◆ペナ仕置き:ステックソン◆
俺たち敗者六名は日傘を貸し与えられ、徒歩にて町まで戻って来た。
「おじさんありがとうございます」
「こんな暑いのに…… 本当にごめんなさい」
口先だけは俺たちに感謝してるのが広水と全兎。
俺たち敗者・冒険者組に属する女子大生だ。
この暑さの中綱引きを戦い抜いた上でのキャリーバッグはキツかったようで、息を乱す様子を見て居れずに、俺と後のオヤジコンビで荷物を持ってやった。
「おう気にすんな」
「炎天下の肉体労働には慣れてるからな」
ホテルには戻らず、乗り合い馬車もスルーして、一路冒険者ギルドへ。
到着するとラフな格好に着替えたクワさんたちが待ち構えていた。
「勇者といえど転移したばかりの頃はただの迷い人だった。女神が喚んだ対魔王の秘密兵器だとはステックソン滞在期には知られていなかった。だから彼は日々を生きる為に最低ランクの冒険者からスタートし、最低ランクの仕事で食いつないだ」
それは知らなかったが、まあ、どんな業界だって下積みは大事。
ここでボトム労働者として汗水垂らしたという勇者に俺は親近感を抱いた。
「そこで君たちにはペナ仕置きとして、勇者と同じ苦労をしてもらう!」
クワさんが嬉しそうに宣言する。
「うぇー」
「はぁはぁ……」
心底面倒臭そうに吐き捨てる居権と息も絶え絶えな田婆。
「君たちには空港までの乗り合い馬車代、一人頭1200チップを薬草採取で稼いでもらう!」
*
ティリザベス様のおわす火山の麓まで引退した冒険者に引率されて撮影スタート。
道中でレクチャーされた薬草を探す。
なんでも熱冷ましと気管保護の薬効があるステックソン島での野外生活に必須なポーションの主原料らしい。
俺たちも一本ずつ飲まされている。
「なあ塩湖」
「なんだ後」
「負けちまったなぁ」
悔しさを滲ませて後は呟く。
昨晩はそろそろ帰らないと社員がさぼり出すとか言ってたのにな。
基本暑苦しくてワンマンな男だ。
その時々の情熱で動く。
部下や同僚だと使いにくいし、上司には欲しくない。
そんなタイプ。
だが、利害が絡まないところで付き合う分には、嫌いじゃない。
「まあ潮時だろ。いい休暇になった」
「そうだけどよ。そりゃーそうなんだけどよ。でも。負けたのは悔しいぜ」
勝ちとか。
負けとか。
そういう勝負の気持ちを、俺は持っていなかった。
そんな感情に振り回されるような奴は、現場監督なんてできない。
熱くなりすぎて、或いは沈み過ぎて。
業界を去っていった多くの同僚の背を見送って来た。
乱されぬ冷静さ。
堅忍の資質。
精神的な鈍感さ。
そういう、ある意味引いた適性が、おそらく監督には求められる。
その点、あの新人類は……
後や港ヶ陸なんかより、ずっとこっち向きだ。
おどおどしてる素ぶりでも、周りをしっかり見れているし。
クールぶりながらも、自分から動けてる。
人の話を受け止めるのと聞き流すとの仕分けができる。
叩きゃ使い物になる匂いがする。
それに引き換え……
「なーなー広水ちゃん、君どこ住み?」
「もー、真面目に薬草探してください居権さん。1200チップ溜めなくちゃいけないんですよ?」
「うっほ広水ちゃんまっじめー! でもウルティモスタッフも予定とか予算とかで動いてる訳で。帰りの便の都合上金貯まっても貯まんなくてもペナ仕置き切り上げるって」
居権。
あいつは賢しらぶって世の中を、労働をナメてるし。
広水。
あれも真面目ぶった口ぶりだが仕事に真剣みが感じられない。
ちんたら薬草を引っこ抜く振りしながら、決して土を指で掻き分けたりしてない。
「はひーはひー」
田婆はまだ息乱しっぱなしでろくに働けて無いし。
いくらクイ研つっても体力無さすぎだろ?
「おっし根こそぎだぜ!」
「後さんタフですねー! 感心しちゃいます!」
全兎は…… あれだ。
キャバ嬢タイプ。
男を持ち上げていい気にさせて、自分は何もしない。
まあ、いいか。
後が上手く乗せられてるし。
はぁ~。
いやホント、新人類の生真面目さが恋しいわ。
「あ、塩湖さんも結構集めたんですね! すごーい! じゃあ私、二人の薬草を束に纏めちゃいますね!」
「いや」
思わず否定の声が出た。
「俺は俺の分だけで束作ってくからさ。全兎も《《自分の》》薬草集めを頑張りなよ」
「えっ……」
まあ、サボんなよ、ということだ。
ウルティモって企画に乗っかって、旅してクイズして。
ならペナ仕置きにもしっかり乗っかれ。
お前だって腰掛けだろうと、何年かは社会経験を積むだろう?
要らん甘えは捨てろ。
男を都合よく利用できると思うな。
「なんか塩湖さんって自分勝手ですよねー。 後さんはみんなの為に頑張ってくれてるのに」
頑張ってないぞ。
乗せられてるだけだ。
だが……
なんか後がこの男をナメてる小娘に利用されてるのは腹立たしいな。
よし。
ちょっと水向けてみるか!
「あれ? 後社長はまだ3束なんだ?」
「は?」
「女の子の応援に鼻の下伸ばしてちんたら仕事してるからペースが落ちる」
「塩湖、吹いてくれたなァおい。そういうお前は…… 5束だと!?」
「まあ、このままなら俺の圧勝だな。薬草集め勝負」
「いいぜ乗ったぜその挑発! 絶対俺が先に12束集め切ってやる」
「負けた方がナリタレアでビール奢りな」
*
作業開始から大体4時間くらいだろうか?
夕飯を食い終えたであろうクワさんと閑君Pがやって来た。
「さあ、途中経過を見てみようか」
俺と後はそれぞれ14束。
田婆は呼吸が整ってから真面目に掘って4束。
広水と全兎は働き出してからの田婆にひっついてるだけ。
女の離れた居権は不貞腐れて働きもせず、最初の頃の1束だけ。
悪びれもしない。
「流石社会人! 仕事に手は抜かないねぇ」
クワさんからも高評価。
「それに引き換え学生諸君と来たら! こんなんじゃペナ仕置きの意味ありゃしない!」
「ここから頑張りたいと思います」
「素手で地面を掘るなんて女の子にやらせるペナ仕置きじゃないと思う」
「うんうん」
「反省してまーす」
田婆以外は全員ナメてる。
俺の部下にこんなのがいたら鉄拳制裁だし、下請けにこんなのいたら違約金分捕った上で仕事から干す。
「じゃあ後さんと塩湖さんは僕らと一緒にホテルに戻るかい? まだレストランも間に合う時間だぞ」
と、クワさんは居権たちの方を見ながら口にした。
「「「「え!?」」」」
きょとんとする学生たち。
「流石に屈みっぱなしで4時間は腰に来る。風呂入って揉まないとな」
「肉体労働の後のエール! 最高かよ!」
後も俺と同じくペナ仕置きを切り上げる方向に舵を切ったようだ。
ま、俺みたいに若造どもが気に入らないわけじゃなくて、単に酒が飲みたいだけのようだがな。
「きみらも真面目に薬草集め頑張ってたら一緒に戻れたかも知れないのにな。あ、ちゃんとホテルの部屋はダブルを3つ抑えてあったんだぜ?」
「ちょ、ちょっと待って欲しいかなー?」
「だってほら、私たちチームでしょ? みんなの薬草束を一つにして――」
「甘えんな」
解ってない女どもに言ってやった。
一番ナメてそうな居権は黙って閑君Pやらスタッフの表情を探っている。
こいつ要領はいいヤツだからな。
損得勘定を再計算してるな、たぶん。
「ペナ仕置き継続の残り4人! タイムリミットは明朝4時だ。もしそこまでに1200チップを達成できない奴がいたら――」
クワさん、間を持たす。
あの笑顔だ。
きっときついペナルティが課されるぞ。
「空港までの約20キロ。歩いて向かってもらう! エアバスの時間に間に合わなかったら自腹で航空券を買うんだぞ。そこまではスタッフも面倒見切れないからな!」
「「「「ええーーーっ!?」」」」
ほう。
いい悲鳴に、いいペナルティじゃないか。
これでこいつらもリキ入れて薬草摘みに励むだろう。
「なあ、おじさんたち」
「なんだ居権」
「乗合馬車代は12束だろ? お情けで余った2束ずつ、俺たちにくれないかな?」
やっぱこいつは目端が利いて小ズルいわ。
営業とかに回せば使い物になりそうなしたたかさがある。
が。
「働かざる者食うべからずだ!」
これが日々せっせと働いてる社会人の裁定だ。
額に汗しろ学生どもめ。
ちなみに後も2束をエール代にするからといって居権には渡さなかった。
*
で、後日談になるが。
こいつらは結局タイムリミットに間に合わず、徒歩で空港に向かった。
田婆は頑張って18束も集めたんだが、全員で均等割りすると一人12束に満たなかったとかで、乗合馬車に乗らずに《《仲間と》》一緒に歩く事を選んだとか。
自分の成果は自分の物なんてのは社会人のイロハのイなんだがな。
気弱そうな奴だったから、女子二人に言いくるめられたんだろう。
オンエアの道中では女子の荷物を持たされてたしな。
ちなみに居権は二束集めた時点で残り時間を逆算して薬草集めを中止。
歩きで空港に向かうモードに切り替えて仮眠を取ったらしい。
だが、結局。
番組内でエアバス搭乗ゲートを潜ったのは俺と後のみで。
離陸時間になっても若造共は空港に姿を現さないで。
無情にもエアバスが飛び立って。
そこで、こんなテロップが出てた。
【第三バトルフィールド:オランシェ】
【後乱太、塩湖三郎――― 帰国】
同時刻に路上でエアバスを見上げて膝をつく学生たちを背景に流れた、クワさんのナレーションがこれ。
「なあ学生諸君、労働って大変なんだぜ?」
「空港までの乗合馬車は1200チップだがな、ナリタレアまでの旅券は何チップだと思う? なんと120万チップ! 薬草の束にして1万2千束が必要になるんだ、一人当りな!」
「まあ幸いにしてギルド登録はしてあるんだから頑張って冒険して稼いでくれたまえ」
「あ、そうそう。雑魚寝の宿屋で800チップ、一日二食で300チップが必要なんだってさ! 世知辛いね異世界!」
「君たちが日本に帰れる頃には冒険者ランクがCくらいまで上がってるかもな!」
最後に米粒みたいに小さくなるエアバスをピンホールで映して。
見えないほど小さくなったらホールも消して。
一面黒バックの画面に、こう、表示された。
【居権久、全兎なずな、広水洋子、田婆博光―― 帰国?】
……まあ、実際のところはちょっと歩く姿を撮影しただけでロケバスに乗せてもらって、予定のエアバスに六人とも搭乗したんだが。
テレビの演出ってそういうもんだろ?




