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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
第五BF:ストローマン クイズ・タイムアタックお焚き上げ

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第五BF:ストローマン 4


「あんなに真っ赤に燃え盛ってた炎も、あと僅かになった」


 唐突に、黄石がそんな言葉を放り込んできた。

 場違いなほど抒情的な声音。

 ……いや、場違いじゃないのかもしれない。

 この場自体が、そもそもそういう場所だ。

 クイズと儀式が同居している、歪な舞台。


「炎はおでこまで燃やし尽くして、あとは広がった髪の毛を燃やすのみだ」


 背後の熱が、確かに変わってきている。

 さっきまでの勢いのある燃焼じゃない。

 終わりに向かって収束していく炎。


「もう、問題も出せて4問だな」


 その一言で、空気が締まる。

 時間制限が、明確な形を持った。


 左の席の茂侍の緊張が抜ける。

 ……そうか。

 あいつ、結構積んでるのか。

 安全圏。

 だから余裕が生まれている。


 右の席の衿衣に緊張が走る。

 分かる。

 分かってしまう。

 一問も取れていない。

 そして、さっきの誤答。

 マイナス。

 状況は最悪に近い。


 俺は……

 集中だ。

 集中あるのみ。


 主観的には置物じゃない。


 ちゃんと押そうとしてる。

 ちゃんと考えてる。

 何度も挑んでる。


 でも。


 結果が出てない。


 ゼロ。


 スタート地点のまま。


 その事実は変わらない。


 それは傍から見たら置物と一緒だ。

 そして社会は傍から見た視線で成り立っている。

 評価は過程じゃない。

 結果だ。


 だったら――


 あと四問じゃない。

 まだ四問ある。

 その中で一問。

 たった一問でいいから、食い込め。


 バトルフィールドを勝ち抜くとか、そういうことじゃない。

 早押し形式で。

 あの無力感を払拭する機会が巡って来た。

 あの後悔を上書きできる状況が転がって来た。


 だから。


 勝ち負けじゃない。

 そんなのは後回し。


 押して、正答する。

 大事なのはそれだ。


「問題。」


 切り替えろ。


「ニューシャック借款――」


 この時点で分からない。

 聞いたことがあるような、ないような。


 でも、ここで捨てるのは早い。

 後半で形が変わるかもしれない。

 問題文は、罠だ。

 これまでの短いウルティモの戦いで、俺は散々その事を思い知っている。


「において貸主になったのはキャバリア帝国。」


 キャバリア帝国。

 ……ああ、知ってる。

 異世界近代史。

 レークランドのかつての宗主国。

 歴史の流れが頭の中に浮かぶ。


 じゃあ答えはレークランドになるのか?

 でも――

 綱引きで十継嗣の乱を問うておきながら?


 あの時の問題文のひねり方。

 あの読み上げ方の性格の悪さ。

 大渓さんの勤務先の例もある。

 単純に来るとは限らない。


 ここは「見」だ。


 直感が告げている。

 まだ曲げてくる。

 ここで押すのは危険。

 焦って自滅するよりましだ。


 単にボタンを押すだけなら猿でも出来る。

 俺はボタンを押して、正答したいんだ。


「借主に――」


 ポーン!


 誰が来た?

 判断早計じゃないか?


「波名真くん!」


「レークランドっす!」


 ブー!


 やっぱりか。


「あれ!?」


 ボーイの声が裏返る。


「貸主にレークランド、では調印が行われたのはどこ、だ!このうっかり者」


 ああ、そういうひねり。

 設問ひっかけ箇所が二段あった上に、国名じゃなくて地名。

 これは最後の最後まで聞かないと分からない問題だったわ。

 見送って正解なやつ。


 それにしても……

 穂積たちも押した雰囲気無いってことは、この問題をちゃんと聞き分けてたってことか。

 やるな。

 いや、俺みたいな素人でも気づく構造の問題、やつらの経験値からして気づかないわけがないか。


「……っす」


 悔しそうに言葉を呑むボーイ。

 恐らくこいつはソサエティー所属ではあるが、ピカピカの一年生。

 クイズ経験では半年程度の奴なんだろう。

 前のめりになったら引っかかってしまうのもやむなしか。


 それにしても――

 問題が二極化してるな。


 単純に即答できるやつ。

 最後まで聞かないと危険なやつ。


 どっちかだ。


 ここに、タイムアタックという特殊なクイズ形式としての文脈。

 それを重ねて見つめれば、なんか、黄石の意図が見えてくる気がする。


 焦らせている。

 揺さぶっている。


 それでも10分である程度以上の問題を読み上げて、挑戦者の獲得ポイントをばらしたい。

 そんな意図。


 黄石の後ろで閑君がホイッスルを咥えた。

 スタッフたちがあわただしく動き出した。

 終わりが近い。

 物理的にも。

 時間的にも。


 黄石は言っていた。


 あと出せて四問。

 出したのは一問。

 しかも長文問題。


 あと多くて三問、少なくて二問。


 ――短い。

 短すぎる。


「問題」


 だったら。

 ……来るんじゃないか?


 単純な方の問題が。

 立て続けに。

 時間的な帳尻を合わせる為に。


「シャーロックホームズの特徴的な衣装。帽子の名称は?」


 短い。

 来た。


 ポーン。


「荒火!」


「鹿撃ち帽」


 ぴんぽん。


 速い。

 迷いがない。


 が。


 やっぱり来た、短問。


 黄石の声に若干の焦りが感じられる。

 巻いている。

 時間に追われている。

 でも、「出せて4問」と自分で宣言してしまった。


 なら――

 速攻で行く。

 分かる気配があったら、迷わない。

 解答の機会は、逃さない。


「問題。」


 俺は置物じゃない。


「中性四部合唱の事を――」


 ……知らん。

 これは無理だ。

 知識がない。


「俗になんと言う?」


 ポーン。


「港ヶ陸くん!」


「ツッペロ」


 ぴんぽん。


 穂積。

 迷いゼロ。

 あいつはもう、完全にリズムに乗っている。


 あと一問。


 来るか?


 来ないか?


 時間は――


 ギリギリ。


「問題。」


 来た。

 最後だ。


「やすなが」


 苗字か。

 地名か。

 それ以外か。


「なが」


 ながとながが被った。

 黄石程のアナウンサーが噛んだり読みトチりをするはずない。

 だから正しく問題は。

「やすなが」と「なが」が並列された。


 共通項は何だ?

 記憶のどこかに引っかかる「何か」。

 それを引きずり出せ!


「たて――」


 たていし。


 立石。


 安永。


 なが。


 瞬間的に連想が繋がる。


「――いs――」


 バシ!


 身体が先に動いた。

 考えるより早くボタンが叩けた。


 ビシバシドン!


 背後から、向こうから、斜め奥から。

 3つの打釦音。


 どうだ?

 いけるか?

 いったか!?


 ポーン!


 ハットの重心が動く!

 押し勝った!


「市籠くん!」


 名前が呼ばれる!


 来た!


「餅!」


 思考より先に、口が動いていた。


 これらに続く三重県の名物は何か?

 そう続く。

 その読みに一点賭け。


 だが、安永、なが、立石。

 こんな特徴的な単語が三つ並べられて、これ以外の回答は無い。


 無い筈!




 ――ぴんぽん!




 無機質なチャイム音が響いた。


 当たった。

 入った。

 一ポイント。


 たった一つ。

 でも――

 ゼロじゃない。

 置物じゃない。

 その事実が、重い。


 乗り越えた。

 燃やした。

 その実感に震える。


 おそらくこの体の震えは。

 勝利の喜びとかじゃなくて。


 解放の感動。


 そういうことだろう。


 閑君のホイッスルが結界内にこだまする。

 ピーーーーッ!


「さあ、後ろを見てごらん」


 黄石の声に促されて、俺は素直に振り返る。

 巨大藁人形が、ちょうど髪まで燃え尽きた瞬間だった。

 次の瞬間。


 真っ白な光の柱が天を貫く。


 一直線に。

 どこまでも昇っていく。

 音はない。

 ただ、光だけがある。


 魂が全力であの光の柱を受け止めている。

 受け止めきれなかった分が間の抜けた声となってあふれ出た。


「はえーー」


 時間にして僅か数秒。

 それだけで、全部が終わった。

 空は完全な暗闇と星の領域。


 あとは静寂。

 満点の星空。


 俺の心に巣食い続けてた無力感を焚き上げて。

 情けなさしか感じなかったかつての自分を光の柱に昇華して。


 第5バトルフィールドの戦いは終わった。



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