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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
第五BF:ストローマン クイズ・タイムアタックお焚き上げ

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72/120

第五BF:ストローマン 3


 椰子泉さんが抜けてからのクイズは、時間が0.5秒遅くなったようだった。


 いや、正確には違う。

 遅くなったんじゃない。

 見えるようになった。


 それまでのクイズは、流れそのものが速すぎて、

 誰がどう押しているのかすら把握できなかった。

 でも今は違う。


 押す音。

 名前を呼ばれる間。

 解答が出るまでの呼吸。

 全部が、ほんのわずかにだけど、認識できる。

 たったそれだけの差。


 でもその差が。

 俺も参戦できるかもという錯覚を生むには十分だった。


「荒火くん!」


「涙の川を越えて」


 ぴんぽん!


 低く、迷いのない声。

 キング――荒火。

 押すタイミングも、答える声も、全部が完成されている。


「穂積くん!」


「いっそ泣いてくれたら」


 ぴんぽん!


 間髪入れない。

 穂積。

 ……港ヶ陸。

 あいつは、もう完全にその領域にいる。


「墨市くん!」


「シングルベル」


 ぴんぽん!


 俯きがちで影の薄い男だがクイズは強い。

 関西クイズソサエティ・ナンバーツー。

 肩書は伊達じゃないことを、俺はこの時初めて知った。


 椰子泉さんが抜けたあとは、このクイ研三人衆が競いだした。

 しかもただの取り合いじゃない。

 精度の高い殴り合い。


 互いに分かってる。

 互いに速い。

 その上で、さらに上を行こうとしている。


 相変わらず俺が割って入る隙が無い。

 でも――

 さっきよりは、まだ見える。

 見えるんだ。


 見えるんだから、届くはず。


「問題。」


 一呼吸。


 ほんの一瞬の静寂。


「非国民総生産を表す指標――」


 ぽーん!


 早い。


 このタイミングで押すか?


 椰子泉さんの再来か!?


 一体だれが――


「あ、間違っちゃった」


 ……は?


 声のトーンが、軽い。

 緊張感がない。

「あ、間違っちゃった」ってなんだよ。

 視線を向ける。


 ハナさんか!?

 さては緊張でやらかしちゃったな?

 いや、それとも――

 逆に緊張感が切れちゃった?


「さあ答えなさい」


「あーでもわかんないよー!?」


 おい。

 おいおいおい。

 マジで押しミス?


 ブザー押し係がブー音を短く、ブッ、ブッ、と出している。

 カウントダウン。

 あと何回か鳴ったらタイムアップなのだろう。


「勘で答えろ!」


 黄石が煽る。


「じゃあ日本!」


 ぴんぽん!


 ――は?


「「ええ~~!?」」


 一瞬、空気が歪んだ気がした。


「うそぉ!?」


 ハナさん、両てのひらを口元に持ってく。

 本人が一番驚いてる。


「ほらぁ、言ってみるもんだ」


 いやそういう問題じゃないだろ。

 でも、入ってる。

 正解してる。

 これがFORTUNE値三ケタの幸運……!


 理屈が通ってない。

 でも結果が出てる。

 それが一番厄介だ。


 いかん、また傍観入りかけてた。

 視線が外に逃げてた。


 集中。


 戻せ。


 ここは観客席じゃない。


「問題。」


 集中。


 耳に意識を集める。


「大手新聞四社。トキメキ、」


 ……?


 一瞬、引っかかる。

 聞いたことある。

 新聞社。

 紙面名でもある。

 日本四大新聞とか。

 みんな大好き四天王。


「ハリキリ、」


 あとは――


「彷徨える未来」「夢いっぱい」だな。


 頭の中で並ぶ。

 でも同時に疑問も湧く。

 こんなストレートな問題、来るか?


「夢い――」


 バン!


 反射で押した。

 いや、押そうとした。


 でも。


 ハットの反応無い。

 押し負けたか……


「垂須くん!」


「彷徨える未来」


 ぴんぽん。


 ……やっぱりか。

 一歩遅い。

 毎回、ほんの一歩。

 その一歩が、致命的。


 まあ、垂須さん。

 公務員ならわかって当然か。

 情報処理能力が違う。


 というか――


 というか大渓さん。

 あなた彷徨える未来新聞社勤めでは?


 視線を送る。

 案の定、微妙な顔してる。


「大渓さーん。なんでここ取れないのかなぁ」


 黄石が煽る。

 タイムアタック中ではあるけど、テレビマン。

 こういうのは逃さない。


「やー、裏読みすぎちゃいましたね。俺がいるのにこんなサービス問題、出るはずないって」


 苦笑い。

 でも、その言葉にはリアリティがある。

 確かに。

「大渓がいるなら出さないだろ」っていう読み。

 それが外れる。

 そういう構造。

 裏の裏。

 あらゆる道筋で俺たち挑戦者を翻弄する。


「あなたも二ポイント取ってるからって余裕だな!」


 え、いつの間に?

 マジで見えてなかった。

 てことは、椰子泉さん暴走の時点でポイント取ってたんだ、大渓さん。

 学生には負けないかなという軽い自信は本物かもしれないな。


「問題。」


 俺、切り替えていけ。

 一問逃したら終わりじゃない。

 まだ時間はある。

 まだゼロだ。

 でも、ゼロだからこそ――


 一問の価値が重い。


「ミグファ独立政権が樹立――」


 世界史。

 来た。

 得意なやつ。

 これは分かる。


「したのは――」


 バン!


 押した。

 今度は確実に。

 1872年だ!


 頭の中で即答が出る。

 これは取れる。

 そう確信した。


 しかしハットは動かず!


 ……え?


 遅い?


 いや、そんなはず――


「衿衣ちゃん!」


 またしても。

 またしても押し負けた。


 問題読み上げの途中だったのに。

 他のクイズ強者からの打釦音は響かなかったのに。

 たった一人と競り合って、たった一人に競り負けた。


 だが。


「1872年」


 ブー!


 ……え?

 一瞬、理解が追いつかない。


 なんで?

 樹立は1872年、間違いないだろ?

 世界史用語集で6ポイントついてる年号だぞ?


「樹立したのは1872年ですが、崩壊したのは何年か……だよ!」


 あ。


 やられた。

 完全に前のめりミス。

 引っ掛け問題というほども無い書式にやられた。

 そりゃそうだ。

 いくら短文問題だとしても、20文字前後の問題文なんて出るわけ無い。

 ちょっと考えればわかる事。


 でも、解答を求め、焦る競技の場では。

 そのちょっとの別視点を持てない。

 持ってしまったら集中力が乱れる。

 トレードオフ。


 ……助かった。

 もし俺が押し勝ってたら俺にマイナスがついてた。

 高速で回転してるクイズの嵐の中、

 次に俺が押せる機会がいつ巡ってくるかもわからない状況で。


 それは、致命傷になるところだった。


「問題は最後まで聞こうな衿衣ちゃん!」


「……はい」


 黄石の煽りに、衿衣が短く答える。

 表情は変わらない。

 でも。

 その前の、ほんの一瞬。

 ほんの一瞬だけ、目が揺れた気がした。

 真っすぐに前だけを見つめている、衿衣の目が。


 衿衣にマイナスがついた。


 確か……

 俺の記憶があってるなら。


 衿衣もこれまで一問も正答してないよな……?


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