第四BF:ワイズメンズタワー 2
塔の中でクイズをやるもんだと思ってた。
っていうのはたぶん全員の共通認識だったらしい。
で、それをあっさり裏切ってくるあたり、この番組は相変わらず性格が悪い。
「さて、諸君らはこの広場に解答席があるのを見て落胆した筈だ。『あれ?僕たちあの塔の中でクイズするんじゃないの?』と。正直に告白しよう! ……僕もだ!」
場を改めた黄石が、いつもの調子でフックを投げてくる。
観客の笑いが一拍遅れて広がる。
ああ、これ、完全に分かっててやってるやつだ。
「だが政治の壁は高く厚かった……塔内撮影禁止。山吹色のお菓子も効かなかった!こういうトコ見習って欲しいよねぇ日本のお偉い様方!」
雑に社会問題を放り込む。
新聞詠みの漫談かよ。
俺たち挑戦者は苦笑レベル。
だが観客たちにはけっこうウケて笑い声が響く。
ああいうの、ちゃんとウケるんだな。
翻訳の指輪を通した『山吹色のお菓子』って現地的にはどう翻訳されてるんだろう?
気になるな。
覚えてたらサンタフェさんに聞いてみよう。
「どうだったワイズメン椰子泉さん。昨日塔の中で接待を受けたんだろ?」
「お客様扱いだったから、貴賓室と宴会場しか入れなかったわ。どっちも驚くほど質素だったわね」
椰子泉さんは淡々と答える。
事実を並べてあまり感情が乗らないのが彼女の雑談スタイル。
「ごちそうは?」
「工夫を凝らしたものがおいしいものとは限らない。身を以て知ったわね」
椰子泉さんの言葉にトホホの響き。
この人意外とバカ舌だからな。
場末の居酒屋でエールとつまみをバカスカやるのが好みなんだろ。
「と、いうわけで会場が塔の前の広場となったわけだが。やっぱりウルティモ。ごーうかなゲストの招聘に成功したぞ! では早速ご入場頂こう! 元素の四賢者の皆さま!」
その一言で、空気が一段階上がる。
ざわっとした波が、観客席からこちらまで押し寄せてくる。
「元素の四賢者!?」
「魔法界の至宝たちじゃないか!?」
「こんな見世物に出てくる格じゃないだろ!?」
「てゆーかまだ生きてたんだ!?」
情報量が多い。
とりあえずすごい連中ってことだけは分かった。
「まずは火の賢者さまだ」
ぼんっ、って音。
煙。
そこから現れたのは、もうテンプレみたいなヒゲの爺さん。
期待を裏切らない完璧な魔道士ルック。
指輪のストーリーのアレみたいな。
「ふぉっふぉっふぉ。楽しそうな催しじゃでの。呼ばれてみたわい」
完璧だ。
しゃべり方まで完璧。
まさに指輪のストーリーのアレ。
テンプレ老魔法使い。
ちょっと安心する。
「あ、理解の及ぶ世界なんだな」って。
「次は水の賢者さま」
地面に広がった水たまりが、ぬるっと動く。
そのまま盛り上がって――人の形。
で、そのまま固定。
いや待て。
それ人間のフリしてるだけだろ。
精霊とか魔物とかの枠じゃない?
「済みませんね人の子ら」
ほらぁ超越存在のセリフ!
「ちょっと腰をイワせてしまったので、代理ボディで参りました」
一気に生活感。
なんだよ腰って。
水にも腰あるのかよ。
「次は土の賢者さま」
「ほいほいっとな」
軽い。
やたら軽い。
出てきたのは、どう見ても小学生くらいの女の子。
町娘が年に一度のお祭りに精一杯のおしゃれした感じのおしゃまな子。
ひらひらした服で、くるっと一回転してポーズ。
「これでも四賢者最年長じゃ。よろしく頼むぞよ?」
あざとい。
サンタフェさんとは別方向であざとい。
完全に狙ってやってる。
でも観客は湧く。
恐らくは分かった上でなお湧いちゃう。
強いなこのキャラ。
「最後に風の賢者さま」
風が巻く。
砂埃が舞う。
小竜巻が座席を覆う。
で――
ベールがはがれても。
いない。
現れるべきゲスト席に、誰もいない。
「あれ?」
って思った瞬間。
「きゃあああ!?」
なぜか椰子泉さんの悲鳴。
珍しくデカい。
反射で振り返る。
「新たなるワイズメンよ。わしの子を孕んでおくれ?」
うわ。
いた。
ボロを纏ったうすらハゲの赤っ鼻ジジイ。
空きっ歯から酒臭い息を漏らして椰子泉さんの手を握っていた。
距離間ゼロで。
「やめんかこのエロジジイ!」
ジジイの足元が盛り上がる。
「ちょわっ!」
盛り上がりはゴゴゴと巨大な拳の形となり、風のジジイを体ごとアッパーカット!
そのまま上空まで打ち上げる。
「嫉妬か? 永遠のおせきはん前?」
風は風でダメージ食った様子はなく、空中でひらひらしながら土を煽る。
なんだこいつ。
ほんとに賢者か?
「ぐぬぬぬぬ」
最終的に、ふわっと着地。
何事もなかったみたいにゲスト席に座る。
「……あまり異世界の皆様に恥を晒すでない。これは録画なる技術で異世界中に見られてしまうのじゃぞ?」
火の賢者がまともなこと言う。
やっと常識人枠。
「悪いのは風のじゃろ? 見境なく盛りおって」
「賢者が次世代の育成を考えて何が悪い」
全然収まってない。
むしろ悪化してる。
ピリピリしてる。
「あっはっは。個性的な皆さんだなぁ」
黄石、完全に楽しんでる。
撮れ高って顔してる。
「うちの賢者どもがすみません」
水の賢者が、ごぼごぼ言いながら頭を下げる。
たぶんこの人が一番普通の感性してそう。
見た目は一番まともじゃないけど。
で、ようやく本題。
「ここで行いますクイズはインスピレーションクイズ。題して『できるかな賢者様』!」
タイトルの軽さ。
完全に教育番組。
NHKの午後三時っぽい。
「まず、我々と一緒に賢者さまには日本の【魔法】を使うシーンを見て頂く。それはアニメや映画かも知れないし、マジックショーだったりインチキ……げふんげふん。今話題の超能力だったりするかもしれない」
ああ、なるほど。
こっちの「魔法」と、向こうの「魔法」をぶつけるわけか。
国際魔法摩擦。
ちょっと面白い。
「それを僕が賢者様方に問う! あなたは自分の魔法でこれを実現できますか、と。回答者の諸君は予想する! 四賢者のうち何人がこれを実現できるのかを」
視線が、手元のシートに落ちる。
ゼロから四。
ぺらぺらの数字。
やることはシンプル。
でも――
「制限時間は一問10秒。よろしいか?」
短い。
考える時間、ほぼない。
「予定通り進める」
誰かが呟く。
低い声。
たぶん荒火。
インスピレーション。
印象。
なるほどな。
このクイズで必要になるのは知識じゃない。
他人の能力を読む眼力。
直感。
判断。
視線を上げる。
賢者たちは、思い思いにくつろいでる。
火は髭をなでなでしてる。
水は全身ゆらゆらしてる。
土は足ぶらぶらさせてる。
風は椰子泉さん見てニヤニヤしてる。
賢者ができるかどうか。
つまり、こいつらの底をどこまで見抜けるか。
成程な。
これは確かにインスピレーション。
答えが用意してある問題じゃない。
「行くぞ問題!」
つまりは番組と賢者とのマジックセッション。
答えはここで生まれるものだ。




