と臭いを持って、立ち昇る。


「来ますよ」


 短い予告。

 それだけで、心臓の鼓動が少し早くなる。


 まず、一瞬。


 目も眩むほどの光の圧力。


 耐えきれず一度瞼を閉じて、再び開く。


 地平線に伸びる太陽の影。

 太陽の影?

 ああ、太陽が二つあるからか!


「凄い」


 思わず零れた言葉。

 説明も理屈も追いつかない。


 光の乱反射。


 そこにあるのは赤や黄色だけじゃない。

 紫や黒も、確かにあった。


 ギラギラと肩をぶつけ合わせる光の破片。

 数瞬後、闇色は淘汰された。

 すぐに紫色も。


 黄色も隅に追いやられ、血潮のような赤の独擅場。

 滲む輪郭。


 空に空色の逃げ場なんかない。

 全てが赤に照らされる。


 最強だな!


 でもそんな赤の天下も、太陽が頭を出し切ると終わる。

 周囲には黄色が出張り、空には空色が幅を利かせだす。


 そして、陽は昇った。


 感じる目線。

 今日は乾いてないほうの眼差し。

 無視して太陽を眺めててもいいんだけど、閑君は会話を選択してきた。


「カメラ、お持ちでなかったんですね」


 図星だ。

 さっきまでの独り言を聞かれていたわけじゃないだろうに、

 まるで見透かされたようなタイミング。


「正直、出発時点では頭になかったです」


 少し肩をすくめながら答える。

 言い訳にもならない言い訳だ。


「それは残念」


 淡々とした返答。

 責めるでもなく、慰めるでもなく。


「本当に残念です」


 思っていた以上に、言葉に重みが乗る。

 後悔は、案外しっかり自分の中にあったらしい。


「ここまでの旅で、フィルムに残したかったものはありましたか?」


 試すような問い。

 それとも、ただの確認か。


「多過ぎて後悔してます――」


 言いながら、脳裏にいくつもの光景がよぎる。

 どれもこれも、もう戻らない瞬間。


「でも?」


 言葉の間を鋭く捕捉され、飲み込んでた言葉を促される。

 続きを言え、と。


「その瞬間は見て、感じることに集中してたから。例えカメラを持っていたとしても、写真に残せたかどうか」


 これは本音だ。

 逃げでも、言い訳でもなく。


「旅人はそれでいいと。それだからこそと。私は考えます」


 静かな肯定。

 その言葉に、少しだけ救われる。


「そうですかね?」


 それでも確認してしまう。

 自分の在り方を。


「私は、のお話です」


 あくまで主観。

 押し付けない距離感。


「でもカメラ。持ってきたかったです。決定的な瞬間を逃したのだとしても、その周辺とか、仲間とか、残したいです」


 今度ははっきりと言う。

 未練を。


「そうですね……」


 閑君はしばし目線を切って考え込むと。


 ほんのわずかな沈黙。

 その間に、何かを決めた気配。


 カメラの首紐を外し。


「これは魔道具です。フィルムではなく、記憶に画像を焼き付けるための」


 さらりと、とんでもない物を見せつけてくる。

 焼き付けるって、こわいな。


「じゃあフィルム要らず?」


 半信半疑で聞き返す。


「ええ、何枚でも撮れますし、専用の露光紙を使えば印刷も可能です」


 便利すぎるだろ。

 ちょっとした革命じゃないか。

 自慢かよ。


「それ、この街で売ってますかね?」


 思わず身を乗り出す。


「ワイズメンズタワー周辺では売っていましたが、ここは地方都市なので、残念ながら」


 あっさりと希望を折られる。


「そうですか……」


 肩の力が抜ける。


 じゃあ見せびらかすなよ。

 俺、貯金の半分叩いてでも手に入れようと思ったのに。


「あなたは自分のことを「逃げる方」だと分析していましたね」


 唐突な話題転換。

 けれど、どこかで繋がっている気もする。


「あなたに追い詰められた末にですけど」


 苦笑混じりに返す。


「私はね、市籠さん」


 静かに名前を呼ばれる。

 少しだけ背筋が伸びる。


「逃避が根付いている人には、旅人の適性があると思っているのですよ」


 評価なのか。

 分析なのか。


 一瞬、言葉の意味を測りかねる。


「カメラ、預けておきます。この旅が終わったら日本で返してください」


 さらりと。

 とんでもないことを言った。


「どんな画が収められているのか、非常に楽しみですよ」



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