第四BF:ワイズメンズタワー 3
「まずはこの懐かしいアニメーションをご覧ください」
でかいモニターに映ったのは、見覚えのある絵柄だった。
ちょっと古い、あの独特の線。
夕方五時とかにやってたやつ。
夏休み、扇風機しかない部屋でだらっとしながら、なんとなく見てた記憶。
弟と一緒に、ポテトチップスの袋を空にしながら。
――ああ、こういうの、妙に覚えてるな。
妖怪もの。
妙に説教くさい回もあって、でもたまにやたら色っぽいキャラが出てくる。
雪女の従者、いたな。
あの子、なんか人気あった気がする。
で、その雪女が画面の中心に出てきて。
『あっちへ行って! やー!』
手のひらを突き出して、雪を噴き出す。
そこで、ぴたりと画面が止まる。
「この魔法、でっきるっかな?」
黄石の声が、わざとらしく軽い。
同時に、どこかでカチカチと音が鳴る。
カウント。
十秒。
短い。
えっと、モノは雪。
つまり冷却。
火は違う。
いや、でも熱操作で逆に奪うとか……
いや、でもそれって先んじて水とか用意してないと……
「さん、にぃ」
制限時間短い!
思考がまとまらない!
とりあえず――
直感で2。
って思った瞬間。
「ホールドアップ!」
ぺらっとめくった数字は―― 1。
あ、ズレた。
手の動きが一瞬遅れた。
「拙僧あと20秒の延長を希望する!」
「あーもー! あーもー!」
あちこちから不満が飛ぶ。
まあ、そりゃそうだ。
十秒で賢者の能力測れって言われても。
でも。
だからこそインスピレーションと銘打ってるんだろうな。
思考によって答えに到達させないために。
「はい、めくったシート頭上に掲げて!」
腕を上げる。
当然、周りは見えない。
見ちゃいけないルール。
だから情報は、黄石経由だけ。
「ほー。けっこう2に集まってるな……ちなみに1と4は二人ずつ。ゼロはいないぞ」
いきなり少数派。
まあいいけど。
どうせ勘だし。
「さあ、賢者様、この魔法、でっきるっかな?」
黄石態度軽いなオイ!
賢者様方一応世界のレジェンドなんだろ?
ご勘気に触れたらどーすんのかね?
「当然じゃな」
「基本ですね」
「そこらの野良でも余裕じゃろ」
「氷だったらアウトじゃったがのう」
でも、賢者様方、気にしてない。
あと返答も軽い。
軽すぎる。
「なんと四人全員~~!」
マジで?
いや、でも。
どうやって?
土は絶対違うだろ。
水はまあ分かる。
風は……冷気運ぶとか?
火は……やっぱり熱奪う?
いやでもそんな都合よく――
「おっとー。疑いの目を向けてるやつが何人もいるぞー? 賢者様! 無知なる輩たちの蒙を啓いてやってくださいよ!」
黄石が煽ると同時に賢者たちが立ちあがる。
もうその自信満々な態度だけではっきりと伝わる。
ここは完全に彼等の力の見せ場だと。
「心得た。念の為同朋共に尋ねるが、基本を三ステップじゃな?」
火の爺さんが杖を軽く鳴らす。
三ステップ。
なんかもう、言い方がズルい。
「それが楽ですね」
水が揺れる。
「折角だし各々の属性を合わせんか? ちと制御し辛いかもしれんが、お前らなら余裕じゃろ?」
土がシュタッと手を上げて再提案。
「乗った、エエとこ見せたるワイ」
風が、どこからともなく声だけで応じる。
「それでは合同で」
水も合意。
「じゃあそれで――ほいっ」
その、炎の掛け声で。
四人が、同時に手を上げる。
ばらばらじゃない。
一糸乱れず。
ぴたりと揃って。
次の瞬間――
吹きだされたのは未だ形無き魔法。
四つの手のひらから、同時に噴き出した白が、空中で絡み合う。
火の手からは、熱を奪い尽くしたような乾いた冷気。
水の手からは、粒の細かい霧が一瞬で凍る感触。
土の手からは、砂みたいに粗い氷の粒子。
風の手からは、それら全部を撹拌する流れ。
四つが、ぶつかって、混ざって、整う。
ばらけない。
散らない。
中心に収束して――
ひとつの、小さな吹雪になる。
舞う。
円を描く。
まるで、最初からそういう装置だったみたいに。
『あっちへ行って』どころじゃない。
『世界の果てまでぶっ飛べ』的な水平シルバートルネード。
……なんだこれ。
理屈とかじゃない。
完成度が高すぎる。
パワーが凄すぎる。
「……マジかよ」
声が漏れる。
周りも、似たような空気。
一瞬、静まり返って。
「あっはっは! 凄いじゃーないですか賢者の皆さん!」
黄石が、ちょっと遅れて戻ってくる。
今俺らと一緒に思考、素で止まってたな。
「まあ、児戯じゃな」
「こんなことをやらせるとは流石に我らを舐めすぎでは?」
「おちつけ水の。まだ初手じゃ」
「儂は何問成功すればワイズメンちゃんとおデートできるんかの?」
風は通常運転。
土がまた殴りそうな顔してる。
「ここでワンポイントは―― モーリーちゃんと舞網ちゃん!」
え、まさかのその二人!?
ていうかどう勘が働けば全員できるなんて選択できるの!?
「当然! ふんす!」
「そうじゃないかと思ったんだ」
モーリーは胸張ってるし、ハナは普通に納得してる顔。
なんかもう、この時点で違う。
「まずはモーリーから聞いてみようか。なぜ4を選んだ?」
「だって生活魔法があるでしょ? 水出す奴、冷やす奴、攪拌する奴。はい、できたー!」
生活魔法。
さらっと言うな。
初耳だぞそれ。
でも賢者たち、めっちゃ頷いてる。
「水賢者さん、どうですかこの見識」
「完璧ですね。明らかに分かってる解答です」
「わしが最初に提案した3ステップがそれじゃ」
あっさり太鼓判。
うわ、ガチ勢だ。
そういえば綱引きの時モーリー、魔法は全系統諳んじれるとか言ってたな。
魔物オタはその実異世界オタでもあったわけか。
「ちなみにお嬢ちゃんのジョブは何かの?」
「ドリームキャッチャ―!」
「儂の子を孕んでみんか?」
「ちょわっ!」
「私も協力しますね」
「土水複合はあかん! 複合アーーーーーッ!?」
なんか空中スケルトン洗濯機の中で風の賢者が公会丸洗いされてるけど。
もうツッコまない。
こいつらはこういう過激な芸風。
受け入れるしかない。
「じゃあ舞網ちゃんはどうして4を?」
「みんなできそうって顔してたから!」
シンプル。
「それで、4に賭けちゃったわけだ」
「かけてないよ? 自信あった!」
即答。
迷いゼロ。
……強いな。
モーリーやクイズ強者とは方向がまるで違うけど。
ことインスピレーションに関しては、彼女は彼女のルートで勝ち抜けそう。
たぶん。
そして第二問。
ハリウッド映画の蜘蛛男が掌から糸をピュッして天井を這い回る。
土のみができましたで2が正解。
これを制したのは……
「正答は3名。椰子泉さん1ポイント。モーリーと舞網ちゃんは勝ち抜けだ。おめでとう!」
「「きゃーきゃー♪」」
軽い。
でも、結果は重い。
あっさり抜けた。
インスピレーションの申し子たちは格が違った。
「「きゃーきゃー♪」」
「あんたら下手なダンスしてないで、さっさと勝者席行きなさい!」
「「はーい」」




