↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
一次予選:二万四千分の百! ハリスタマルペケクイズ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/121

一次予選:ハリキリスタジアム 3


 第二問は、正直なところ記憶が薄い。

 いや、問題自体はちゃんと聞いていたはずだ。

 歴史だったか、地理だったか、あるいは文化人類学めいた何かだったか。

 でも、答えに向かう過程があまりにもスムーズすぎた。


「○」


「だな」


「異論なし」


 穂積と白樫部長を中心に、数秒で結論が出た。


 迷いがない。

 議論ですらない。

 確認作業。

 そんなレベルだった。


 俺はその流れに乗って、同じ場所に立つ。

 それだけ。

 結果は当然のように正解。

 歓声。


 さっきと同じように、クイ研の連中はまたきゃいきゃい騒いでいる。

 ……いやほんと、あんたら自信あったんじゃないんか。

 さっきも思ったけど。

 まあ、もう突っ込むのも面倒だ。

 周囲を見れば、また人が減っている。

 目に見えて。

 さっきよりもさらに間引かれている。


 アナウンスが流れる。

 黄石アナではなく、放送を通じたウグイス嬢の声で。


「現在の生き残りは、一万人を切りました。ここからは内野席を用いたマルペケとなります」


 一万人。


 あれだけいたのに、もう、そこまで減ったのか。

 まだ二問しか終わってないのに。

 胃のあたりが、少しだけ重くなる。

 ここまでで失格になった連中は左右の外野席に取り残されて。

 俺たち生き残り組はバックネット正面に移動させられて、数分。


 ――三問目。


 司会の男が、またあの動きをする。

 腕を上げる。

 止まる。

 空気が、凍る。


 さっきよりも静かだ。

 人数が減ったせいか。

 それとも、残っている連中の質が変わったのか。

 どちらにしても、軽い空気じゃない。


「第三問!」


 落ちてくる声。

 そして、問題が読み上げられる。

 ――時事問題。

 具体的な内容が耳に入った瞬間、俺は思わず眉をひそめた。


 これ、覚えある。


 どこでだ。


 ……英字新聞。


 就活用に、無理して読んでたやつ。


 一月ほど前の記事だ。


 確か――


「制限時間は五分!」


 短い。

 一気に縮んだ。


 ざわ、と周囲が揺れる。

 さっきまでの余裕が、明らかに削がれている。


 クイ研の方を見る。

 白樫部長と穂積が、顔を見合わせている。

 沈黙。


「……わかる?」


 誰かが小さく言う。


「わかりません」


 白樫部長が即答した。

 迷いなく、わからないと言った。

 他の連中も、似たような反応だ。

 さっきまでとは明らかに違う。


 手応えがない。

 そんな空気。


 でも、俺には、答えが分かってた。


 これはペケ。


 ペケ、なんだけど。


 ……ペケ、だったと思うけど。


 あの記事、ちゃんと読めてたか?


 なにせ英文。


 曖昧なまま流し読みした部分も多かったはずだ。


 記憶も、正確とは言い難い。


 クイ研の連中が悩んでいる。

 その姿を見るほどに、俺の中の確信が揺らぐ。

 そもそも、こいつらが分からない問題を。

 俺が分かるのか?

 そんなはず、ないだろ。

 そもそもペガサスの問題、俺間違えてたし。


 口を開きかけて、閉じる。

 言えない。

 責任が重すぎる。


 もし間違ってたら?

 七人まとめて落ちる。

 俺のせいで。


 そんなの、無理だ。


「あと二分だぞ?」


 上から声が降ってくる。

 司会者の黄石だ。

 俺らの逡巡を楽しそうに眺めてる顔が、オーロラビジョンに大映し。

 最悪だな、この人。

 ……いや、煽り役としては最高なのかもしれないけど。


 ふと、視線を感じた。

 横を見る。

 穂積が、じっとこっちを見ていた。


「わかったのか?」


 小声で耳打ち。

 鋭いな、こいつ。


「知ってるような…… 気がしないでも」


 俺も小声で返す。

 曖昧な言い方になる。


「自信が無いんだな?」


「うろ覚えの気もする」


 ひそひそ話。

 他の連中には聞こえないように。


「今、俺たちクイ研は答えを持っていない。指針もない」


 詰めてくる。

 逃がさない感じ。


「お前の就活知識に期待している。白樫部長の言ってたあれは本音なんだ」


 声に、重さがあった。

 祈り。

 信頼。

 そういうのが、混ざってる。


 ……困る。


 お前が真剣であればあるほど困る。

 万が一。

 いや、十が一くらいで誤答だったら。

 責任が取れない。

 恨まれるのが怖い。


 そういうの、無理だ。


 だから、逃げる。


「きっと思い違いだから…」


「それでいい。教えてくれ」


 遮られた。

 強い目線。

 圧がある。

 面接官よりきつい。

 ……逃げ場がない。


 俺は、観念した。


「×だと、思う」


「そうか」


 それだけ言って、穂積は一歩下がった。

 俺から距離を置く。

 動きに意図が感じられる。


 ――ああ。

 そういうことか。


「さあ、一分を切ったぞ! タイムアップは勝負の放棄とみなす! みんな、走れ、走れ!!」


 司会がさらに煽る。

 周囲がざわつく。


「どうすんだよ!」


「もう決めないと……!」


 その時、穂積が叫んだ。


「思い出した!」


 やっぱりな。

 距離を取った時からこうするんじゃないかって思ってた。


 クイ研全員が、あいつを見る。


「これ、前に外国人講師から聞いた奴だ!」


「マジか!?」


「○か×か、どっちなんだ!?」


 穂積は、迷いなく言った。


「答えは×だ! 自信がある!」


 ……穂積。

 俺の答えを、自分の記憶にすり替えた。

 俺が何を気にして躊躇してたのかを察して。

 俺が恨まれないように。

 責任を引き受ける形にした。


 こいつ本当にヒーロー気質だな。

 大人でもあるな。

 俺はまた、助けられてる。

 今日、何回目だよ。

 今までで何度、助けられたよ。


「30秒」


 機械的な声が響く。


「天馬! 走れ走れ!」


「おう」


 もうみんな走り出している。

 俺も遅れて動く。

 港ヶと並ぶ。


「20秒」


 距離はある。

 全力で走れば、間に合う。


 でも。


 こんなことで全力出すのか?

 必死な姿、晒して。

 ダサくないか?


「おせえぞ天馬!」


 手を掴まれた。

 引かれる。

 強い力で。

 こいつは、俺を置いていかない。

 でも、このままだと。

 こいつの足も止める。


 それは―― イヤだ。


 さっき助けられたばっかりだろ、俺。


 だったら、やるしかない。

 全力で走る。

 足を回す。

 息が上がる。

 ダサい。

 みっともない。

 でも今はどうでもいい。


「10秒!」


 通路の出口。

 スタッフがパーティションの準備をしてる。


「5秒、4秒、3秒!」


 飛び込む。

 ×の陣営、三塁側内野席に。

 間に合った。


「なにもたもたしてんだよ」


「ヒヤヒヤしたぜ」


 肩を叩かれる。

 荒い息のまま、苦笑するしかない。


「タイムアップ!!」


 司会者の声が響くと同時に、背後でパーティションが置かれた。


 ――そして。


 結果は、×。


 歓声が、爆発する。


 また、誰かが消えていく。

 大量に。

 でも、今はそれよりも。


 隣を見る。


 穂積が、いつもの顔で立っている。

 何事もなかったみたいに。


 でも、俺の視線を感じたのか。

 こっちを振り向いた穂積の頬に。

 一瞬、ガキ大将のような笑みが浮かんだ。

 出会った頃みたいな。


 ……借り、ひとつだな。


 こうして俺たちは、三問目も突破した。


 残り、四千人。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。