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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
一次予選:二万四千分の百! ハリスタマルペケクイズ

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5/121

一次予選:ハリキリスタジアム 5


 こんなもんか。

 まあ、こんなもんだ。


 落胆に膝をつく人や、悲鳴を上げている人。

 回りは阿鼻叫喚。

 さっきまで同じ場所に立っていたはずの人間たちが、音を立てて崩れていく。


 勝負が決まった直後の空気って、こんなに露骨なんだな。

 テレビで見てる時は、もっと整理されてた気がするけど。

 実際その中に立ってみると、ぐちゃぐちゃだ。


 でも俺は、どっちかっていうと、ほっとしていた。

 ああ、これで終われる。

 そう思っていた。


「畜生! 畜生!」


 どこかの大学のユニフォームを着た男が、グラウンドに拳を叩きつけていた。

 乾いた音が、妙に響く。


 痛そう。

 なんでそんなに自分を痛めつける?

 わけわからん。

 ていうか、カッコ悪い。


 たとえばこのシーンがオンエアされたとして。

 大の男が地面に当たり散らしてるんだよ?

 それってダサくない?

 ……いや、まあ。

 回りも似たようなものか。

 泣き叫んでるやつもいるし、呆然と立ち尽くしてるやつもいる。

 そういうのが画として成立するなら、あの人の行動も「アリ」なのかもしれない。


 俺にはちょっと無理だな。

 あんな風にはなれない。


 でも、まあ。

 回りも似たようなものだから、ぼーっと突っ立ってる俺の方が目立っちゃうか。

 ちょっとは悔しい顔しようかな?

 目を覆って天を仰ぐとか。

 大きくため息をつくとか。

 ……いや、それもなんか違うな。

 演技っぽくなるし。


 そんな益体も無いことを検討していたら、司会者が吠えた。


「まずは○の皆! 全98人一次予選突破! おめでとう!」


「「「「うおおおおおおおーーー!」」」」


 喜ぶ方も怒号なんだね。

 本当にみんな熱いわ。

 熱血は体育会系の専売特許だと思ってたわ。


「よし! よしよし!」


 あれ、穂積の声だな。

 おお、よかったじゃん穂積。

 お前真剣だったもんな。

 この敗者席から祝福を送らせてもらうよ。


「で、×を選んだ諸君!」


 なんだよ司会者。

 死体蹴りするつもりかよ。


「残る座席は、あと2つだ」


 ……あれ?

 終わりじゃ、ない?


 一拍遅れて理解する。


 あ、そうか。

 予選突破は100人。

 今98人決まってるから、あと2人。


 つまり――

 俺たち、まだ終わってないのか。


「ここからは制限時間30秒でいくぞ!」


 なんか生き残っちゃったな。

 もう完全に気持ちは切れてるのにな。

 妙に浮ついた気分になっちゃってるぞ。

 もうどうにでもなれ、みたいな。


 もう考えても――


「第十一問!」


 あ、知ってる問題だわ。

 反射的に体が動いた。

 ○に移動。

 迷いなし。


 結果―― 正解。


「第十二問!」


 これも知ってたわ。

 なんだこれ。

 さっきまでの「こんなもんか」はどこいった。

 ○で待機、正解。


 気づけば、周りの人数が一気に減っている。

 さっきまで百人近くいたはずなのに。

 今は――

 だいぶ人影もまばらになったな。

 もう十人くらいか?


 距離感がおかしい。

 広いグラウンドに、ぽつぽつと人が立っている。

 なんかここ放映されたら目立っちゃうな。

 クイ研の法被着なくてよかった……

 あれ着てたら、完全に「集団の一部」って映り方になってた。


 今は個人だ。

 どこの誰でもない、ただの一参加者。

 それが妙に、落ち着く。


「いけるいける僕ならいけるここまできたんだ大丈夫」


 ……なんか隣で念仏唱えてるお兄さんがいるんですけど。

 早口で、途切れなく。

 自分に言い聞かせてるのか。

 周りに聞かせてるのか。

 正直、ちょっと怖い。


 で、目を逸らしたその先に。


「部長?」


 思わず声をかけた。


「――あ、市籠クン」


 白樫部長が、少し驚いた顔でこっちを見る。

 その瞬間。

 ピッ、とホイッスルが鳴った。

 スタッフが間に割り込んでくる。


「私語は禁止でお願いします」


「あ、はい」


「すみません」


 部長と二人、反射的に頭を下げる。

 さっきまで同じ集団だったのに。

 今はもう、完全に個人。

 会話すら制限される。

 徹底してる。

 本当に。


「第十三問!」


 問題が読み上げられる。

 ……分からない。

 さっきまでの流れが嘘みたいに、何も引っかからない。

 が。

 白樫部長は、問題が最後まで読まれる前に、○へ駆け出していた。

 速い。

 迷いがない。

 わかったんだろうな。


 でも――

 同じタイミングで、念仏を唱えてた男が×へと駆けだした。


 対照的な動き。

 まるで、答えが割れているみたいに。

 ざわつく残りの十人。

 視線が揺れる。


 どっちだ?

 どっちが正しい?


 数人が、見知らぬ男に追従した。


 ……あ、じゃあ俺は部長を選ぶわ。


 深い理由はない。

 ただ、ここまで一緒に来たっていう、それだけ。

 ○に向かって駆けだした。


 その途中――

 小脇を、ちっちゃな影が駆け抜けた。

 速い。

 軽い。

 ……おかっぱの少女。

 あの、孤高の。


 一瞬、目を疑う。


 スタンドから遠目に見下ろした時は気付かなかったけど。

 こうしてすぐ横を走り抜けられるとよくわかる。

 小さい。


 おかしいだろ。

 この大会、参加資格は満18歳以上じゃなかったか?

 いや、でも。

 背が低いだけかもしれないし。

 童顔なだけかもしれない。

 成長が遅い子なんだろうな、多分。

 そう自分を納得させる。


 あの子がまだ戦っていて。

 強い意志の尾を引いて勝利をつかみに向かっている。

 それがなんだか。

 なんでだか。

 妙に胸をそわそわさせて。

 少女に遅れること数歩、俺も○のゾーンに滑り込んだ。


 あと三秒。


 そのタイミングで、×の中から。

 色白小太りの男が、内股でこっちへ走ってきた。

 たっぷんたっぷんと頬肉を揺らして、ギリギリの移動。

 焦ってるのが丸分かりだ。


「やっぱりこっちにするぅ」


 ……なんかカマっぽいな。


 思わずそんなことを考えてしまう。

 余裕があるのか、ないのか。


「タイムアップ!」


 ラインが確定する。

 ○に4人。

 ×に8人。


「正解は…… あれだ!」


 黄石の声。

 全員の視線が、オーロラビジョンに集まる。

 表示される記号は、○。


 部長が、腕を振り上げた。

 無言のガッツポーズ。

 さすがだな。


 一方、少女は腕を組んでいた。

 動じない。

 最初から分かっていたみたいに。


 小太りの男は、肩で息をしている。

 間に合ったことに安堵しているのか。

 それとも、単に息切れしてるだけか。

 男のくせに色っぽくて瑞々しい唇をぷるんとさせて、微笑ってる。


 そして俺は――

 妙に、凪いでいた。


 嬉しいのか。

 安心してるのか。

 よく分からない。


 ただ、静かだ。

 感情が、追いついてこない。


「そうか」


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