第四BF:ワイズメンズタワー 1
バトルフィールド:ワイズメンズタワーと謳っているからには
てっきり塔の中でクイズが行われるものと思っていた。
いや、普通そう思うだろ。
あんな、雲に突き刺さるみたいな塔だぞ。
中に入って、階層ごとに試練があって、とか。
そういう死亡遊戯な流れを、なんとなく期待してた。
でも実際のクイズ現場は塔の前の広場。
拍子抜け、っていうとちょっと違うけど。
肩透かし感はある。
広場はやたらと広い。
石畳がどこまでも続いていて、中央には円形のスペース。
そこを囲むように、簡素な観覧席と、露店みたいなものがぽつぽつ。
屋台からは香ばしい匂いが漂ってくる。
串焼きっぽい肉とか、甘い菓子っぽいやつとか。
ステックソンであった氷菓系が一切ないのはここがビーチではない故か。
異世界なのに、縁日みたいな空気。
ただ違うのは、空気の色だ。
空が広い。
やたらと広い。
今日は雲がぽつぽつと薄く張ってるだけだから余計そう感じる。
そのど真ん中に、あの塔。
ワイズメンズタワー。
真下から見上げると、もう形がよく分からない。
雲より高く、針より細く。
そんな表現が、割とそのまま通じる。
細いのに、存在感だけは異様にある。
視界に刺さってくる。
で、その足元で、俺たちはクイズをやるらしい。
……なんか、スケール感おかしくない?
解答席はあれども早押しボタンは無い。
代わりに置いてあるのは日めくりカレンダーみたいなシート。
数字は一桁。
ゼロから4。
ぺらぺらめくるやつ。
木造の商工会議所とかに置いてあるやつ。
なんか急に生活感。
「五択とは珍しいな」
「筆記じゃないだけマシ」
「わかんなくても勘でいけるしな」
やっぱりみんな分かってる。
このルールにすぐ順応してる。
迷いがない。
やっぱり俺だけ疎外感。
こういう時に「ああ、俺って外様だな」って実感する。
……見られてるな。
わりと近くから温度を伴った視線を感じる。
「にしし」
そこには含み笑いの白山さんが!
あの女は困ってたり弱ってたりする人間を的確に見抜く目があるので困る。
ほんとに。
レーダーでも付いてんのかってくらい。
平常心、平常心。
小悪魔よ去れ!
坊主なんだかエクソシストなんだか。
ギャラリーも続々と集まってくる。
ステックソンとは違って人間っぽいなりの連中が多い。
ここはそういう街なんだろう。
ちゃんと二足歩行。
耳の長さとか体毛の濃さとか尻尾とかは、まあ誤差の範囲。
異世界だからね!
と、ギャラリーから突然の拍手。
なんだなんだ。
ざわっと挑戦者たちの空気が動く。
「センキュー! センキュー!」
出たな煽り屋。
我らがクワさんこと、黄石アナの御出ましだ。
今日もテカテカしい笑顔にテカテカしいミラーボールスーツでのご登場。
で。
今日の被り物は広い鍔のとんがり帽子。
魔法使いっていうよりか、どっちかっていうと魔女寄りの。
「オー! ユアフレンドリーセンキュー!」
英語通じないって。
そもそもその英語文法おかしいって。
でも黄石はそんなの気にしない。
全てはノリと勢いと演出。
楽しい絵面こそ本懐だ。
「さて、モーリーちゃん、またあなたやらかしたんだって?」
開口一番これ。
で、導入のマイクパフォーマンス。
さすが。
人のプライベートの時間から情報を切り抜いてくる。
面白いには一切の妥協なし。
「え? 何を?」
自覚があってもまずとぼける。
これがモーリーの悪いとこ。
「ペガサス牧場で出禁にされたんでしょ?」
「あれは牧場主がイジワルなだけ! 私はペガサスの尻尾をハムハムしただけ!」
え抱き着いただけじゃなくて!?
あの一瞬でそんなことしてたのかよ!?
なんで味わおうとなんて思ったの!?
やっぱ魔物オタは怖いわ。
理解の範囲を軽く越えてくる。
「それに李野くん! 大人しい顔して君もやらかしたんだって?」
「はは……好奇心を抑えきれずに、つい。跳んじゃいました」
「ついで跳べる高さじゃないだろう? 雲の高さって聞いたぞ?」
「風魔法による安全装置があったので。風魔法を体験したくて」
「困ったリドラーだな。体を張らんでもいいだろうに」
「やはは」
李野くん、笑って誤魔化すな。
それにしてもこの並び…… この流れ。
来るな、俺にも。
インタビュー。
完全に前フリ。
逃げ場なし。
「で、大トリはお前だ新人類。静止を無視して成層圏まで飛んだんだって?」
ほら来たよ。
予想通り。
「いい景色でした」
とりあえず、これで押し通す。
言い訳してもどうせ信じてもらえないし。
言ってることに間違いは無いし。
ボス君が勝手にやったこと。
それは確かなんだけど、お茶の間の皆さんはそんなこと知らないし。
「開き直ってるよ。性質わるいなオイ」
しかたないじゃん。
ぐちゃぐちゃ言い訳する画ヅラはダサいし。
そもそもインタビュータイムなんて一人あたり二言三言程度だし。
「で、いい景色って何が見えたんだ?」
少しだけ間を置く。
あの光景が頭に浮かぶ。
平らな大地。
端から落ちる海。
呼吸が改まる。
「平面世界」
「うらやましーねーどうも! 僕もまだその景色は見たことないのに!」
「絶景かな」
スタッフたちから小さな笑い。
まあこんなもんだろう。
ウケすぎても困るし。
滑りすぎても困る。
ちょうどいい温度で着地できた感。
「茂侍くん。君は毎日クイズ鍛錬に勤しんでるんだって?」
「もちろんです」
あ、黄石この野郎。
穂積が熱いキャラ立ちしたから、的を茂侍にすり替えたな?
そういうとこ抜け目ない。
「ここまでずっと鍛錬してきた?」
「全てはソサエティーの為に!」
まっすぐだなあ。
眩しい。
ちょっとだけ。
「とはいっても、同じソサエティーの波名真くんや港ヶ陸くんはペガサス牧場に行ってたみたいだけど?」
「それは……」
言葉に詰まる茂侍。
正論っぽいツッコミ。
でもちょっと意地悪。
演出としてのいじりというより、黄石としての嫌悪感が滲み出てるやつ。
おそらく閑君が嫌ってるやつ。
まあ、この席からだと閑君の顔がよく見えないから確認は出来ないんだが。
確認したところで一参加者でしかない俺がどうするのという話なんだが。
「我がソサエティーは」
割って入ったのはソサエティーの頭領・荒火徹童。
空気が変わる。
一瞬で。
塔前広場に響く太い声。
言葉に詰まる家臣に成り代わり、キング様のお下知が始まった。
「何事をも強制することは無い」
黄石がぴくってなる。
ほんの一瞬。
でも分かる。
「ほう」
興味を持った顔。
或いは敵意か。
「学びたいものは学び。遊びたいものは遊ぶ。それでいい」
さらっと言う。
でも重い。
言葉の重さが違う。
「随分と放任主義なんだな、君の王国は」
「ただ一点」
キングが人差し指を立てる。
視線が集まる。
自然と。
それは黄石の様な演出力とは違う。
恐らくはカリスマと呼ばれる生理的な支配力だ。
「己がクイズ戦士であると、自覚を持ってさえいれば」
言い切った。
この覚悟に。
この哲学に。
俺はかつてウルティモ出場を辞退しろと命じられた。
あの時のことが、ちょっとだけ蘇る。
そこそこの痛みと共に。
ただ情けなかっただけのあの時の追憶は。
今の俺にはいくばくかの悔しさも抱かせた。
「言うねぇキング」
「重ねていうのなら」
「何だい?」
「今期のクイズ王の座は、我がソサエティーが頂く」
勝利宣言。
王じゃなくて、騎士団による。
「いい啖呵だ」




