第四BF:ワイズメンズタワー 5
「どんどん行こう! 次はこの映画から!」
黄石がテンポを上げる。
さっきまでの雪とか超能力とか、ああいう分かりやすい魔法から一歩進めてくる気配。
で、映ったのは時代劇。
……いや、違うな。
黒装束が多すぎる。
手裏剣が乱れ飛んでる。
ああ、あれだ。
忍法帖ってやつ。
妙にグロいことも平気でやる、ちょっと大人向けの。
画面の中で、糸目の男が顔をぐにぐに揉む。
輪郭が歪む。
骨格ごと変わるみたいに。
で、別人の顔になる。
うわ、これ。
今見ると結構気持ち悪いな。
「これを実現?」
誰かが言う。
土とかなら、やれそうな気もする。
身体の形を変える、って意味では。
でも―― あれ?
画面、まだ止まらない。
鼻毛で刀握ってるやつ出てきたぞ。
さすがにこれはやらせないだろ。
……と思ったら、次。
ふんどし一丁の巨漢。
壁の前に立つ。
いやな予感しかしない。
おい、脱ぐな。
やめろ。
ふんどしまで脱ぐな。
で、そのまま巨漢は、壁に、潜水するみたいに入っていく。
ずぶり、波紋を起こして。
やがて完全に巨漢は壁に没した。
と、思ったら。
壁土が巨漢の顔の形を作って、ニヤリ。
そこでようやく、画面停止。
「ヌードになれとはいいません。さて賢者さん。この魔法、でっきるっかな?」
黄石、余計な一言を添える。
まあ、確かにそこはやらせないか。
「確認じゃ!」
土の賢者がぴしっと手を上げる。
ドレスの裾がひらっと揺れる。
「これを実証するとき、壁は自前で用意してよいかの?」
ああ、そう来るか。
確かに、それでだいぶ難易度変わる。
……のか?
のだろうな、聞くからには。
「協議!」
黄石が即座に振る。
遠くの閑君。
無表情のまま、何人かと短く相談。
二十秒くらい。
その間、妙に静かになる。
で、結論はバツ。
「こちら、広場の外壁を使用してもらいます」
「わかったのじゃ」
土の声、ちょっとだけ沈む。
ああいう顔されると、なんか飴ちゃんあげたくなるな。
年齢関係なく。
その丸めた背中の横で、水がびくっと揺れる。
珍しくビビッドな反応。
「カウント開始」
タイマー音が鳴る。
火は腕組み。
風は――鼻ほじってる。
水と土は前述のとおり。
あ、これゼロだ。
できる気配が、まるでない。
むしろ、さっきより分かりやすい。
これはボーナス問題だな。
賢者たちも、わりと正直に顔に出すタイプだって分かってきた。
だったらゼロ。
迷わず極端解答を選択。
みんな、ぺらぺらめくる音。
うーん、と悩みが漏れる声。
なるほど。
インスピレーション。
考えてしまったら時間が足りなくても、
パッと閃いてしまったら10秒も必要無いんだな。
よく考えられた時間制限だわ。
「さん、にー、いち、ホールドアップ!」
紙を掲げる。
「こっれは……」
黄石の顔、ちょっと苦い。
「あー、ゼロと2で真っ二つか。まあ、中には一部天邪鬼もいるけどな? その反骨心、吉と出るか凶と出るか」
いや、これは素直でいいだろ。
さすがに。
でもゼロが選ばれがちってことは皆も顔色伺い戦法に舵を切ってきたのかな?
それと、2の奴らは何をどう見て二人行けると思ったんだろうか。
変にひねる必要ない。
なんか、分かる。
一問目のハナさんの感じ。
「これだ」っていう、変な確信。
「この魔法、でっきるっかな?」
四賢者全員同時に、首を横に振る。
ナイナイのジェスチャー。
揃ってる。
迷いなくできませんを伝えてくる。
「一々名前は呼ばないが5名さん1ポイント!」
よし。
拳を軽く握る。
リーチ。
あと一つ。
「風の態度ブラフじゃなかったかー」
白山さんの声。
ああ、この子、たぶん裏読みしたんだな。
ちょっと分かる。
でも今回は、素直が正解だった。
そして今後も素直な表情は続くだろう。
だって彼等は揃ってツワモノで。
姑息な演技なんてする必要のない人たちなんだから。
俺はそう分析して。
その分析に従って、今後も素直に表情を読むことに決めた。
「次はマジックからの出題だ」
映像が切り替わる。
派手なステージ。
キラキラした衣装。
バニーに近いお姉さんたちが、笑顔で踊ってる。
シルクハット。
ステッキ。
ああ、完全にマジックショー。
帽子の中、何もないアピール。
で、かぶって。
踊って。
忘れた頃に、帽子を取る。
ばばばばば!
一斉に飛び立つ鳩。
帽子を再び被って、いい笑顔でステッキを回す。
よくあるやつ。
……って思ったのに。
「なにが起きた!?」
「ありえません!?」
「あの鳥、マジで生物じゃったぞ!?」
「意味がわからんぞい!?」
賢者たちが騒いでる。
本気で狼狽してる。
え、そこ?
逆に?
いや、でも。
こっちは「魔法」が普通の世界。
だから「トリック」って文化が発展してないのか。
そういう理解でいいのか。
妙な納得。
「生命創造の禁忌……」
「アポーツなら帽子は透過できぬはずじゃしのう……」
なんか、やばい単語が混ざってる。
「四賢者さま、四賢者さま。回答者たちにあまりヒントを与えないでくださいな」
黄石が慌てて止める。
「承知したぞい。ただ一点、確認させてほしいのじゃが」
「なんでしょう?」
「あの帽子の中で生命創造はしておらんのじゃな?」
「そーんな高度な技術、我々は持ち合わせておりません」
「ならば許そう」
許そう、って。
基準が怖い。
許されなかったら俺たちは、地球は。
彼等にどうされてたというのだろう?
はい、やめやめ!
怖い考え育てるのはやめ!
「なので、こちらに現地の鳩っぽい鳥を四羽ご用意しました!」
スタッフが持ってくる。
真鍮かなんかの鳥籠。
中に閉じ込められているのは、虹色の鳩。
現地生物。
……派手な色味だな。
オウムとかインコとかのシルエットなら飲み込めるけど、
ぽっぽっぽがこんな色してると逆に違和感が凄い。
「賢者様方におかれましては。この鳥を見えないように保持して頂き、我々の前で見えるように解き放って頂ければ結構です」
「見えなくしてから、見えるようにすればいいんじゃな?」
風が確認。
あ、こいつ分かった顔してる。
「そうです」
黄石、ちょっとしまった顔。
今の、ヒントだな。
一人は確実にできる。
問題は、もう一人いるかどうか。
「じゃあ行こう。この魔法、でっきるっかな?」




