第三BF:ステックソン 3
早速一戦目。
の前に、綱引きの配置を決める段階で、それは発覚した。
「このチーム、弱いっすね」
ボーイ、言い方。
でも否定できないのがまた嫌なところ。
「まず男女比が4:4」
ここで男女差別反対というような人は流石にいない。
というか、今さらそういう建前を持ち出す空気でもない。
単純に「引けるかどうか」だ。
因みに戦闘職チームは5:3ではあるものの、後さんと塩湖さんと言う
パワータッグが揃っている。
あれ、あの二人が並んでるだけでロープが可哀想になるレベルだ。
実際、軽く肩回してるだけで、周囲の空気が一段階重くなる。
一般職チームは男女比6:2。
ヒョロガリの茂侍を除いた男性陣は筋骨隆々とは言わないまでも、普段から体を動かしてる雰囲気がある。
「次に李野先輩がいるっす」
「これで実質男女比3:5だな」
「ひどい」
「だが事実だ」
李野くん、もう完全にそういうポジションで固定されてるな。
本人も嘆くが否定しないあたり、潔いのか諦めてるのか。
「それで市籠、お前はどうなんだ」
目線。口調。問い。重圧。
全部いっぺんに来た。
「それなりに」
「またそれか」
「こればかりはそれなりとしか言えない。平均的。スポーツやってる人には勝てない」
自分で言ってて、なんか就活の面接みたいだなと思う。
無難で、角が立たなくて、でも何も残らない答え。
「戦力として数えるか」
キングは一瞬だけ俺を見て、それ以上何も言わなかった。
評価されたのか、切り捨てられたのか、よく分からない沈黙。
「技法に移る。まずはスニーカーかスポーツシューズでない奴。脱げ」
「椰子泉さーん。このデブ横暴です!」
毛利井がビーチサンダルで反論。
「合理的判断なので却下」
すでにヒールを脱いでいた機内トップが切り捨てる。
「次にフォームを統一する。ボーイ、手本」
「ういっす。こうやって腰を落とし、ロープは握り込むんじゃなくて抱え込んで。顎というか上半身は上向きに、斜め後ろの空を見上げる感じっす」
ボーイ、妙に慣れてる。
というか、説明がやたら具体的だ。
「随分具体的ね」
「我がソサエティーで散々研究と実践を重ねた。体育科の連中からもお墨付きだ」
ああ、そういうやつか。
クイズだけじゃなくて、こういう番組形式を見越した攻略法も用意してくるタイプ。
大声測定器なんてのも自作してたしな。
本気が過ぎるぜ関西クイズソサエティー。
「従いましょう」
椰子泉さんが頷くと、それだけで全員の動きが揃う。
この人、なんだかんだでチームの軸になってるよな。
「掛け声はイチ、ニッ、サン! サンのタイミングでぎゅっと力を入れて引く」
荒火の指導に合わせるかのように、Aチームからも同じ掛け声。
茂侍。
声だけで分かる。
あっちはあっちで、ちゃんと仕上げてきてる。
「茂侍先輩も勝ちに来てるっすね」
「奴も立派なクイズ戦士だ。たとえ俺が相手でも本気で挑んでくるさ」
キングの声は淡々としてる。
それでもどこか嬉しそうな気配が漂う。
その裏にあるものは、なんとなく分かる。
本気で来いってやつだ。
「さー、そろそろ本番始めるぞ」
さっきまで折り畳み椅子に腰かけてた黄石が立ち上がる。
あの人の声が入ると、一気に「番組」になる。
さっきまでの準備が、全部前フリだったみたいに。
その背後で若手スタッフが掲げるカンペには、相談タイムはあと1分であると記された。
「最後に大事な決め事だ。読み上げられた問題が分からなかったら、綱から手を離して放棄!と声を上げろ。そうしたらその問題は捨てる。綱は引かない」
「敵は問題よりも環境。体力の損耗が最大の障害なのですぞ」
実にシンプルで実に割り切った作戦。
つまり、分からない問題で無理に粘ると、ただ力を消耗して。
綱を引く力がどんどんと弱まっていくということ。
選ぶゲーム。
捨てるゲーム。
二つの太陽の照り付けに、長い髪を汗で乱しながら。
それでも威風堂々、不敵な表情に一切の揺らぎ無いライオンキング。
荒火、やっぱカリスマってあるわ。
実力と知識が伴えばなおのこと。
完成してるわ。
少年漫画の章ボスの方向に。
「つまり、コンセプトは、こうだ」
もうキングに逆らおうなんてやつは一人もいない。
というか、逆らう理由がない。
合理的で、勝つための動きしかしてないから。
「狙うのは一撃必殺。勝てる問題にだけ全力を注ぐ」
その言葉が、妙に刺さった。
就活の面接で、似たようなこと聞いた気がする。
自分の強みをどう活かしますかみたいな。
あの時は適当に答えたけど、今は、そのお手本を目の前にお出しされた感じだ。
「「「イエス! キング!」」」
声が揃う。
俺も、遅れて口だけ合わせる。
イエス、キング。
……なんか、ダサいな。
でも、今はそれでいい気もする。
うちの先頭はがんばるボーイ。
ロープの先頭で、もうすでに腰を落として構えてる。
あいつ、こういう「体使うやつ」になると、途端に頼もしく見えるから不思議だ。
普段は警策で打たれてるのに。
次いで呪殺ナースで、俺三番目。
この並び、字面だけ見るとなんか妙だな。
体育祭の綱引きっていうより、RPGのパーティみたいだ。
最後尾には不動の黒ジャン。
後ろから全部を支える位置。
一番力がかかる場所に、迷いなく奴がいる。
しっかりスニーカーも黒に染めてる。
どこまで徹底するんだろうな、この人。
色だけじゃなくて、立ち方とか視線とか、全部王様仕様だ。
「いくぞ問題!」
黄石のコール。
一瞬で空気が締まる。
ついに戦いが始まる。
さっきまでの雑談みたいな雰囲気が、すっと引いていく。
「我らがTV曲が月曜九時、2クールのドラマを定番化して8年が経ちますが、この枠のドラマのタイトルを列挙せよ」
よりによってそこか。
分かる人には分かるけど、知らない人にはどうしようもないタイプ。
あまり恋愛系に興味の無かった俺としては、
複数回答中2コ、良くて3コは分かるかなといった問題。
ピッ!
綱の接合点、鉄輪の脇でチーフスタッフさん(山男風四十路)がホイッスルを吹いて綱引き開始。
あなたも…… その、なんだ。
赤白帽なんですね。




