第四BF:ワイズメンズタワー 4
「むふふ……みんな苦戦してるなぁ。僕は君らがそうやって苦戦してる姿を見るのがもう、楽しみで楽しみで。だからこんな過酷な旅に付き合ってるって言っても過言じゃない!」
黄石が、心底うれしそうな顔で言う。
つやつやだ。
顔もスーツも、なんか全部。
……これ、冗談っぽく言ってるけど、たぶん本音だろ。
この人、そういうとこある。
「わかるー」
ぽそっと、隣から白山さん。
いや、分からないでほしい。
ほんとに。
共感されると余計にしんどい。
「第三問は、超能力から出題だ。この映像、どうぞ!」
スクリーンが切り替わる。
出てきたのは、シンプルな図形。
丸とか、星とか、波線とか。
カードに描かれたやつ。
ああ、これ。
昔、テレビでやってたな。
向こうが引いたカードを当てるやつ。
エスパーなんとか。
名前は忘れたけど、やってることは分かる。
……で、これを。
魔法で再現できるか?
画面が止まる。
「この魔法、でっきるっかな?」
考える。
いや、考えても分からん。
さっきの雪と違って、こっちは情報だ。
見えないものを見る。
透視?
いや、でもそんな便利なもんあるのか。
ハナさんの顔色見てた発言を思い出して、ちらっと賢者を見る。
火は、腕組んで眉間にしわ。
風も、珍しく静か。
水は、相変わらず揺れてるだけで読めない。
で、土。
あいつだけ、ニヨニヨしてる。
あからさま。
……いや、逆に怪しいか?
「さん、にー」
時間切れ秒読み。
ええい、もういい。
土は行ける。
水がやるかどうかの勝負。
「ホールドアップ!」
今度はちゃんと、2。
紙の感触が指に残る。
「ほー。またしても2に集まってるな……おっ、今度はゼロが一人いるぞ……ここでゼロならもう一人勝ち抜けか……さあ、賢者様、でっきるっかな?」
ゼロがいる。
よくもまあそんな極端な選択肢を。
誰だ。
勇気あるな。
「儂では無理じゃな」
「てゆーか誰も出来んじゃろ?」
火と風が、あっさり白旗。
よし。
よしよし。
ここまでは予想通り。
あとは水と土。
どっちかがやれば――
「じゃあ実践してもらおうかな?」
黄石が手を叩く。
スタッフが動く。
運ばれたのは丸テーブル。
そして、でかいカード。
黄石が背中を向けて座る。
俺らにカードが丸見え。
カメラさんも移動してこの方向。
対面に、水の賢者。
揺らぎが無い。
動きも無い。
うん。
これ、普通にいける流れだろ。
「水賢者さん。このカードは何ですか?」
「マルですね」
即答。
「ではこちらのカードは?」
「バツですね」
淡々と。
迷いゼロ。
「そこはペケと言って欲しかった……が、実証!」
会場がざわつく。
見えてる。
どう見ても。
カード、完全に当ててる。
……マジかよ。
どうやって水魔法で透視を実現するんだよ。
って。
出来る方に賭けてたのに、いざあっけなく実現できてる様を見ると混乱する。
じゃあ、土も――
「では次は土のお嬢さんおねが――」
「一つ尋ねたいのじゃが」
割って入ったのは、火の賢者。
声のトーンが、さっきまでと違う。
ちょっとだけ、硬い。
「なんでしょう火の賢者様」
「この設問の核は、見えない図形を当てる。そうじゃな?」
「ええ、ご覧の通り」
「でもな。見とるぞ。水のは」
空気が、止まる。
一呼吸。
二呼吸。
……半呼吸。
「………………え?」
黄石の声が、間の抜けた音になる。
観客も、静かになる。
「んほぅ?」
風も首をかしげてる。
「あんたの肩に、ちーちゃな分体をのっけて、そこから意識共有しとるぞい」
炎の賢者が指さしたのは黄石の右肩。
分体?
意識共有?
頭の中で、同じ音が反響する。
え?
「………………え?」
黄石が、もう一回言う。
俺もたぶん同じ顔してる。
周りも、たぶん全員。
これ、かなりレアというか、凄いことなんだろう。
魔法に満ち溢れた異世界においてすら。
だって。
絶句の沈黙してるのは俺ら地球人側だけじゃなくて。
現地の野次馬観客や露店の店主たちまで含めてだもん。
「そういえば水賢者様は登場の時に『腰をイワしたから分体で失礼』とか言ってたね……」
大渓さんの呟きが、静まり返った広場に染み渡る。
伏線はしっかりあった。
それを為せるだけの土壌が。
そういうことか。
黄石の視線が泳ぐ。
助けを求めるみたいに。
で、閑君。
無言。
でも両腕で、ばつ印。
「水賢者さん、ごめんなさい! それは反則です!」
黄石は最高責任者の判定を取り入れ、即座に切り替え。
両手を合わせて、水の賢者を拝む。
「失礼。少々勘違いをしておりました」
水は、あっさり引く。
波打つ体が、すっと元の位置に戻る。
すたっと立ち上がってゲスト席に水平ムーブ。
今の、完全にアウトだろ。
でも本人、全然悪びれてない。
ルールの外から殴ってきた感じ。
「……あのー。儂もプチゴーレムを後ろに回してサイン送ってもらうつもりなのじゃが」
土が、手を挙げる。
さらっと言うな。
「それも反則ですね」
即答。
そりゃそうだ。
「設問が見えないものを見るじゃからな。しかたあるまいよ」
火がまとめる。
ああ、なるほど。
つまり。
賢者たちは、こっちの意図とルールに乗ってくれると。
正面突破だけで進めますよ。
抜け道は禁止ですよ。
そういう確認と合意が、ここで為された訳か。
「と、いうことは?」
黄石が振り返る。
ざわざわと、空気が動く。
「ゼロを選んだのは?」
誰だ。
ゼロを選んだやつ。
「椰子泉さんおめでとう!」
納得感が強い人だった。
やっぱりあなたはワイズメン。
「楽しいクイズだったわ」
いつもの調子で言う。
淡々と。
でも、ちゃんと抜けてる。
「しかしゼロ人なんてよく当てたねー」
「私の持ってる魔道知識だと、達成できる方法が見いだせなかったから」
魔道知識。
地球では聞かないワードをさらっと言う。
この人、いつの間にそんなもん仕入れてたんだ?
「まあ、私が適性を知ってから調べ始めただけの、付け焼刃なんだけどね」
ステックソンのジョブ判明から3日。
謙遜なくマジで付け焼刃。
それなのにこれ。
なんか、世界が違う。
「付け焼刃で勝ち抜けできるんだから大したもんだよー。いよっ! 流石ワイズメン!」
黄石が持ち上げる。
観客も沸く。
その中心で、椰子泉さんは特に変わらない顔してる。
……ああ。
こういうのが、差なんだろうな。
知識とか、勘とかじゃなくて。
前提。
視座の高さが違う。
見える広さが違う。
もしかして。
ひょっとして。
この人、荒火や穂積なんかより、ずっとクイズが強いんじゃないか?
「ぐむぅ」
解答席の向こう端から聞こえる荒火の唸り声。
第三問終了。
勝ち抜け、十四人。
残り、十一席。
で。
俺たちは、まだゼロ。
横一列。
誰もまだ、何も掴んでない。




