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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
第三BF:ステックソン ジョブ別つなひき 一問多答リレークイズ

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温度差 3


 いつメンたちは訓練所にお邪魔しました。

 で、例外が一匹。


「うおー、はがねのつるぎマジ重えー!」


 乾いた音が床に響く。剣の先が石畳に当たって、鈍く跳ねた。


「何でここにいる波名真《ぱなま》」


 ボーイ性の高さ故にボーイと綽名されたソサメン最年少の小兵。

 お前クイ研のストイックな勉強会にいるべきだろ?

 あいつらは揃ってホテルに直帰したぞ?

 

「あのなー市籠先輩」


 一応は先輩付け。

 礼儀は弁えてるのね。


「俺はクイズ戦士の前に、男の子なんだ」


 胸を張って言い切る。


「「「わかる」」」


 社会人トリオが深く頷いた。

 なんだこの連帯感。


「冒険に心躍らせなきゃ男の子じゃないよな!」


「誰だって心に剣を握っているものさ。自分だけの剣を」


「だよな、ボーイ?」


「うぅ…… この文脈でのボーイ呼ばわりは否定できないっス」


「でも、後で怒られるんじゃないの? 勝手に抜け出したんだろ?」


 何度でも前への人――垂須さんが問うと。

 ボーイは急に真っ青な顔になって。


 がくがくぶるぶる!


 マジ震えを披露した。


「だ、大丈夫。キングは許してくれるっす! はずっす! 信じたいっす!」


 自分に言い聞かせてる。


 ――訓練所の中は、思ってたよりずっと「現場」だった。


 第一印象としては、広い。

 天井が高くて、梁がむき出しで、ところどころ煤けている。

 壁際には武器がずらっと並んでいる。

 剣、槍、斧、弓、あと見たことない形のものも混ざってる。

 床は踏み固められた土と石が混じった感じ。

 ところどころに擦り跡や凹みが残ってる。

 歴戦の古強者ってやつだ。


 あと、音が多い。


 金属同士がぶつかる音、掛け声、息を吐く音。

 どれもバラバラなのに、妙にまとまりがある。


 奥の方では若い冒険者らしき連中が、木剣で打ち合っている。

 動きは荒いけど、迷いがない。

 振って、受けて、弾かれて、それでもまた踏み込む。


 別の場所では、的に向かって矢を射っている連中。

 外したやつが舌打ちして、当てたやつが小さくガッツポーズしてる。


 そのどれもが、会場と武器に慣れてるって感じだった。

 遊びじゃない。

 かといって、殺し合いでもない。

 その中間。

 明日を見据えて、ちゃんと訓練してる空気。


 俺たちだけが、そこから浮いている。

 ただの観光客。

 ギルド自体は俺たちの施設使用を認めたとは言うけれど。

 それは管理者側の許可であって。

 他の使用者側がどう思うかはまた別。


 大きく邪魔になってないと良いけど。

 間違いなく小さな邪魔にはなってるから。

 なんか慣例とか破ることがありませんように。

 なんか文化摩擦とかおきませんように。

 お願いしますぜ転生の女神様!


「俺、プレートメイルに挑戦してみようと思うんだ」


 ボーイが、壁際の鎧を指さす。

 金属の塊。

 どう見ても重そう。

 

「ていうかお前の体格じゃサイズ合わないだろ、あれ」


「後さんの筋力なら行けるか!?」


「塩湖とのVIT差を根性で覆せ!」


 周りが煽る。


 で、挑戦して。


 ダメでした。


「う、うごけん」


 完全に固まってる。

 関節のところがぎこちなく軋んで、ロボットみたいになってる。


「いや、無理すりゃ動けるんだろうが、これ絶対腰やるわ」


 後さんが、自分の腰を押さえながら苦笑する。

 ぎっくり腰経験者の顔だ。


「ロングスピアも穂先の方持たないと持ち上がらないな」


 塩湖さんが槍を持ち上げようとして、途中で止める。

 バランスが悪いらしい。


「フルヘルム視界狭いなぁ。首全然回せないし」


 垂須さんが兜をかぶって、左右を見ようとして失敗してる。

 がつん、と壁にぶつかる。

 鈍い音。


「いってえ!」


「「「わははは」」」


 和気藹々。

 悪くないムードだ。

 俺たちツーリストの間だけはの話だがな!


 俺たちはちょっと離れた位置で有料の武器講習。

 なんか直感で選べって言われてチョイスしたムチをひゅん!

 空気を切る音が、やけに綺麗に響く。


「あ、いい音」


 思わず漏れた。


「無心の直感は適性を引き当てやすい。お前のそれもそうだろう」


 眼帯で達磨髭の指導教官が、腕を組んでうむうむと頷く。

 妙に納得されても困る。

 俺、別にこれで食ってくわけじゃないんで。

 マジで鍛えようとしてるんじゃないんで。


「で、お嬢ちゃんは突剣だな」


 視線の先。

 衿衣が、レイピアを握っている。

 これまた直感で選んだ得物。


「そう」


 細い剣先が、空気を裂く。

 ひゅ、ひゅ、と連続で突きが入る。

 無駄がない。

 まっすぐで、速い。

 伸ばした姿勢と相まって、ストイックな美しさがそこにある。


「ん」

 

 顔はいつもの無表情に近いけど、どこかだけ温度がある。

 集中、っていうより――

 楽しんでる、のかもしれない。

 この子なりに。

 『楽しまなきゃいけない』を、ちゃんとやってる。


「ねえ先生! ハナは? ハナは?」


 ハナが、ぴょんと手を挙げる。

 やる気はあるらしい。


「あー…… 君はギルド酒場で皿洗いでもしてきたらどうだ?」


 一瞬の間のあと、教官が現実を告げる。


「がーん」


 その場で崩れるハナさん。

 分かりやすすぎる。

 戦闘適性なし。


 うん、そうだろう。

 このひとが戦うって状況が想像つかない。

 敵と向かい合っても、「ねえねえ!」って話しかけそうだし。


 あっちでは魔道士系の指導教官が、双滝さんにつきっきりで魔法指導してる。

 杖を持たされて、何かを唱えてる。

 空気が、少しだけ震える。

 なにかが渦巻いてる気配はあるが、渦巻いてるだけだ。


「君は回復系に適性はないようだ」


「え? ナースなんですけど私」


 素で困惑してる。

 現実とのギャップがすごい。


「寧ろ伸びしろは呪術方面にある」


 やはり!


「こんな品行方正な私が!?」


 自分で言うな、とは思うけど。

 でもまあ、本人の中ではそうなんだろう。

 自己評価ってあてにならないね。


 なお李野くんはサンタフェさんを伴って、現役冒険者たちにインタビューを敢行してる。

 紙とペンを持って、真剣な顔で質問してる。

 さっきまで袖引っ張ってた人と同一人物とは思えない。

 

 人見知りはどうしたよ、人見知りは。

 

 相手の冒険者も最初は戸惑ってたけど、今は普通に答えてる。

 熱量に押された感じ。

 ああいうの、強いよな。


 因みに椰子泉さんと魔物オタはここにはいない。

 ギルド付属の資料室に向かった。


 『原色魔物図鑑!? 見たい見たい! 持って帰りたい!』

 

 『……この子がお縄につかずに済むよう、見張っておくわ』


 同室だったばっかりにかわいそう。


「あ゛~! あ゛~!」


 間の抜けた声が、天井の方から落ちてくる。

 見上げる。

 上空に吊るされてるのは羽合。

 縄でぐるぐる巻きにされて、梁からぶら下がってる。

 あんだけ念を押されたのに会議室を覗こうとして、ギルドガードに捕まったらしい。


 で、お仕置きで吊るされてる。


 吊るされる箇所が首じゃないから、まあいいか。

 アイツいると鬱陶しいし。


「ふーん」


「白山さんアレみてもにししって笑わないのね」


「アイツしつこく絡んでくるからいい気味ですよ」


 なるほどな。

 小悪魔発動には幾分かの好意も必要、と。


 ……あれ?

 俺、割とからかわれてるような……?

 


  *



で、その晩。


おっさんたちに付き合うと、こうなるわけだ。


「「「「かんぱーい!」」」」


「酒で異文化交流、ありだと思うわ」


モーリーから解放された椰子泉さんがぬるいエールをジョッキで一気飲み。


「「「おおおお!」」」


現地民たちが湧く。


「「「えええ……」」」


日本人たちが引く。


ギルド酒場で飲みニュケーション。

おれは同じ卓でちんまりちびちびやっている。


ここ、っていうより、ほぼ戦場の後始末みたいな空間だった。


長い木のテーブルが何列も並んでて、どれも傷だらけ。

ナイフで刻んだみたいな跡とか、焦げ跡とか。

あと何かをぶちまけたまま乾いたシミとか。


なんか血液が渇いた後の色のような……

あんな大量に……


はい、やめやめ!

怖い想像やめ!


椅子は揃ってない。

高さも形もバラバラで、脚の一本が短いのか、座るとガタつくやつもある。


天井は低めで、梁がむき出し。

そこにランプがいくつも吊られてて、油の匂いがほんのり漂ってる。


で、空気が濃い。


酒と汗と、肉の焼ける匂いと、あとなんかよく分からない薬草っぽい匂いが全部混ざってる。

肺が焼ける土地のあとにこれって、なんか別方向でキツい。


床を見ると、もうひどい。


寝ゲロしてそのまま横たわってるマッチョ。

上半身裸で、筋肉だけは無駄に仕上がってるのに、顔はぐったりしてる。

さっき誰かがけつまずいてたけど、起きる気配ゼロ。


その近くでは、別のおっさんがウエイトレスさんのケツを軽く撫でた瞬間、見事にトレイを頭に叩きつけられていた。


乾いた音。

痛ってぇと叫び声。

周りは爆笑。

ウエイトレスさん腕まくり。

なんなら二撃目行こうとしてる。


カウンターの奥では、大きな樽から直接酒を注いでる。

泡がこぼれても気にしない。

というか、こぼれる前提で動いてる。

反対側では、腕相撲やってる連中がいる。

負けたやつがそのままテーブルに突っ伏して、また酒を飲まされてる。


猥雑っていうか、エネルギーが雑に溢れてる感じ。

整ってないのに、妙に成立してる空間。

たぶんこれが「日常」なんだろうな、こっちの。


しかし30代男子どもは隙あらば飲むな。

椰子泉さんもうわばみだし。

酒豪四天王の称号を授けよう。


それにしても、あー。


ちょっと冒険者、肌が合わない感じ。

彼等と話す文脈や経験がないっていうか。

中学校あたりで付き合いの切れた、ヤンキー方向に舵を切った連中と匂いが似てるし。


すごいですね。

つよいですね。

俺にはそんな勇気ありませんよ!


で、大体乗り切れるから扱いは楽なんだけど。

楽しくは、ないな。


ハナさんとか李野くんと一緒に、訓練場から真っすぐホテルに戻れば良かった。




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