テーブルのような 2
異世界と日本はとても仲が良くて、交流が進んでる。
大手ホテルや、いくつかの大型店舗には日本資本が投下されている。
――らしい。
その証拠がこれだ。
ゆうちょのATM。
見慣れた緑色のロゴが、異世界の石造りの壁にぺたっと貼り付いてる光景は、なんというか……夢の中でコンビニ見つけた時みたいな安心感がある。
現実感のバグ。
でもちゃんと現実。
カード入れたら普通に金出てきたし。
お蔭でお金の心配することなくペガサスツアーに参加できた。
――いや、ほんと助かった。
異世界で所持金の心配とか、ゲームでもあんまりやりたくないやつだし。
で。
バスに揺られてしばらく。
街の喧騒が遠ざかって、代わりに風の音が目立ち始めた頃。
見えてきたのがペガサス牧場。
まず、広い。
やたら広い。
柵で囲われてはいるんだけど、そのスケールが普通の牧場のそれじゃない。
山の麓、見渡せる限りの一帯。
ゴルフコース18番がすっぽり収まってなお余り有る感じ。
地形は起伏に富んでいて、緑の小丘が古墳みたいにぽこぽこと生えている。
反面、林は無い。
フェアウエイとラフだけで構成されている風通しの良い立地。
その中にぽつぽつと白い影が動いている。
あれが全部ペガサス。
近づくにつれて、それがはっきりしてくる。
白馬の体に、翼。
しかもその翼、思ってたよりでかい。
馬体と同じくらい。
いやそれ以上かもしれない。
羽ばたいたら普通に風圧で人吹っ飛びそうなサイズ。
牧場の建物も独特だ。
屋根が高くて、やたら風通しがいい造り。
壁は半分くらいしかなくて、あとは柱と梁だけで支えてる感じ。
飛行動物を飼う場所だから、閉じ込めるって発想がそもそもないのかもしれない。
で、その入口に着いた瞬間。
「ペガサスファンタジー!!」
牧場に着くなりモーリーが暴走してペガサスに飛びつき、
驚いたペガサスの後ろ脚で派手に蹴っ飛ばされて、
瀕死のところをサンタフェさんの回復魔法で事なきを得るも、
牧場主に出禁を言い渡されてた。
今ここまで。
展開が早い。
というか、いつものことだけど。
「わだじわ゛ぁぁぁ! ペガザズぢゃんに゛ィ! ぎゅっでじだだげなのに゛ぃぃ! あ゛いじょうがあぶれでじまっだだげな゛のに゛ぃぃ! どぼじでごんなびどいごどずるの゛おおぉぉ!?」
恒例の顔面崩壊。
涙と鼻水で原形が分からない。
ドン引く一同とつやっつやの白山さん。
「……まあ、蹴られるよね」
誰かが小声で言う。
うん、普通に蹴られる。
初対面でケツから抱きつかれたら、そりゃそうなる。
相手がペガサスじゃなくても。
「あ、私一応モーリー係なんで、見張りの為にツアー辞退しまっす♪」
白山嘘つけ。
お前絶対モーリーいじり倒す気だろ。
気の済むまで。
合法的に。
「困るんだよねぇこういう暴走」
「スみまセん」
「うちの子なーんも悪くないのに、怪我させたからって悪者扱いされちゃう」
「ええ、悪かったのはこちらでスので。ええ」
サンタフェさん牧場主に平謝り。
かわいそう。
完全に板挟み。
でもまあ、今回ばかりは擁護できない。
モーリーが100%悪いが、火口での惨状を知っているのに何の対策も打ってなかったあなたも悪い。
だが危険はまだ終わっちゃいない。
モンスターはもう一匹いる。
「はぁはぁ」
ペガサスに野獣の眼光を向ける李野くん。
あいつ、さっきからずっと観察モードに入りたがってる。
それを、穂積とボーイが二人掛かりで制してる。
「やめるっす李野センパイ!」
「少しだけ! 羽の構造だけでも!」
「ダメだって言ってんだろ!」
調べたいんだろうなぁ、ペガサス。
新たなクイズを作成するために。
ヒッポカンポスの時みたいに。
あの時も目が怖かったし。
それにしても穂積、ツアー来たんだ。
クイ研の特訓じゃなくて。
――ちょっと意外。
あいつ、今は完全にクイズ一直線モードだと思ってたから。
ステックソンの敗者復活戦前。
俺が恥を振り切って叫んだ意味、あったんだな。
あのビーチでのやり取り。
あれ、無駄じゃなかったってことか。
……まあ、本人に聞く気はないけど。
「みなサんお待たせいたしまシた。牧場主さんの許可おりましたので、ちょっと開始遅れましたけどスカイツアー開始でス」
サンタフェさんがパンパンと手を叩く。
空気が切り替わる。
さっきまでの騒動がなかったみたいに、進行が再開される。
そして牧場に入りましたらば。
「「「「ひひーん!」」」」
なんだこれ。
まるで俺に拝謁するかのように横一列に並んでる。
ペガサスたちが。
綺麗に整列。
しかも全員こっち見てる。
正確には、俺を見てる。
ヒッポカンポスの時の再来じゃないか!?
「すごいねテイマー」
大渓さんがいつものやれやれポーズで感心を告げる。
「ここでは天馬くんがキングみたい!」
無邪気なハナさん。
落ち着く。
というか、その言い方やめてほしい。
もう俺の中でキングという言葉は王様って意味じゃなくて荒火って意味になっちゃってるから。
「市籠くんって天馬って名前? あらやだ、ペガサスじゃない!」
誰かが言うと思ってましたよ双滝さん。
あなたが一番乗りでしたね双滝さん。
あらやだって言い方おばさん臭いっすね双滝さん。
「いい名前だと思いまスよペガサスさん」
「ペガサス! クールだ! ハナもこれからペガサスくんって呼ぶね!」
「じゃあ僕もペガサスと」
サンタフェさんもハナさんも垂須さんも止めて。
それ中学の頃からかわれてていい思い出ないの。
なんで異世界まで来て再燃するんだよそのあだ名。
逃げ場ないじゃん。
「ではみなサン指定のペガサスにまたがってくだサい。跨げない人は横乗りでもかまいまセん。彼等は人に寄り添う優しい生き物でス。信じてあげれば応えてくれまス」
そんな心優しい動物に全力キックされるモーリーって……
まあいい済んだこと。
俺は指定のペガサスに……
一歩近づく。
白い体。
近くで見ると、毛並みがやたら綺麗だ。
光沢があるっていうか、ちょっと発光してるみたいな。
目は大きくて、しっかり穏やか。
――いけそう。
そう思った瞬間。
くわっ!
俺のペガサスがでっかいペガサスにメンチ喰らってるゥ!?
いや待て。
なんでだよ。
明らかに空気がピリつく。
絡んできたペガサス、体格が一回りでかい。
翼もでかい。
完全にボス格。
そいつが、じっと俺のペガサスを睨んでる。
で、俺の方も、なんか妙にやる気になってる感じで。
「「ぶるるるるるる……」」
――ちょっと待て。
これ、乗る前にバトル始まるやつじゃない?
「……テイマー、大丈夫?」
大渓さんが半笑いで聞いてくる。
大丈夫じゃない気がする。
でも。
「どうなんですかね、これ?」
名ばかりテイマーではマジ分かりませんわ。
なんで心優しい生き物が鼻息荒くマウントの取り合いやってるのか。
こういう時、深く考えても仕方ない。
たぶん。
いや、前足ガシガシしだしたぞ?
ほんとに大丈夫かこれ。
ガツンと頭ぶつけ合う雰囲気出してないか?
ひひ……
だが、暴力沙汰に至る前に、何らかの決着か合意がついたようで。
俺のペガサスだったはずの彼はすごすごと引き下がって。
メンチで押し切ったヤカラは、それまでの威圧感をすっと消して。
す……
俺の前に恭しく膝を折った。




