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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
第三BF:ステックソン ジョブ別つなひき 一問多答リレークイズ

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温度差 2


「終わった順にこちらの部屋へ進んで下さい」


 別のスタッフに案内されて、奥の会議室へ。

 さっきまでのざらついた空気とは打って変わって、やたら整った空間。


 長机と椅子。

 壁際に飲み物。

 完全に会議室って感じ。


 なんだろう、この落差。


 外が日雇い労働者のシノギ斡旋所で、中がデスクワーカーの会議室。

 塩湖さんの勤め先のゼネコンもこんな感じの区切りなのかね?

 脳がバグる。


 カードを受け取った連中が、ぽつぽつと集まってくる。

 で、やることは一つだ。

 見せ合い。


「ちょっと見せてもらっても?」


「あ、じゃあ交換で」


 大渓さんが、いつもの調子でカードを差し出す。

 俺もつられて、自分のを見せる。

 覗き込む。


「……あれ?」


 思わず声が出た。


「どうした市籠君」


「いや、その…… 思ってたより、普通だなって」


「はは、失礼だな」


 笑ってるけど、否定はしてない。

 大渓さんのカード、確かにバランスはいい。

 でも、圧倒的に頭いい人って感じの数値じゃない。

 INTもMAGも突出してるわけじゃない。


「記者ってさ、頭の良さだけでやれる仕事じゃないんだよね」


 軽く肩をすくめる。

 なるほどね。

 現場力とか、そういうやつか。

 学生時代はディスコとサーフィンだしな。

 そういうの、このカードには出てないらしい。


「……ふうん」


 横から、椰子泉さんが覗き込む。

 無言で、自分のカードを差し出す。

 見る。


 ――ああ。


「これは……」


 言葉が詰まる。

 INTの数値。

 明らかに、頭一つ抜けてる。

 というか、抜けすぎてる。


 大人たちの感嘆の声。

 具体的な数値が、部屋中に響いた。


「ぐむう」


 誰かの唸り声。

 低くてデカい喉の声。

 荒火だ。


 なんか茂侍がこっちとあっちを交互に見ながらあわあわしている。


「くっ……」


 穂積もまた悔し気な顔で呟いてる。

 総クイ研いたたまれないムード。


 ああ、これ。

 効いてるな。

 なんかちょっと面白い。

 いや、本人たちからしたら面白くないだろうけど。


「数値が語る物は全体ではない」


 ぽつりと、荒火が言う。

 自分に言い聞かせてるみたいな声。


 うん、それはそう。

 たぶんそう。

 でも、こういうのって、出ちゃうよな。

 数字で可視化されると。

 優越感とか。

 敗北感とか。


「見ろよこれ!」


 今度は後さん。

 カードをひらひらさせてる。


「俺のVIT、塩湖より低いんだぞ!」


「1ポイントだろ、1ポイント」


 塩湖さんが、苦笑い。


「その1が大事なんだよ!」


 めちゃくちゃ悔しそうだ。

 社会人のくせにこういうところ、妙に子供っぽい。

 感情に真っすぐで。

 さっきの荒火たちみたいな屈託がない。

 務め人じゃなくて経営者だからこその気質なんだろうか。


「ははは、気にするなって」


「気にするわ!」


 いいコンビだな、この二人。

 大人になってもともだちは作れるっていう実例というか。

 気が合う奴はどっかにいるぞっていうか。


「ねえねえ見てー!」


 ハナが割り込んでくる。

 カードを突き出す。


「ハナ、すごいよ!」


 見る。

 ……なるほど。


「これは……」


「でしょー!」


 FORTUNEの数値が、やたら高い。

 三ケタ届いてる。

 椰子泉さんのINTでさえ2桁後半でしかないのに。

 

 あ、ハナさんの他のステータスは普通以下の以下ね。

 成績表なら五段階評価で1か2。

 幸運。

 そこだけおかしい。


「納得だな」


 誰かが言う。

 全員、うんうん頷く。

 説明不要の説得力。

 この人、そういうタイプだ。

 間違いなく。


「双滝さんは?」


「これ」


 差し出されたカード。

 今度はMAG。

 これもまた、分かりやすいくらいに高い。


「魔法使えそう」


「使えそうっていうか、使うでしょこれは」


「私、白衣の天使だから白魔法使えると思うの」


 ざわざわ。

 どよどよ。

 カード一枚で、キャラ付けがどんどん固まっていく。


 便利だな、これ。

 数字だけど。

 デジタルだけど。


 でも、その数字だっていうのが逆に他者評価基準っぽい。

 人間って、結局こういうので分類されるんだなって思う。

 企業の給与査定も営業成績も結局はポイントの積み重ねだしね。


 あ、俺?

 

 俺はまあ。

 ここまで話題にならなかった。

 一度も。

 そういうことだ。

 まあ、憐れまれるほどの数値ではなかったから、よしだ。


 ふと、視線をずらす。

 部屋の隅。

 クイ研の連中が、固まっている。

 カードを見せ合ってはいるけど、輪は広がらない。

 他の連中と混ざる気配がない。

 あくまで「自分たち」で完結してる。


 さっきの椰子泉さんの件にしてもそうだ。

 たまたま耳に入っちゃった以上無視できなかったんだろうが、

 それで椰子泉さんのカードを見に来るとか、

 逆にカード見せにくるとかもなかったしね。


「――諸君」


 声が落ちてきた。

 ざわめきが止まる。

 閑君。

 番組総合プロデューサー。

 今日の彼の目は乾いている。

 仕事の目だ。

 素材を扱う態度だ。


 いつの間にか、入口に立っていた。


「本日はここで解散とします」


 さらっと言う。

 軽い。


 でも、その次の一言で、空気が締まる。


「明日の朝までは好きに過ごしてもらってかまいません」


 間。


「――ですが」


 視線が、一人一人を舐める。

 笑っているのに、目が笑っていない。


「この部屋に入ることも、様子を伺うことも禁止といたします」


 会議室の奥。

 さっきまで使っていた登録窓口の方角。

 今、多くのスタッフが入って行った部屋。

 つまり――あっち側。

 理由は言わない。

 でも、「絶対に触れるな」っていう圧だけは、はっきり伝わる。


 なんだそれ。

 めちゃくちゃ気になるやつじゃん。

 こういう禁止、逆にフラグだろ。

 いやでも、この番組でフラグ踏むと普通に死にそうなんだよな。

 いや、生命的な意味ではなくて、旅行者的意味で。


「では、解散! 諸君も異世界を堪能してくれたまえ」


 黄石がぱん、と手を叩く。

 急に軽い。

 さっきの部屋に入るなの圧、どこいった。


 静と動。

 威圧感と軽薄さ。

 閑君と黄石。


 まったく、亀裂が入っていそうな割に、やっかいなコンビだ。


「ギルド付属の各施設の使用許可は得てまス」


 すっと、ツアコンのサンタフェさんが前に出る。


「ワタシもギルド内にいるので、他の冒険者さんたちに迷惑をおかけシない範囲で、楽しんでくだサい」


 ウインク。

 いつものあざとい表情。

 さっきの緊張が、少しだけ緩む。

 楽しんで、ね。

 それはきっと、たぶんすごく大事。

 番組においても。

 人生においても。


 次の問題。


 この与えられた自由時間、どう過ご――


 袖が、くい、と引かれた。


 控えめに。

 けど、はっきりとした意思を持って。

 振り向く。

 やっぱりの李野くん。

 相変わらず顔色は悪いのに、目だけ妙に生きている。

 ああ、これ。

 完全に「何か調べたい」の顔だ。


 口は開かない。

 でも、もう分かる。

 言いたいこと、全部顔に出てる。

 俺は一拍だけ置いてから、肩をすくめた。


「……どの施設に行きたいの?」


「訓練場ですぞ!」


 ほんと、こいつ、分かりやす過ぎる。


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