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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
第五BF:ストローマン クイズ・タイムアタックお焚き上げ

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小さなケガレ祓い 1


「一旦荷物をロケバスに下ろしたら、バスの中かこっちのテントで寝てくれ。このストローマンにはホテルなんてもんはないからな」


 黄石は、まるで当たり前のことのようにそう言った。

 いやまあ、ここ見渡せば分かるけどさ。

 ホテルどころか、ちゃんとした建物すらほぼ無い。

 あるのは荒野と、藁と、灰と、火と、獣人。


「良い夜を」


 結界師が杖を軽く振る。

 次の瞬間。

 ――音が、戻ってきた。

 さっきまで完全に遮断されていた外界の気配が、一気に雪崩れ込んでくる。


 歓声。

 笑い声。

 酒を酌み交わす音。

 火の爆ぜる音。

 風の流れ。

 そして、獣人たちの臭いと息遣い。


 さっきまでの静謐とは、まるで別世界だった。

 命のいきれがそこかしこに溢れている。


 ケガレを焼き尽くしたあとの彼らは、祈りの存在から一転して、生きる者の顔に戻っていた。


 いや、戻ったというより。

 解き放たれた、という方が近いか。


 宴だ。

 祭りだ。

 ケガレを浄めたあとに、思いきりハレを謳歌する。

 そういう文化なんだろう。


 視線を巡らせる。

 大きな輪になって騒いでいる集団もあれば、静かに杯を交わすグループもある。

 踊ってるやつもいるし、歌ってるやつもいる。

 雑多で。

 でも、どこか統一感がある。


 ……いいな。


 素直にそう思った。


 ただ、全部が全部、賑やかなわけじゃない。

 少し離れた場所には、また別の光景があった。


 小さな藁人形。


 人の背丈ほどのそれを囲んで、数人の獣人たちが静かに立っている。

 多くても十人未満。

 集団というより、家族や身内の単位。


 彼らは言葉少なに、ただ火を見つめている。

 祈るように。

 見送るように。


 個人的な、或いは家族的な。

 小さなケガレ祓い。

 さっきの大規模な儀式とは別に、こういう形もあるんだろう。


 そして、それが燃え尽きると。

 彼らはふっと表情を緩めて、酒瓶やとっくりを手に取る。

 そして、そのまま宴の輪へと合流していく。

 切り替えが、はっきりしている。

 だからこそ。

 余計に、いいな、と思った。


「なんか、いいな」


 思わず、口に出ていた。

 その声を、ハナさんが拾う。


「すごくいいよ!」


 即答。

 目がきらきらしてる。

 ああ、この人はこういうの好きだよな。

 温かくて楽しい仲間との時間。


「すごくね」


 被せてきたのは椰子泉さん。

 でも、いつもの余裕のある声音じゃない。

 どこか落ち着かない。

 そわそわしている。

 このクールビューティーが?

 意外すぎる。


「ねえ、閑君プロデューサー」


「なんでしょう?」


「……あの宴会に参加したいのだけど」


 間があった。

 ほんの一瞬だけ。


 閑君は視線を宴に向けて、そして。


「……字義どおりの自己責任でお願い致します」


 許可、出た。

 いや、責任放棄かもしれないけど。

 でもこの状況で止めないってことは、実質OKだろう。


「なんか懐かしいわね、こういう土着露天な酒宴って」


 椰子泉さんが、ぽつりと呟く。


「そういえば椰子泉さん、バックパッカーやってたんだって?」


 どこからそんな情報を得たんだ、大渓さん。


「どっちかというと、そっちが本質かしらね」


 さらっと言うな。

 でも妙に納得もする。

 単に頭いいだけの人じゃないとは感じてた。

 シムーン見物に中東まで行っちゃうお方だからね。


「大渓さんも来るでしょ?」


「タダ酒かな?」


 この人はブレない。


「面白い土産話が出来れば、上客扱いよ」


 椰子泉さんの指には、いつの間にか翻訳の指輪。

 準備が早い。


「そういうのは得意さ」


 大渓さんも胸ポケットから同じものを取り出す。

 完全に乗り気だ。

 その流れに。

 少し遅れて。


「僕も飛び込みたいです!」


 垂須さんが手を挙げた。

 ちょっとだけ逡巡してた顔から、小さな決意を秘めた顔へ。

 一歩でも前へ。

 垂須さんのテーマ。


 楽しむを頑張ってるな。


「君もタダ酒を?」


「そっちじゃないですって」


「ははは」


 笑いながら。


 酒豪二人と大人二段階目デビューの垂須さんが、軽やかに獣人たちの宴へと足を進める。


 ……で。


 翻って俺は。


 無理だろ。


 冒険者ギルドの酒場ですら、ちょっときつかったのに。

 あれより数段プリミティブな場所に、いきなり飛び込める気がしない。

 それに。

 それ以上に。

 理由がある。


 視線を横に向ける。


 衿衣。


 じっと、小さな藁人形を見つめている。

 微動だにせず。

 その手は――

 ハナさんに、ぎゅっと握られている。

 離さないように。

 繋ぎ止めるように。


 衿衣は、振り払っていない。

 でも、応えてもいない。

 ただ、見ている。

 火を。


 そこに何を重ねているのかは、分からない。

 でも。

 今は、ここから動かない方がいい。

 ともだちから離れてはならない。

 そんな気がした。


「皆さんはどうサれまスか?」


 すっと、サンタフェさんが入ってくる。

 もう一人の友情仲間にて現地のツアーコンダクター。

 この人、ほんとタイミングがいい。


「どうしよっか天馬くん。まだ寝ちゃうのはもったいない時間だよ?」


 ハナさんが言う。

 その通りだ。

 まだ夜は始まったばかりだし。


「その前にお夕飯たべまシょうよ」


 サンタフェさんが続ける。

 ああ。

 そうだな。

 普通に腹は減ってる。


 クイズで消耗したし。

 さっきの光景で、なんか余計に。


 でも。


 ……ちらりと、もう一度衿衣を見る。

 動く気配がない。

 目は真剣で。

 でも、その奥に。

 わずかに影が差している。

 意思の光が弱まっている。


 切なさ。

 迷い。


 何かを決めきれないまま、抱えているような。

 慣れぬ感情を持て余しているような。


 ……どうする。

 放っておくか?

 いや。

 それは違うだろ。


 俺は、小さく息を吸った。


 どうすべきか。

 俺に何ができるのか。

 考える。


 考えて……


「あの、サンタフェさん?」


 サンタフェさんに向き直る。


「夕食はでスね、」


「それでは無く」


 ちょっと食い気味に遮る。


「なんでスか?」


 サンタフェさんが、きょとんとする。


 少しだけ、言葉を選んで。

 選び切れなくて。

 結局は思ったこと、そのまま口に出した。


「俺らも……ああいう小さなケガレ祓い、できませんかね?」




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