第三BF:ステックソン 4
「我らがTV曲が月曜九時、2クールのドラマを定番化して8年が経ちますが、この枠のドラマのタイトルを列挙せよ」
よし、綱を引こう。
眼前の双滝さんもぎゅっと綱を握る手に力を込めたのが見える。
が。
「無理ー!」
モーリー、即座の投了宣言。
早い。
というか、迷いがない。
それに合わせて、みんなが力を抜いたせいで体が持ってかれる。
引こうとしてた力の行き場がなくなって、前にぐらっと揺れる。
ロープって、思ったよりも正直だ。
「私なら10個は答えれたのに」
双滝さん、恋愛ドラマ好きそうだからね。
なんとなくイメージ通りだ。
俺たち異端児チームが抜けた分、綱引きの支点力点作用点はどうなるの?
とも要らぬ心配が頭を掠めるが。
そこは異世界。
便利な魔道具。
なんか接合点のリングがぼやぼやーっと淡い光を放つと、なんか120度の角度にての綱引きがそのまま継続していた。
「魔法ってすごい」
「二年に一度は見る光景っす」
「あなた本当にウルティモを知らないで参加したのね」
俺の感動に誰も共鳴してくれなかった。
畜生。
ハナさんが恋しいぜ。
砂浜を蹴り蹴り戦況に目をやると、優勢なのは冒険職チーム。
やっぱり筋肉中年タッグは強いな。
「オー、エス! オー、エス!」
一般職チームのイチニッサンよりずっと声がでかい。
声の圧が、そのまま力になってる感じ。
ああいうの、理屈じゃないんだよな。
そのまま数十秒、じりじりと綱が一般職側に引っ張られ……
最後尾の穂積が規定位置に達し、決着のフラッグが上がった。
その穂積の背中。
迷いのない動き。
ああいうのを見ると、やっぱり「違う」と思う。
俺と違うのはもちろんながら。
荒火ともまた。
それは牽引力というか、少年性というか。
「我に従え」と「俺についてこい」の違い。
そんなことに想いを馳せている間に解答者たちにマイクは回り。
居権、後さんと正答が続き。
三人目、塩湖さん。
「中秋の塩辛蜻蛉」
ブー!
「それは他局のドラマだろ! このばかちん!」
黄石のお叱りに塩湖さんが「そうだったか!?」と理解してない模様。
あの人、たぶん本気で分かってない。
自信を持って答えた感ある。
よくある思い込み。
勘違い。
ともあれ、ひとまずの危機は回避された。
なのに。
なんかこう、助かったのにすっきりしない。
他人のミスで命拾いするの、あんまり気分よくないな。
「ドンマイです、塩湖さん」
憮然とする塩湖さんの肩に、ポンと乗せられた手。
真っ先に、無自覚に。
これをするから穂積は強い。
フォローが速い。
しかも自然体。
あれをやられると、チームの空気は崩れない。
「気にすんな」
「俺はむしろ期待もしてなかった」
「なんだとぅ!」
チームから漏れる和やかな笑い。
ピリつきかけた空気はもう霧散してる。
ふーん。
雰囲気いいじゃん。
勝つチームの空気って、たぶんこういうやつだ。
ミスが出ても、崩れない。
よし、俺も今のうちに問題点を整理しとこう。
このままだと、ただ流されるだけで終わる。
それはちょっと、ダサい。
「キング、質問」
「なんだ?」
視線が一瞬だけ集まる。
別に大したこと言うつもりはないんだけど、こういう時に口を出すと、妙に緊張する。
「今の問題、俺二個しか答えわからなかったけど、手を上げるべきだった?」
「二個か……」
しばし黙考。
キングの思考が、目に見えるみたいに静かに流れる。
無駄な動きがない。
「継続しよう。解答順を入れ替えて対応する。一個だけなら投了宣言だ」
合理的に数字で切る。
従わせる者たちに曖昧さを残さない。
「いい意見だった。感謝する」
え?
キングが感謝?
俺に?
ちょっと意外で、反応に困る。
こういうところでちゃんと拾うの、ずるいよな。
懐の深さも王の資質か。
……いや、単に勝つために必要だからやってるだけか。
どっちにしても、真似できる気はしない。
「次の問題!」
ホームポジションに。
ロープを抱え直す。
手のひらにざらっとした感触。
綱の感触のみならず、砂と、溶岩と、灰の破片が混ざり合った感触。
「この異世界の魔法はワイズメンズタワーにより12のカテゴリに分類されていますが、この分類を列挙せよ」
地水火風、あと空間。
ぱっと思いつくだけで五つ。
さっきより確信がある。
これは、行ける。
綱を引こう。
体に力を込める。
開始のホイッスルにタイミングを合わせて――
ピッ!
「ごめんなさい」
目の前の双滝さんが手を上げる。
早い。
でも、正しい判断だ。
力が抜ける。
でも、さっきよりも納得はある。
「私なら全魔術系統諳んじれるのに!」
モーリーご立腹。
強いのは魔物だけじゃないのね。
これからは異世界オタと呼ぼう。
うちは全員手を綱から離してまたもや離脱。
さっきよりも泥沼の綱の引き合いを制したのは一般職チーム。
「地」
「水」
「火」
「風」
テンポよく四人が答えて、五人目。
解答者はにしし笑いの小悪魔こと白山さん。
「はぁ……はぁ……」
二度の全力綱引きで息が切れてる。
肩が上下してるのが、こっちからでも分かる。
非力そうな女学生だしな。
思った以上に体力削られてるな、あれ。
「早く、早く」
白山さんの後ろから、焦りが前面に出た男の声。
「あと五秒」
「あるだろ、ほら、まださぁ!」
垂須さん……だな。
なんだあの表情。
声も裏返りかけてるぞ?
「三、二、」
「毒属性?」
「ざんねーん! それは地の範疇だ!」
黄石がせせら笑う。
白山さんがうつむく。
そして。
「んなこともわかんねーのかよ!」
垂須さんが吠える。
完全に裏返った声。
イライラ爆発の風情。
あ、思い出したわ。
転移門ペーパークイズの結果待ちの時、喋りまくってたハナさんに向けて「うるさいぞ!」って余裕なく怒鳴った声。
あれ、垂須さんの声だったわ。
……あー。
なんだかなぁ。
昨日飲んでた時は、穏やかな人だと思ったんだけどな。
なんだかなぁ。




