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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
一次予選:二万四千分の百! ハリスタマルペケクイズ

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4/122

一次予選:ハリキリスタジアム 4


 四問目は、まず名も知らぬクイ研が動いた。


 俺たちのほど遠く、顔が見えない距離に陣取ってた、学院じゃない大学の。

 揃いのジャージに、胸元に刺繍されたロゴ。

 さっきまで静かにしていたのに、問題が出た瞬間。

 一人がすっと前に出て、迷いなく〇のゾーンへ歩いていった。

 ジャージ集団は彼に続いて迷いなく移動する。


「今のジャージは?」


「見たこと無いな」


 クイ研連中が短く相談する。


「それより問題だ」


「○の気がする」


「俺も」


「俺は×かな…… 根拠は無いが」


 またしても紛糾。

 穂積も無言で考えこんでいる。


 そんな真剣な連中を尻目に、俺はほっとしていた。

 俺にも分からない問題だったから。

 俺が原因で落っこちる可能性がゼロだから。

 まあ、ダメならダメでいいか。

 そんな風に気楽に構えてた。


「西ソサのヤツらはどうだ?」


「あいつらはこの時点で割った。○の方が少なかったと思う」


「そうか……」


「俺らもそろそろバラけるか?」


「あとは自己責任で」


 なるほど。

 答えが分からん時は、実力者集団に判断を委ねることもあるのか。

 そういう、他力本願な姿勢に。

 ちょっと親近感を覚えてしまったせいか。

 さっきの極限緊張から解放されたせいか。


 ぽろっと。


 口走っちゃいました。


「そういえば――」


 クイ研の皆に聞こえる声で。


「何か気づかれましたか?」


 と、静かな圧を発して丁寧な物腰で詰め寄ってくる白樫部長。

 他5名の眼差しが、俺を貫く。

 正直…… 結果によっては逆恨みされるかもしれないけど。

 今度のは自信の無い記憶ではなくて、今見たばかりの事実だ。

 そこまで口に出すのに躊躇する話じゃない。


「あのジャージのプリント、赤門だった」


「赤門…… 国立の!」


 白樫部長がビビッドに反応。


「そういえば炎鳥がクイズサークルの設立をするって言ってたな」


 次いで穂積が情報を補強。


「日本最高学府か……」


「どうせわかんないんだし、乗るか!」


「じゃあ俺も」


「お前✕だって言ってたろ?」


「俺は俺の知能よりも赤門の知識を信じる」


 そう言って○方向へ走り出すクイ研の一人。

 それを見て、仲間たちも続く。

 動き出してみれば躊躇がなかった。

 確信が無いにも関わらず。


 で。


 結果は、〇。


「よっしゃあああ!!」


 一塁側観客席が爆発したみたいに盛り上がる。


「サンキュー天馬!」


 穂積のヘッドロック。

 痛い痛い。

 感謝してるなら人の頭叩くなよ!

 ここは見知らぬ炎鳥君とやらに感謝しとけ!


 対して、×にいた連中が一斉に崩れ落ちた。

 たった一歩で、天国と地獄が分かれる。


 ……やっぱり、このゲームは縮図。


 まあ、ゲームなんて大抵そんなもんか。

 勝ち負けが、優劣がつかない遊戯なんてないからな。


 五問目は、白樫部長が決めた。


 問題が読み上げられた瞬間、あの人はほんの少しだけ目を細めた。

 考えている顔だった。

 けど、それは迷っている顔じゃなかった。

 問題を反芻し再確認する間。

 そんな感じだった。


「こっちです」


 短く、でもはっきりとした声。

 クイ研の連中が、一斉に動く。

 他の大学のいくつかのクイ研も、それを見てついてきた。

 俺もついていく。


 結果は――正解。


「……っ」


 小さく息を吐く音が、あちこちから聞こえた。

 大げさに喜ぶやつが減って来た。

 いつの間にか興奮よりも緊張感が優位に立っていた。

 ただ、確実に一歩進んだという実感だけが、その場に残る。


 この時点で、残り人数は約1000人。

 さっきまでの喧騒が嘘みたいに、人が減っている。

 一塁側シートはもう、挑戦者よりも空席の方が多くなっている。


 そして、ここに来て。

 なぜか、クイ研たちに緊張が走った。


「ここまで来たか」


 誰かが、ぽつりと呟く。


「全員揃ってなんて、クイ研史上初なんじゃないですか?」


 別の誰かが、少し興奮気味に言う。


「でも……」


 その言葉が、途中で切れる。


「ああ、ここからは」


 低い声。

 含みのある言い方。

 なにが「でも」で、なにが「ここから」なんだ?

 聞こうと思った。

 けど、タイミングを逃した。


 その瞬間だった。


「よし!」


 ひな壇の上から黄石アナが、俺たちを手招きした。


「人数もだいぶ絞られたようだ!」


 マイク越しでも分かる、張りのある声。


「ここからはグラウンドに下りてのマルペケだ!」


 ざわ、と空気が動く。


「キミ達は誇ってもいい! なんせ全国2万4千人の中の千人だからな!」


 歓声が上がる。

 誇らしさと、興奮と、少しの恐怖が混じった声。


「そして俺たちは千分の7人、と」


 穂積が、軽く笑う。


「まずは上等」


「ていうか快挙!」


 周りの連中も乗っかる。


「ナリタレアに、行くぞ。天馬」


「ああ」


 ――あ。


 今、俺、「ああ」とか言った?

 なんか、流れで。

 別にクイズは今日一日で終わる予定なのに。

 二次予選への誘いに乗っちゃうなんて。


 完全に流されてる。

 自覚はある。

 でも、まあいいか。

 勝ったならその時に考えればいいことだ。


 スタッフの誘導に従って、俺たちは移動を始めた。

 内野席の一角が開いて、そこからタラップが伸びている。


 へえ、こんな構造なんだ。

 テレビで見てた時は気づかなかった。


 一歩、踏み出す。


 わ、段差でか。

 ちょっと怖い。


 足元に意識を取られていると――


「天馬」


「なに?」


 隣に並んできた港ヶ陸が、声をかけてきた。


「ありがとうな」


「なに?」


 思わず聞き返す。


「三問目を突破できたのはお前のお蔭だ」


「あー……」


 あれか。


「クイ研のみんなが突破できたのは、お前のお蔭だけどね」


 俺は、そう返す。

 実際そうだろ。

 俺一人の答えじゃなくて、最終的に決めたのはあいつだ。


「ありがとうな」


「だからなんでここでお礼?」


 思わず笑う。


「まだクイズは続くんだろ?」


「グラウンドに降りたらな」


「降りたら?」


 一瞬の間。

 穂積が、少しだけ真面目な顔になる。


「もう相談できなくなるんだ」


「え?」


 その意味を考える前に――


 状況が、変わった。


 グラウンドに降りた1000人。

 その全員が、スタッフの手によって攪拌された。


「はい、こちらへ!」


「止まらないでください!」


 誘導されるままに歩く。

 流される。

 気づいた時には、周りに知っている顔がいなかった。


 さっきまで隣にいたはずの穂積も。

 白樫部長も。

 クイ研の連中も。


 ……いない。


 ばらされた。

 完全に。


 同じ組織の生き残りを、意図的に引き剥がした配置。

 目くばせ、ハンドサイン、符丁。

 そういう「裏」を、全部潰すための配置。


 流石だな、と思う。

 十回も続いてる大会は、伊達じゃない。

 抜け道は、最初から塞いである。


 そして――


「第六問!」


 問題が読み上げられる。


「……は?」


 思わず、声が出た。


「こんな問題、わかるかぁ!!」


 誰かの叫びが、全体の感情を代弁した。

 怒号と混乱が、1000人を包む。


 情報が足りない。

 知識も、推測も、役に立たない。

 純粋な「勘」か、あるいは何かのひらめき。

 そんなものが必要とされるレベルの問題。


 やばい。

 思考が追いつかない。


「30秒」


 機械的なアナウンス。

 短い。

 考える時間が、圧倒的に足りない。


 周りが動く。

 人の流れが、一方向に寄る。

 俺は、逆らわなかった。


 気づいたら、×のゾーンに入っていた。

 理由はない。

 ただ、流れに従った。


 まあ、そんなもんか。

 考えて分かる感じも無かったし。

 半分、諦めに近い感覚。


「答えは……あれだぁ!」


 黄石の指さす先はオーロラビジョン。


 ×。


「おおおおおおおお!!」


 歓声と悲鳴が混じる。


 正解。

 ……正解か。


 胸の奥が、少しだけ軽くなる。

 周りの動きに逆らわなかった。

 それだけのことなのに。

 妙に、生き延びた実感がある。


 それからも、問題は続いた。


 七問目。

 八問目。

 九問目。


 流されることもあれば、少しだけ考えることもあった。

 正解するたびに、人が減る。

 間違えるたびに、人が消える。

 当たり前のように、削られていく。


 そして―― 十問目。


「正解は、あれだぁ!」


 黄石の声。


 オーロラビジョン。


 表示される記号。


 〇。


 俺は×のゾーンに立っていた。


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