第三BF:ステックソン 1
気温32度。砂塵は穏やか。
昨日まで肺に刺さってたあの粉っぽさが嘘みたいに、今日はただの乾いた風だ。
こういう日は、たぶん観光に来てる異世界民からすると最高のレジャー日和ってやつなんだろう。
故にバカンスを楽しむ観光客で一杯。
……というか、なんか普通に賑わってるのが逆に怖い。
つい昨日まで「死の砂塵」とか言ってなかったっけここ。
なんにせよ天候荒らさない保証をしてくれた火口の大精霊様にはマジ感謝。
砂浜は普通に砂の色をしていて、あのピンクだか何だかよく分からない色オランシェと比べてだいぶ地球寄り。
それでも火山灰の影響が大きそうで、黒い砂粒が2割くらいを占めてる。
強く足を踏み出すとふわっと薄い灰が舞い上がるしな。
やっぱり長時間いると灰には悪い影響がありそうだ。
海も白濁よりではあるけど青さをだいぶとりもどしてる。
遠目に見れば、まあギリで「海水浴場です」って言い張れるレベル。
近づくとちょっとミルク入れすぎたコーヒーみたいな色してるけど。
観光客の雰囲気もまた変わった。
オランシェのビーチは日本人ばかりだったけど、
ここでは日本人より現地人が目立つ。
というか――
人……でいいんだよな?
どう見ても鬼とか巨人とか、一つ目とかケモ耳とか。
胴から下が馬とか魚とかもいるけど。
勝者席で待機してるメダルプレゼンターはビキニメイルのマッチョレディー。
おそらく冒険者。
前衛戦闘職。
そいつが獰猛な笑みで俺たちへ向けてカモンのフィンガーサインをかましてきた。
野性味煥発。
スタッフよ、適正な人選を頼むぜ。
あの席に移るのが怖くなってしまったじゃないか。
で、すかさず李野くんは俺の背中に隠れた。
こいつはもう。
で、すかさず坊主は投げキッスをかました。
こいつはもう。
まあ、もう今さらか。
カンポス氏と共に風になって以降、だいたいのことは「そういうもんか」で処理できるようになってる。
慣れって怖い。
あるいは開き直りか。
感性の閉じてた窓が開いた感じ。
ただ、あいつらが普通にかき氷みたいなの食ってたり、家族連れでビーチ歩いてたりするのを見ると、ここはちゃんと生活の場なんだなって妙に納得する。
外見情報を無視さえすれば、異世界っていうより、外国の田舎町に来た感じ。
言葉通じないし、文化もズレてるけど、とりあえず人は生きてる、みたいな。
「気管保護のポーションをお配りします。火山灰や粉塵が食道の方へ流れる効果がありますので、直ちに服用してください。効果は4時間ほどになります」
若手スタッフが手渡して来たポーションの瓶をグイっと呷る。
仄かな酸味ととろ味がオランシェで食した寒天系デザート・ツルルを思い出させる。
あ、なんかよだれが生成されてきたぞ。
ここでのクイズが終わったらそこらのカフェでツルル食べよう。
そうして、24人の挑戦者が各々ポーションを飲み終わり。
ギルドカードを携帯せよとの指示を受け、ボストンバッグから取り出した頃。
相変わらずてかてかの黄石アナのお出ましだ。
「待たせたね諸君。ギルド酒場に夜の街。君らは随分ステックソンを満喫したようだな!」
なんと今日は虹色に輝くサングラス着用の、Tシャツハーフパンツといった大人の運動会の風情。
あと赤白帽辞めろ。
紐をちゃんと顎にぐるりと回しておりこうさん演出するのも辞めろ。
「そのせいで二日酔いになってる連中や腰砕けの若造たちもいるようだが、そんなんでチームの足引っ張っちゃっても自業自得って奴だ。僕知らないぞ?」
チームとな?
今日のクイズは集団戦になるのか?
24人……
如何様にも分けられる人数だな。
「まずは3つにチーム分けだ」
周囲がざわめく。
風が止んだみたいに、一瞬だけ空気が固まる。
「まあ、どうあれチーム分けはあるわな」
「第三BFだからね」
「問題は競技がなんであるかよ」
「体力勝負のやつは避けたいな」
「俺はむしろ歓迎だがな」
声のトーンは軽いけど、みんなちゃんと計算してる。
どのチームに入るかで、勝率も生存率も変わる。
そういうゲーム的な読みは、ここにいる連中は全員できてる。
俺以外は。
「みんななにやるか分かってるの? エスパー!」
訂正。
俺とハナさん以外は。
というか、そもそも「BF」って言い方にも、まだ慣れてない。
バトルフィールド。
なんかゲームっぽい言い回しだなって思うたびに、現実感が薄れる。
「じゃあまずAチームからだ。名前を呼ばれたらこっちへ来て順に並べ。まずは……舞網ちゃん!」
「はーい!」
「今日も元気だな!」
「お返事は元気よく!」
「おりこうさんだ!」
「わーい!」
「二十五歳だ!」
「わーい!」
「……次々行くぞ」
黄石ツッコミ負けた!
あの人が押し切られるの、ちょっと珍しいな。
ま、作為は天然にゃ叶わんか。
「大渓さん、墨市くん、新母の達也さん、垂須くん、茂侍くん、白山ちゃん、それと坊主!」
あ、垂須さんは黄石的には「さん」じゃなくて「くん」の枠なんだ。
年齢じゃなくてキャラで分けてるっぽいな、あれ。
「羽合悟道27――」
「ここカットな」
「ナムサンポ!」
「あれ……たっちゃんとチーム別れちゃった? なんで? どーして!?」
「違う違う、僕たちゃ別にイジワルでチーム分けたんじゃないよ新母の春香ちゃん。よしBチーム行くか」
この軽さ。
面倒臭くなりそうな状況が生まれる前にさっと流して次に行く。
進行役・黄石の面目躍如だな!
「後さん、塩湖さん、居権くん、全兎ちゃん、新母の春香ちゃん、港ヶ陸くん、田婆くん、広水さん」
また呼ばれなかった。
穂積とは多分、別チームにされるなってのは分かってた。
分かってたけど、名前を呼ばれるたびに、ちょっとずつ距離が離れてく感じがして。
なんかこう、気持ち悪い。
でも折角仲良くなれた垂須さんや頼りになる大渓さんとも別チームか……
それで俺のチームには……
でーーん!
今日も今日とて黒々しく染まった王様がいらっしゃる。
『お前、ウルティモ、辞退しろよ』
頭のどこかで、あの声が再生される。
テープレコーダーみたいに、妙にクリアな音質で。
緊張感が走る。
俺、なんだかんだ言ってあの言葉、まだ引きずってるみたいだ。
荒火に唾棄された時の俺よりは前に進んでるとは思う。
少なくとも、勝負を逃げてはいない。
いないんだが。
でも奴みたいにクイズにストイックに、競技者になった訳ではない。
今のやつから見た俺の立ち位置って、どんなんだろ。
中途半端な観光客か。
邪魔な素人か。
それとも――
「で、残りはCチーム、と。じゃあ、どうやってこのチーム分けをしたか発表するぞっと。挑戦者諸君! 昨日作った冒険者カードを取り出し給え!」
やっぱり活用してきたあのカード。
じゃなきゃあんなサービスしてくれる訳ないんだよなウルティモが。
おそらく昨日の「立ち入り禁止」の部屋で俺たちのチーム分け会議が行われてたんだろうが……
カードの何を基準に分けたのかな?
ステータスを均等に割り振ったのか?
それとも、また変な心理テストみたいなやつか?
「よーくカードを見てるんだぞ……制限解除! 項目【ジョブ】!」
え?
全員のカードが一斉にチロリンって鳴って……
名前欄の下の空白がふわっと光って……
項目が一つ追加されたぞ?
ジョブ:テイマー。
!?
「なんだこれ?」
「魔法使い?」
「カースメーカーってナニコレ? 明らかに間違ってるじゃない?」
残念だけど妥当なんですよ双滝さん。
「くっ…… なんだこれは!?」
珍しく荒火絡みじゃないのに茂侍が大声出してるぞ。
「にしし」
そんな茂侍を見て八重歯を光らせてる白山さん。
自分のカードは見なくていいのか?
それにしてもテイマーか。
テイマーね。
なんだろね、これ。
テイムをする人でテイマーなのかな。
飼い慣らす。
手懐ける。
そんなような意味だっけ。
調教師とはまた違う感じの。
あ。
あれか!
ヒッポカンポスたちが妙に俺に感心を寄せて来たり。
カンポスしとなんとなく意思疎通できちゃったりしたり。
ギルドでムチがなんかしっくり来たのはこのジョブ由来か!
だとしたら。
冒険者ギルドの判定水晶……あれすげーテクノロジーだぞ。
「では、チーム分けの理由を説明していこう。君たちのジョブ紹介も兼ねてな!」
……やっぱりその頭のサイズに合わない小さめの赤白帽、気になるわぁ。




