第三BF:ステックソン 5
三問目は今年に入ってから新たに発見された生物の問題。
地球の話ね、念のため。
……っていう一言が入るあたり、もう完全に感覚がズレてきてる。
ついさっきまで、馬の下半身つけた連中がかき氷食ってた場所にいるのに、
地球の新種ですって言われると、逆にそっちが遠い話に聞こえる。
これは俺の他に双滝さん、モーリー、衿衣の計四人が即時投了。
早い段階で見切る。
さっきの反省がちゃんと活きてる。
が、弊害。
弱まりすぎた綱引き力で、残り4人が突っ伏した。
ロープが緩んで、前につんのめるみたいに倒れる。
あれ、ちょっと危ないな。
普通に顔からいってる人いるし。
誰っていうか荒火なんですけどね!
既に汗まみれだったキングの顔面は砂まみれ。
黒い上着に、汗と砂。
なんかこう、見た目だけならだいぶ悲惨なことになってる。
でもキングは涼しい顔。
何事も無かった風で、顔をぬぐいもしない。
この人、どこまでキャラ守るんだろうな。
いや、俺の中ではキャラを演じてる説がついに過半数を割った。
キングはキング。
根っからこういうやつ。
たぶん。
「……っ! ……ふ!」
モーリー、荒火にちらちら目をやって決壊寸前。
だめだ、見ちゃいけない。
荒火も、モーリーも。
ここはすでにステックソンの火薬庫だ。
笑っちゃいけない。
チームリーダーの威厳と尊厳の為に。
ここは手の甲を抓ってでも我慢すべし!
モーリーですら肩を震わせながら笑いをこらえてるんだ。
あの魔物オタですら耐えてるのにここで吹いたら負けだ。
なんの勝負か分からないけど。
「黒い王様の貴重な汚れシーン」
ボーイが自然紹介系のアナウンスを急に投じてきた。
やめろ。
それはダメだ。
決壊する笑いの渦。
「「「「あっはっはっは!」」」」
無理だった。
完全に持っていかれた。
機内一位様も呪殺ナースもみんな堰が切れちゃった。
キングはなおも不遜な態度で腕を組んでる。
でも耳は赤く染まってるね。
気付かないであげよう。
あれに触れるのは、たぶん命取りだ。
精神的に。
「そう」
あと、これでも笑わない衿衣は凄い奴。
この子、どこに感情置いてきたんだろうな。
いや、あるのは分かってるけど、出し方が独特すぎる。
でも。
なんか孤高の雰囲気はない。
チームに寄り添う距離感に仁王立ちしてる。
なんかウチもチームワークあるんじゃないか?
波、来てるんじゃないか?
さっきまで弱いチームって思ってたのに、今はなんとなく纏まってる感がある。
笑いって、意外と効くのかもしれない。
そんなことを考えてる間ずっと、一般職と冒険者が熱闘継続中。
どうやら奴ら、わからん問題放棄作戦は取っていない模様。
愚直に真摯に常に全力。
それはそれで潔いし、そっちが王道の感はある。
ぎりぎりの押し合い。
ロープが軋む音が、やけに大きく聞こえる。
だが。
実際問題。
お互いの掛け声もだんだんと弱って来てる。
そりゃ気温32度だから。
息も切れるし喉も乾く。
見てるだけでも分かる。
あれ、かなり削れてる。
体力も、集中力も。
「ダメ押しをするぞ」
キングがチームを集める。
で、見まわす。
女性陣を。
より正確には、その胸や腰回りを。
セクシャルな箇所を、じっくりと。
衿衣が不快感に眉を寄せる。
だが、感じられない。
エロスの雰囲気が。
じっくりではあるがねっとりではない。
単に機能を比較検討しているだけの目線。
「毛利井」
「なんですかこのスケベキング!」
「ポジションチェンジだ。お前、ボーイと先頭を代われ」
「綱引きの力学的な問題かしら」
「違う。オスの本能を穿つ」
「え?」
椰子泉さんの貴重な混乱シーン。
あの人が戸惑うの、初めて見た気がする。
「毛利井。お前の身体が一番スケベだ」
「言い方」
「セクシャルバイオレットナンバーワンだ」
「まあ、続けて」
受け入れるんだ。
そこ、流すんだ。
それに何か機嫌良くなってないか?
「だからお前はパーカーを脱げ。で、誰からも投了宣言が出なかったら俺が行け、と指示を出す」
「そうしたら?」
「お前は片手を綱から外して、胸元に持っていき、「あ」と言え」
……なんだそれ。
いや、狙いは分かる。
分かるけど、やり方が直球すぎる。
冒険者チームの先頭は夜の街に繰り出す居権。
一般職チームの先頭は免疫低そうな茂侍。
色仕掛けは特攻か。
確かに、あの組み合わせなら刺さる可能性はある。
あるけど――
「それ、クイズ番組でやる戦術か?」
「競技クイズならやらん。だがウルティモはクイズ《《バラエティ》》だ」
思わず漏らした俺の不平交じりの感想を荒火は一刀両断。
内容はさすがの分析力。
不快感だけで意見した俺、ぐうの音も出ない。
「まあ、本人がやる気になってるし」
それはそう。
よし。
俺も開き直るか。
上手く行けば、いい「画」になるのは間違いないんだから。
《《バラエティ》》の文脈なら。
綱引きはようやく冒険者チームが競り勝って回答権。
しかしながら、青息吐息で酸素がたりなさそうな新母妻がタイムアップとなって終了。
こんどは穂積ではなく女子大生コンビがフォローに回った。
でも、春香さんに反応は無い。
膝に手をついて、肩で息してる。
意識朦朧の風情。
あれ、もう限界に近いんじゃないか?
一般職チームも茂侍や白山さん、ハナさんは据わり込むどころか倒れ込んでる。
両チームは共に無駄に体力を削り合った格好。
……ほんとに無駄だったのかは分からないけど。
少なくとも、この先に響くのは間違いない。
さて、ポジションチェンジをした俺たち。
ロープの位置が入れ替わるだけなのに、空気が変わる。
さっきまでのなんとなく引いてる集団から、ちょっとだけ狙ってる集団になった感じ。
「なんだか汗、一杯かいちゃったし……もー脱いじゃえ!」
モーリーがパーカーをぽいー。
あっけらかんとした動き。
迷いがないというか、恥じらいがないというか。
敵チームの男どもが思わず「おおっ!」。
おいおい冒険者の筋肉コンビ。
あんたらもか。
で、大渓さんのヤレヤレポーズ。
この人はこう、ホント余裕があるな。
垂須さんは目もくれずに足元の砂浜をトントンザッザ。
この人はこう、ホント余裕がないな。
「おっとぉ、露骨なポジションチェンジだな。解ってても男どもは見ちゃう! 悲しいサガよなぁ」
黄石にはさすがにバレるか。
というか、バレる前提でやってるよなこれ。
見抜かれてナンボ、みたいな。
あっちでは閑君が苦笑い。
どうやらこれは彼の許容範囲らしい。
ならば遠慮は無用。
番組として成立してるなら、何やってもいいってことだ。
……そのライン、だいぶ緩い気がするけど。
やっぱり荒火の見立て通りバラエティでもあるんだな、この番組。
「さて、場を改めたところで問題! レークランド王国における有名な独立戦争、十継嗣の乱。この継嗣たちの通称を述べよ」
魔王入滅以降の異世界ヒューマン史か。
日本でもドラマチックな展開で有名なやつ。
なお映像化は長大過ぎて実現されてない。
ゲーム化やノベライズはいくらでもされてるんだけどな。
俺だって全部は無理だけど八人くらいの継嗣の名前は知ってる。
八人?
チーム人数と同じだ!
頭の中で、ばらばらに覚えてた単語が急に並び替わる。
あ、これ繋がるやつだ。
いける奴だ。
仲間の反応を探る。
投了なし!
綱は強く引かれている。
さっきとは違う。
力の入り方が揃ってる。
これまで溜めて来た体力が爆発してる。
だがほか二チームも分かってそう。
自分らが答えるためというより俺たち異端児チームに解答権を渡さないために死力を振り絞ってる感じがある。
「モーリー! 行け!」
すかさずキングからのゴーサイン!
「いやーん♪ お胸がぁ!」
モーリーお前もっとさぁ、それっぽい演技ってもんが……
折角のメリハリボディが棒演技で台無しだ!
「うわぁああ!?」
「いゃっほーーい!」
台無しではありませんでした。
男のサガという物は俺の想定よりずっと愚かしく悲しいものでありました。
「しまったぁぁ!!」
「ハ、ハレンチな!」
一瞬で崩れる両チームの前列。
ロープのテンションがふっと抜ける。
急に軽くなった綱をぐんぐん引く!
手にかかる抵抗が消えて、逆に怖いくらい進む。
ああ、こういうのが「崩れる」ってやつか。
綱に抵抗が戻りかけたところで!
ピッ!
判定役スタッフがフラッグを上げる!
「回答権は異端児チーム!」
良し!
胸の奥で、小さくガッツポーズ。
でも顔には出さない。
あんまり喜び過ぎるのはそれはそれでダサい。
剥き出しな人の表情をTV越しにお届けするのは俺的にNG。
「じゃあ順番に行ってみよう!」
モーリーが張り切って答える!
俺が持ってなかった答えを自慢げに。
「ネイチャープリンス」
さすが異世界オタ。
異世界問題では頼りになる。
こういう時、ちゃんと役割があるのは強い。
ただの騒がしい人じゃない。
「ランバープリンス」
双滝さんが答えたのは戦乱の覇者。
異世界史の用語集では全教科書に載ってる大基本。
俺にマイクが向けられる。
一瞬だけ、呼吸が止まる。
ここで外したら、流れが切れる。
「ノマドプリンス」
ランバープリンスと最後まで王位を争ったライバルを上げる。
口に出した瞬間、手応えがある。
ああ、これは大丈夫だ。
続いて仲間たちが澱みなく答える。
「シスタープリンセスっす」
「ディーバプリンセス」
「テイマープリンセスですぞ」
プリンセス三連発。
あ、テイマープリンセスは俺が答えるべきだったか?
俺のジョブ的に。
……こういうこと考えるの、スタッフ脳に侵されてるな。
やっぱノマドにしといて良かったわ。
妙な役割期待に縛られるの、なんかダサいし。
残り二チームはここでがっかりムード。
それもしょうがない。
俺だってそっちのチームにいたらそうなる。
残りの回答者二人が、こいつらだから。
万が一にも誤答はない。
「機内一位!」
「ダンディプリンス」
椰子泉さん、声に迷いがない。
さすがって感じ。
「そしてキング!」
一瞬だけ、間が空く。
「……キャラバンプリンス」
重低音で締める。
砂まみれのキメ顔で。
「異端者チーム一抜け! おめでとう!」
歓声と、ため息と、いろんな音が混ざる。
ロープから手を離して、指先を見下ろす。
砂と汗でざらついてる。
……勝った。
でも、なんかそれだけじゃない感じがする。
うまく言えないけど、
ちゃんと「取りに行った」勝ち方だった。




