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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
第三BF:ステックソン ジョブ別つなひき 一問多答リレークイズ

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38/121

温度差 1


「諸君! ここがどこだかわかるか?」


 黄石があのギンギンギラギラなスーツの両腕を大きく広げ、背後に従えていた俺たちに向き直った。


 前方には間口の広い大き目の建物。

 いや、建物って言い方だとちょっと足りない。


 まず、やたらと横に長い。


 正面は一階建てっぽく見えるのに、奥に向かって段々と増築されてるみたいで、屋根の高さがバラバラだ。トタンと木板が継ぎ接ぎされてて、色も焼けた茶色から煤けた黒、妙に新しい白木まで混ざってる。

 西部劇のバー風っていうか、バーとモーテルが一体化してるというか。


 入口の上には、分厚い木の看板。

 剣と盾が交差した紋章に、見たことのない文字が彫られてる。

 たぶん「ギルド」的な意味なんだろうけど、やたら深く彫り込まれてて、風雨で削れた跡がそのまま年季になってる。


 両開きのスイングドアは腰の高さくらいで、何人も出入りしたせいか、下の方が丸く擦り減ってる。押せばギィ、と鳴きそうなやつ。


 窓は大きめだけど、ガラスは均一じゃない。波打ってる。外の光が歪んで入ってきて、中の影もなんとなく揺れて見える。


 建物の横には馬繋ぎの柵。

 実際に何頭か、見たことない種類の獣が繋がれてる。

 馬に似てるけど、首がやたら長かったり、尻尾が二股に分かれてたりする。


 入口脇には樽がいくつも積まれてて、酒なのか水なのか分からない液体が、ほんのり甘ったるい匂いを漂わせてる。


 で、その匂いに混じって。

 鉄と、革と、あとちょっとだけ血の気配。


 ああ、なるほど。

 「それっぽい」ってやつだ。


「冒険者ギルド?」


 ボーイが返答する。


「良く知ってたな! そうここは冒険者ギルドステックソン支部! つまりは――」


 間を持たせる黄石。


 こいつの煽り方も大体わかってきたのに、なんか勝手に喉が鳴って唾を飲み込んでた。

 くそ。

 分かった上でまだコントロールされちゃうか。


「――勇者が。偉大なるあなたたちの先輩が。冒険者登録をした場所だ」


 勇者。

 何百年か前に、この異世界を魔王の魔の手から救った存在。

 そんな彼は、日本からの転移者だったという。

 転生の女神にその才を見込まれて、自ら戦いに身を投じていったという少年。


 残念ながら日本側の記録に彼は残っていない。

 転移の余波で、彼は地球側での生体情報を全て失ってしまったから。

 でも、異世界側はそれを知っていて。

 覚えていて。

 転移門を日本近辺に出現させたのも。

 日本と独占的に国交や貿易をしているのも。

 全てはこの勇者の功績があったから。

 勇者への恩返しの一環だ。

 義理堅いこと。


 サンタフェさんが俺たちにとても親切なのも、たぶん勇者伝説が大きく影響してると思う。


「さて、みなさんにここでやって頂く事と言えば!?」


 ざわつく挑戦者たち。


「まさか」


「いいのかよ?」


「そのまさかだ。冒険者登録をしてもらう!」



  *



 ギルドの中に入った瞬間、さっきまでのそれっぽさが、一段階だけ現実に寄ってきた。


 酒と汗と、あと鉄の匂い。


 音もある。

 木の椅子が軋む音、笑い声、グラスがぶつかる軽い音。

 その全部が、ちゃんと生活のリズムで動いてる。

 ただ――そのリズムが、ほんの少しだけ乱れていた。


 視線だ。


 カウンターで酒を飲んでいた男が、手を止める。

 隅でカードを広げていた連中が、こっちを見る。

 入口近くのテーブルにいた女が、眉をひそめる。


 露骨じゃない。

 でも、確実に「なんだあれ」って空気。

 そりゃそうだ。

 スーツだのジャケットだの、統一感のない格好の日本人が二十人以上。

 きょろきょろしながらぞろぞろ入ってきたら、俺でも見る。


 しかもそのうち何人かは、明らかに普通じゃない。

 最右翼は荒火。

 あれはもう、どう見ても「一目置かれる奴」だ。

 現地の連中が一瞬だけ黙るのも分かる。


 逆にハナさんは、異物すぎて逆に安心されてる気がする。

 ああいう小動物は害がないっていう雑な分類。


 俺はといえば――たぶん「どこにでもいそうなやつ」枠だ。

 それはそれで、ありがたい。

 目立つとろくなことにならない。

 こんな暴力を生業としてる連中の巣窟ならなおさらだ。

 俺はリスク重視で夜の盛り場にはいかない男なんだよ。


「ほらほらー、見られてるよ天馬くん!」


「見られてますね」


 ハナが楽しそうにひそひそ声で言う。

 こっちは別に楽しくはない。

 生存本能のアンテナをビンビンに立てている。

 ここ、完全にアウェーだから。

 クイズ会場とは違う種類の。


「静かにしろ」


 ぼそっと、低い声。

 塩湖さんだ。

 こんなに声が堅いということは、きっと現場の神経に障る何かを、ハナさんや俺が醸し出していたんだろう。


 その一言で、ハナが「はーい」と素直に引っ込むあたり、この人やっぱり建築現場を率いてるリアリティがある。

 でもねハナさん。

 元気に手を上げてお返事しなくてもいいんだよ。

 注目が集まっちゃうからね。

 集まっちゃったからね。


 俺たちはそのまま、カウンター奥の通路へと誘導される。

 受付は四つ。

 それぞれに職員が座っていて、ひっきりなしに現地の冒険者たちが出入りしている。

 そのうちの一つが、俺たち用に切り分けられていた。


 貸し切り。


 言い方はいいけど、要するに「隔離」だ。

 スタッフの配慮に感謝する。

 あの視線の中で順番待ちとか、正直やりたくない。

 絶対絡まれる、誰かが。

 絶対巻き込まれる、俺が。


「順に登録でス。難しいことはありまセん」


 場の雰囲気に動じてないサンタフェさんが、にこやかに言う。

 難しくない、ね。

 その言葉、この番組で何回聞いたか分からない。

 だいたい後で裏切られるやつだ。


 でも実際、やることは簡単だった。


 名前を言って、水晶に手を合わせる。

 それだけ。

 水晶は手のひらサイズで、触れるとじんわり温かい。

 機械というより、生き物っぽい感触。


 しばらくすると、隣の職員がカードを差し出してくる。

 紙じゃない。

 薄い板。

 金属でもないし、プラスチックでもない。

 触ると少しだけ弾力がある、不思議な素材。

 そこに、文字が浮かんでいる。


 自分の名前と――いくつかの数値。

 それ以上でも、それ以下でもない。

 職業欄とか、スキルとか、そういうゲームっぽいものは一切ない。

 妙に素っ気ない。

 でも、その素っ気なさが逆に本気っぽい。


 余計な演出がない分、これが現実ですって数字で突きつけられてる感じ。


「はい、次の方どうぞー」


 流れ作業。

 驚くくらいスムーズに進む。

 俺の番も、あっさり終わった。

 カードを受け取って、少しだけ眺める。


 数値。

 INT、VIT、MAG、FORTUNE……いかにもそれっぽい略語が並んでる。

 意味は、なんとなく分かる。

 分かるけど――

 だからどうした、って感じもする。

 

 これを見て、戦い方が分かるわけでもないし、クイズにどう影響するのかも不明。

 でも、無視はできない。

 この番組で配られるものは、だいたい後で効いてくる。

 面倒な予感しかしない。


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