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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
第三BF:ステックソン ジョブ別つなひき 一問多答リレークイズ

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おいくつですか? 1


「まず、前提を説明します」


 張りつめていた空気が、少しだけ整えられる。


 怒号も涙も一段落して、全員が次に何が来るのかを待っている状態。

 勝者敗者問わず、俺たちは閑君に集められた。

 さっきまで敵味方で綱を引き合っていた連中が、今は同じ円の中にいる。

 妙な一体感と、妙な距離感。

 そのどちらもが、まだ消えきっていない。


 例外は二人。

 新母夫婦。

 彼等は挑戦者側ではなく、スタッフ側にいた。


 ほんの少し前まで、

 あの中心にいたはずの二人が、

 今は完全に外側にいる。


 春香さんは達也さんの手を握ってにこにこ。

 ついさっきまでの般若の顔はどこへやら。

 まるで何事もなかったかのようなオカメ仮面の笑顔。


 ……怖い。


 達也さんは額に汗しながらこちらに向けてぺこぺこ。

 妻の甘ったるい笑顔に応える余裕もなく、ただひたすらに頭を下げている。

 周囲に対してか、それとも、さっきの出来事そのものに対してか。


 良かったね、離婚の危機は去った模様。


 ……良かったのか?


 胸の奥に引っかかるものはある。

 でも。

 良かったことにしとこう。

 もう触りたない。

 誰もが同じことを思っているのか、彼等と接触しようという者はいなかった。


「こちらの新母達也さんが、急病を発症。ドクターストップがかかり急遽日本へ戻る事となりました」


 閑君が示すところの急病人はずっと赤べこ状態。

 カクカクと首を振り続けるその姿は申し訳なさと気まずさの塊。

 そのぎこちなさに、滑稽さに。

 誰もツッコまない。

 ツッコめない。


「我々としては欠員1名を埋めなければなりません」


 成程。そういう筋書きね。

 あまりにも綺麗な落としどころ。

 全員がそれを理解して、そして、理解したふりをする。

 これに文句をいう人はいないようだ。


 というより。

 言える空気じゃない。


 そうだよね。

 あんな修羅場再燃させたくないもんね。


「ですので、前言を翻しての敗者復活戦を行います――但し」


 ここで念押しか。

 さっきまでの軽さとは違う、番組としての重みが乗る声。

 何を念押すんだ?


「この【急病】と敗者復活。どういった形でオンエアに反映するかまでは、現時点で定めておりません。日本にいる編集班と今後協議を重ねた上で、あるべき形としてお茶の間にお届けすることになるでしょう」


 つまり。

「現実」と「放送」は一致しないかもしれない。

 俺たちは、その境界線の内側にいる。


「運営からお願いすることはただ一つ。オンエアが現状と乖離したものになったとしても、皆さまにおかれましては『あのときは本当はこうだった』といった情報を流布しないで頂きたいのです」


 空気がまた一段、静かになる。

 これはお願いという形をしているが、実質的には契約だ。


「若き夫婦の将来に重大な影響を与えかねない状況を鑑みまして。ここにスタッフ一同強くお願いするものにございます」


 正論。

 正論だからこそ、誰も逆らえない。

 さっきの光景を思い出せば、なおさらだ。


『春香が般若と化し、愛する旦那を勝者から引きずり下ろした』


 その一言がどれだけの爆弾になるか、想像できてしまうから。


「おねがいしまーす」


 春香この野郎。


 この軽さ。

 この切り替えの速さ。

 さっきの嵐が嘘みたいだ。

 だからこそ厄介だ。


「すみません! ほんとすみません」


 達也大変だね。

 心の底からそう思う。

 あれはもう、クイズどころじゃない戦場だった。


「状況は分かったな? じゃあ勝者は勝者席に。敗者はあのパイプ椅子に座ってくれ。間もなく撮影再開だ」


 一気に現場が動き出す。

 さっきまで止まっていた歯車が、また回り始める。


 スタッフの足音。

 機材の移動音。

 誰かの小さな咳払い。

 クイズの現場が戻ってくる。


「すみません、椅子、7脚しかありませんが……」


 ジャガイモ面少年・田婆君からの現実的なツッコミ。

 こういう一言で、張り詰めていた空気が少しだけ緩む。


「新母妻は夫の付き添いで日本便に乗ったんだよ」


 納得と、ちょっとした安堵と、ほんの少しの気まずさが混じった声。


「「「あぁあ」」」


 そういうことになった。

 ――そして。

 誰もそれ以上は深く考えないことにした。


 この場にいる全員が、それぞれの立場と空気を理解した上で。

 次のゲームへと、意識を切り替えていく。


「皆サんお待たせしまシた~」


 場の空気を、軽やかにぶった切るような声。

 我らがあざとい女神系添乗員・サンタフェさんのお出ましだ。


「臨時ゲストサマ、お連れいたシまシたよー」


 サンタフェさんが小走りで閑君の下へ。

 スタッフ同士で何やら短く言葉を交わす。

 そのやり取りの間にも、現場の視線は自然とその後ろに引っ張られていった。


 彼女と共に来たのは赤髪のゴージャス美人。

 一瞬で分かる。

「格」が違う。


 水着も攻め攻めの真っ赤なビニール生地ビキニ。

 隠す気がない。

 むしろ見せるためにある布。

 陽光を受けてきらめく肌。

 腰の位置が嘘みたいに高い。

 作り物みたいに整ったライン。

 その存在そのものが、この場の空気を一段階別のものに変えてしまう。


 新母妻が新母夫の目を後ろから両手で隠す。


「たっちゃんは見ちゃダメぇー」


 いちゃついてやがる!


 あかん。


 アイツらをみると、なんかこう。

 理不尽を叫びたくなってしまうから、見んとこう。

 意識から追い出してしまっとこう。

 あれはもう全てに決着がついた話で、ここにはいないはずの人たちだ。

 強制的に視界の端へと押しやってしまえ。


「さて、ここで敗者のあなたたちに施される敗者復活クイズとは! 題して! お嬢さん、おいくつですか? ハイ&ロー!」


 一瞬、理解が遅れる。


 そして。


 ざわっ。

 ざわっ。


「は?」


「なんだそれ」


「シンプルすぎない?」


 そんな小声があちこちから漏れる。


 ちょっと良くわからないけど、赤髪の美女さんが鍵になりそうだ。

 というか。

 どう考えてもそれしかない。


「早押し機は本土に送ってるから、ここでは挙手制を取るぞ。誤答お手付きは一回休み。正解したら、ゲストのお姉さんの年齢を当てるチャンスが与えられる。じゃあお姉さん、カモン!」


 場の中央に視線が集まる。

 ゴージャス美女降臨。

 ゆっくりと、堂々と。

 まるで舞台に上がる役者のように。

 俺らの視線を気持ちよさそうに浴びて。


 キングに引けを取らない高慢さが物腰から滲み出てる。

 ただ立っているだけで、周囲が一歩引いてしまう。

 歩こうものなら道を開けてしまう。

 そうした自然と滲み出る格上感。


「「「おおー」」」


 解答席からは野郎どもの感嘆。

 わかるよ、わかる。

 もの凄いしね。

 単なる美人じゃない。

 存在感がある。


 さらにはセクシー極まりない。

 うちのチームのものすごい代表モーリーがバイオレットナンバーワンなら、

 このお方はオールフラワー永世チャンピオンだ。

 そりゃあ唸る。

 感嘆する。


「……」


 ……衿衣の目線に冷たいものが混じった気がする。

 刺さる。

 横から、無言の圧。

 意識するの、止そう。


 はい、やめやめ!

 自分の思考を強制終了。

 今はクイズだ。


「こちらのグラマーな美女はティリザベスさん。ご身分は明かせないそうだが、お忍びのバカンスでステックソンまでやって来たらしい。いいかみんな、お忍びだぞ? あんまり露骨な態度取って勘気を被っても、僕しらねーからな?」


『ご身分は明かせない』


 その一言で、ざわめきの質が変わる。

 ただの美女じゃない。

 何かある。


 ティリザベスさんは手に持った扇をひらひら。

 たいそう優雅。

 完全に慣れている仕草。

 良きに計らえのポーズ。

 マジ高貴っぽいな。

 冗談じゃなく、どこかの国のお妃様でもおかしくない。


「クイズ説明の続きな。年齢あてに成功したら、一発で復活決定だ。年齢あてを外したら、ティリザベスさんから、回答が実年齢よりハイかローか公表してもらえる。もし失敗しても心配するな。なんどだって解答できるぞ」


 頭の中でルールを整理する。


 クイズに正解

 ↓

 年齢当てチャレンジ

 ↓

 外してもヒントがもらえる

 ↓

 繰り返し可能


 成程な。


 わりかし短時間で決着ついて、ゲーム的なギミックも付けて。

 その上目にやらしい現地女性を撮れるんだ。

 バラエティとしては満点に近い構造。


 このクイズ形式をさっきの打ち合わせ20分くらいで思いついたなら。

 実行に移したなら。

 それは素直に彼等の機転と実行力を称えよう。

 現場力ってやつだ。


「ルールは分かったな?」


「「「はーい」」」


 返事は揃う。

 でも。

 全員の意識がどこに向いてるかは明白だ。

 ティリザベスさんだ。


「鼻の下伸ばしてるなよ居権?」


「無理でーす」


 即答。

 流石、オランシェでもステックソンでもまずは風俗店を探した男だ。

 自分に正直でよろしい。


「じゃあ行くぞ、問題!」


 空気が締まる。

 視線が一斉に前へ。

 さっきまでの観賞モードから、勝負モードへ。


 その切り替えの速さこそが、こいつらがここにいる理由だった。


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