第四BF:ワイズメンズタワー 6
「じゃあ行こう。この魔法、でっきるっかな?」
カウントダウン。
火、難しい顔。
水、完全停止。
土、ぐぬぬ。
……火と土は無理。
残りは、水か風。
風はさっきの感じで間違いなく行ける。
水が――分からん。
でも、動かない。
揺れもない。
三問目もそうだった。
自信があるから揺れないんだ。
よし。
答えは2。
「さん、にー、いち。ホールドアップ!」
掲げる。
「今度は2が大人気だな。次いで1と」
まあ、土見てたらそうなる。
「そろそろ通過者が出てもいい頃だが……この魔法、でっきるっかな?」
「出来んの」
「行けますね」
「イジワルな問題じゃ!」
「風の本領発揮といくかのう」
よし。
自己申告では勝利!
あとは実証。
頼むよ水。
分体カンニングとかみたいな裏筋で達成しようとするんじゃないぞ。
「じゃあ自信満々の風の賢者様からお願いしよう!」
鳥籠を受け取る風。
と同時に鳩、一瞬の煌めき。
「ほれ、もう鳥ちゃん見えんじゃろ?」
籠の中は風の賢者の申告通り、空。
鳩、消えてる。
「そんで、ほれ」
鳥籠を開ける。
バサバサと羽ばたく音だけが聞こえる。
「ミラージュオフじゃ」
ふっと空間が歪む。
籠の外に現れた虹色の鳩。
そのまま、空へ。
高く。
青の中へ溶けるみたいに飛んで行った。
「「「おおーー」」」
歓声。
これは分かりやすい。
綺麗だ。
風の賢者のツラと反比例してる。
「お見事! 今のは?」
「風を屈折させて、鳥の周りに空間の幻影を付与したのじゃな」
さらっと言う。
でも、やってることは派手。
「次は水の賢者様。お願いします」
「心得ました」
水が、鳥籠を抱く。
で。
ずぶずぶ。
え?
そのまま、自分の中に。
鳩ごと納めていく。
取り込んでゆく。
いや待て。
待て待て。
鳩は鳥籠の中でばたばたしてる。
水の塊に飲み込まれまいと羽ばたき、暴れる。
それが見える。
透けてる。
取り込む。
鳥籠ごと、全部。
暴れる鳩が水賢者の胸元を漣立たせる。
「では、水の色味を変えましょう」
宣言と同時に、水賢者の全身が、海の深さを思わせる濃い青色に染まり。
「見えなくなりましたね?」
いや、まあ。
そうだけど。
そうだけどさ。
「では出します」
胸に手を突っ込む。
ぐっと鳩を引きずり出す。
ぽいっと放る。
ぺちょ。
鳩、落ちる。
動かない。
「……うわ」
誰かが、ぽつりと漏らした。
……やばい。
これ、放送事故だ。
「救急車を!」
黄石、焦る。
「あら、窒息しちゃいましたね……賦活!」
水賢者の手がキラキラと光って土鳩にイン!
土鳩は水を吐き出すと、一目散に飛び去った!
まあ、そうなるよな。
あんな目に遭った直後だ。
そりゃ一目散に逃げる。
というか、逃げない方がおかしい。
「良かった……死んだ鳩はいないんだね」
誰だ今の。
男の声だったぞ?
それより君は気にならなかったか?
助けられたはずなのに、全然安心できる絵面じゃなかったろ。
むしろ逆だ。
助け方が、怖い。
壊れた道具を直しましょう的な命の扱いの軽さを感じなかったか?
「条件は満たしましたよね?」
水の賢者が、そう言った。
声は穏やかだ。
怒っているわけでもない。
強くもない。
でも、圧がある。
静かな圧。
逆らえない類のやつ。
逆らったら「分かっていますね?」ってなるやつ。
じわっと、場の空気が重くなる。
さっきまで笑っていたギャラリーも、今は妙に静かだ。
「ええ、まあ、その……」
黄石が言葉を濁す。
珍しく、歯切れが悪い。
「できたもん、ですよね?」
追い打ち。
やわらかい口調のまま、一歩踏み込んでくる。
逃げ場を与えない確認。
……怖いな、この人。
いや、人じゃないけど。
人じゃないからこそか。
水の賢者。
静かで、丁寧で、理性的で――
その全部が、逆に怖いものに感じられてくる。
「……正答は2!」
黄石、折れた。
まあ、仕方ない。
閑君も丸出してるし。
「大渓さん、衿衣ちゃん、市籠くん。おめでとう!」
あ、通った。
なんか、あっさり。
そうだよ俺、2を選択してたんだった。
水賢者に怯えてクイズの事忘れてたよ。
「大渓さん、勝利の秘訣はなんだった?」
「まー、カンかな。あと度胸」
勝者への一言取りが始まっていた。
大渓さんの言葉はとても軽い。
でも、たぶん言ってることは本当。
『ブン屋のカンを錆びさせたくなくてね』
その為に、彼は毎朝日本の新聞を自腹で取り寄せてるくらいだから。
「衿衣ちゃんは?」
「ハナの真似」
即答。
潔い。
「新人類はどうだ?」
振られる。
「俺も、舞網さんの真似で。表情追ってました」
正直に言う。
実際そうだし。
「やるねー家事手伝い。二人も勝者へ導いちゃった」
ハナさん、すげえな。
ほんとに。
「さ、師匠にありがとうって言っておいで」
黄石に背中を叩かれる。
勝者席のハナさんの元へ促される。
メダルプレゼンターのモノアイ魔女っ娘ちゃんに勝者メダルをかけて貰って。
なんか翻訳の指輪でも理解できない魔術的祝福をしてもらって。
ようやく勝者席に着いた時。
ハナさんは、ぷくーっとほっぺたを膨らませていました。
……なんで?
不満顔でお気持ち表明。
でもなんで怒ってるのかわからん。
友達ならやり口盗作するなよということか?
でもそんな怒りはハナさんっぽくないしな……
「ともだち!」
彼女なりに語気を荒らげて意思確認。
「ともだち」
それは本当。
得難い友だ。
ボディタッチはほどほどにしていただきたいけど。
男の子なので。
「なのに天馬君、舞網さんって言ってた! ハナさんじゃなくて!」
そこか。
そこなのか。
呼び方に距離感じちゃったのね。
でもさあの時カメラ回ってて。
つまりは放送されるであろう状況だったわけね?
そこでさ。
ハナさんとか親し気に呼んじゃうとさ、ほら。
俺の常識力が疑われるか、二人の仲が邪推されるか。
そういう懸念があるじゃない?
などと言い訳を纏めておりましたらば。
横から衿衣が一言の元に束ねてくれました。
「市籠は礼儀正しいだけ」
流石衿衣だ。
切れ味鋭いぜ!
「でもこよいちゃんはハナを呼び捨てだったよね」
「私は無礼なだけ」
動じない。
誤魔化さない。
言葉はいつだって短く、鋭角に。
これが衿衣こよいっていう少女だ。
かわいいよね。
かわいくない?




