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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
第五BF:ストローマン クイズ・タイムアタックお焚き上げ

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小さなケガレ祓い 2


 サンタフェさんは笑顔で鉄串と藁を調達して来た。

 意外にも人間族の運ぶ荷車で。


「祭儀が始まっちゃったら獣人はテコでも動きまセんからね。到着の遅れたファミリーさんや心動かされた旅人さんの為に、こういう需要もあるのでスよ」


 ここでエヘンとか言っちゃう。

 あざとい。

 でも助かる。


「どうする? セッティングまで俺らでやるか?」


 荷車を引いてきたおっちゃんの一人が気さくに声をかけてくる。

 手慣れてる。

 そりゃそうか、これを生業にしてるんだろうし。


「その場合これくらいでスね」


 サンタフェさんが電卓をぴっとこちらに向ける。

 ……電卓。

 異世界なのに、やけに見慣れた機械。

 こういうところで日本の影響がじわじわ来てるの、なんか不思議だ。

 示された金額は、思ったよりもずっと安い。

 商売でやってない感じね、このサービス。


「これ、素人が組むとどれくらいかかります?」


 なんとなく聞いてみる。

 自分でやる選択肢も、一応考えたい。


「三時間前後かねぇ」


 即答。

 なら、行けるか?


「生活魔法使い込みでの話な」


 あ、無理だ。

 普通にやったらもっとかかるやつだこれ。


「生活魔法はワタシにお任せでスよ」


 サンタフェさんが胸を張る。

 頼もしい。

 というか、この人本当に何でもできるな。

 モーリー空飛んで助けたり。

 成層圏で凍えそうな俺をぬくぬく魔法で満たしてくれたり。

 ジョブはなんだろうね?

 まさかツアーコンダクターではないだろう。


「おいくらで?」


 一応聞く。

 こういうのは確認しとかないと。


「やでスねー天馬サン。私たちともだちじゃないでスかー」


 満面の笑み。

 ……来たな。

 誘い受け。


「ともだち?」


 思わず聞き返す。


「「ともだち!」」


 サンタフェさんのみならず、横合いからハナさんが即乗っかる。

 ジェネリック女神と天然ネアカ。

 画が強い。


 そのやり取りを横目に、もう一度衿衣を見る。

 変わらない。

 炎を見つめたまま。

 反応はない。


 でも。

 拒絶もない。

 一人で離れて行こうとはしない。

 なら、今は。

 それで十分か。


 言い出したのは俺だ。

 決めるのも、俺でいい。


 責任。

 重い言葉だけど。

 今は、そういう大げさなものじゃない。


 ただ。

 ここで何もしないより、やる方がいい。

 それだけ。


「こちらでやりたいです」


 はっきり言う。


 おっちゃんたちが一瞬だけ目を細めて。


「そうよな。それが正道だ」


 感慨深げに頷いた。


「しっかりケガレ祓いなよ」


 軽く手を振って、荷車を引いて去っていく。

 背中が妙に頼もしい。


「まずは鉄芯でスね。これを立て……立て、手伝ってくだサい」


 サンタフェさんが手際よく段取りを始める。

 俺も一歩踏み出して――


 ――その前に。


 ともだちを呼ぶ。


「衿衣」


「何」


 視線はまだ炎の方を向いたまま。

 でも、ちゃんと返事が来る。

 心は閉ざされてはいない。


「聞いてたな、ケガレ祓い」


「聞いてた」


「一緒に、持とう」


 ほんの一瞬だけ、間があって。

 そして。


「分かった」



  *



 見た目よりもずっと重い鉄芯を立てたあとも、結構重労働だった。


 藁を縛って。

 形を整えて。

 プアソを吹き込んで。

 また藁を縛って。

 縛りが甘くてバラけちゃって。


「プアソって何よ!?」


「ケガレ集めの核でスよ」


「クールだ!」


「ハナさんの感性は独特でスね♪」


 藁をみんなの力を合わせて縛って。

 サンタフェさんが鉄芯の上から藁人形をひっぱり上げて。

 衿衣が肩で藁人形の腰を支えて。

 俺が肩車したハナさんが藁人形を鉄芯に固定して。


「できた……」


「出来たけど、人形っていっていいのか、この造形」


「プアソがちゃんと籠ってまスから立派な人形ですよ」


 左右の手足のサイズがバラバラで、歩行に苦労しそうな藁人形がここに完成した。


「あとはこのトーチから火を移すだけでス」


 サンタフェさんが俺に松明を渡す。

 松脂の匂い。

 目を焼く温度。

 こんな距離で「火」に対面するのはどのくらいぶりだろう。

 小学校の時のキャンプファイヤー以来かな。

 いや、手に持つという意味では初めてかもしれないな。


 なんて、思いながら。


「はい」


 俺は衿衣に松明を手渡した。


「何」


「つけてよ、火」


「これは市籠が始めたこと。市籠が火をつけるべき」


 なんか、そういうとは思ってた。

 きっと誰の為にやっているのか通じてないな、とも。

 でも、いいんだ。


「その言い出しっぺの俺が決めたんだ、やれ」


「……従うけど」


 不承不承の雰囲気。

 苦笑するサンタフェさんとハナさん。

 ハナさんでもわかることなのに。

 衿衣にはやっぱり通じてない。


 いいんだ。でも。


 衿衣が真剣に火を見つめているから。

 両手でしっかり松明を握って、まっすぐに藁人形に向かっていくから。


 ぼ、と音がした。


 火が、確かに藁人形に渡った。

 燃え広がる。


 そのとき、ふ、と。


 俺の心のどこかが。


 淀んでいた何かが。


 俺の胸から飛んで行った。


「あ」


 ハナさんの声。


 きっとハナさんの胸からも出て行ったのだろう。


 あったんだ。


 いつだって笑ってて、いつだって裏表無いハナさんにすら。


 そういう、ケガレが。


 衿衣は無言で炎を見つめている。

 睨んでいる。

 きっと憎んでいるわけじゃない。

 この子が真剣になる時は、ああいう表情になっちゃうんだろう。


 炎の進みは早い。

 それとも俺たちの時間が緩やかなのか。

 ともかく、もう胸の高さまで燃えている。


 俺たちは並んで見ていた。


 手は合わせてないけど、心では拝んでいる。


 何を?


 ケガレというわけでもない感じがする。


 命とか。


 世界とか。


 もっとおおいなる、何かを。


 言葉も無く。


 そうして、炎が藁人形の頭に差し掛かった頃。


 衿衣から、ぽそりと、零れだした。


「春。お父さんの遺品を整理してたら、日記が出てきた」


 これが多分、彼女に今、一番必要な事。

 ともだち三人は、黙って耳を傾ける。


「旅は楽しかったって。クイズも楽しかったって。友達が出来て嬉しかったって」


 ああ、そうか。


 衿衣の旅は追悼の旅で――


「だからお父さんと同じ風景が見たかった。見なきゃいけないと思った」


 父を再確認する旅で――


「そうしたら、お父さんを赦せるかもしれないから」


 もう少し重い何かを、孕んだ旅。


 頭部と共に埋め込まれたプアソを燃やし尽くし。

 小さいながらも光の柱を立ち昇らせて。

 俺たちのケガレ祓いは静かに終わった。


 俺やハナさんみたいに、衿衣の胸のいくらかが。


 軽くなってると、いいな。


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