友情いいでスね! 4
「大変神秘的な体験ができたことと思いまス。如何でシたか?」
神秘って。
全然神様秘されてなかったろ。
寧ろ積極的にアピールしてきたろ。
フレンドリーなお方で助かったけどさ。
あの圧倒的存在感が、俺たちがステックソンに滞在してる間は気候を荒らさないって約束してくれたことは素直に助かる。
さすがにまだ死にたくはないからな。
さっきまで同じ景色を見てたはずなのに、戻り方はそれぞれだ。
誰もが、ちょっとだけ違う顔をしてる。
火口の光が、まだ目の奥に残ってるみたいな。
「私はこの知的興奮をすぐさまクイズに起こさねばならないのでこれで!」
李野くんは足早に去っていった。
ほんと、ブレない。
さっきまで火山の精霊様と会話してたのに、もう次の問題作ってる。
ああいうの、ある意味いちばん正しい距離の取り方なのかもしれない。
感動も恐怖も、全部素材に変換する。
無敵だろ、それ。
他の参加者たちも三々五々。
オヤジ共はまだ飲むのかよ。
椰子泉さんと双滝さんもまたオヤジたちと共に飲むらしい。
意外と生活リズムが正しい白山さんは手をひらひら振って部屋へと戻り。
似非坊主ら数人の野郎は、街へとナイトクルーズだ。
鼻の下が伸びてるんだ。
まあそういう店を探すんだろう。
新母夫婦?
どっかでいちゃいちゃしてるんじゃないかな?
クイ研の連中は李野くんを除いてツアーに参加しなかった。
おそらく今夜もクイズ鍛錬に精を出しているのだろう。
正直――
まったく黄石のことは気に入らないし、嫌いは継続してるんだけど。
それでも。
奴の気持ちが、ちょっとわかってしまう。
クイ研の在り方は、ぐるりウルティモの在り方とずれている。
これまでの黄石や閑君との接触。
大渓さんを始めとする知性大人組の見識。
それと俺の観察などを合わせると。
どう考えても【クイズに籠る】連中は絵にならない。
わざわざ番組の中で【旅】をする。
その【旅】をないがしろにしてクイズに一点集中するのは、
コンセプトとちがうだろと、俺だって思う。
……思う、けど。
それをやってる連中の気持ちも、分からなくはない。
勝ちに行くなら、それが最短距離だ。
でも、それをやると、この番組では嫌われる。
黄石に。
たぶん、閑君を始めとするスタッフたちにも。
俺が閑君たちスタッフの思惑に嵌っていることは理解できてると思う。
あの面談の時点で、だいぶ露骨だったし。
撮影に在っては被写体は須らく素材。
俺は「良い素材」。
じゃあ、ここでいう「良い」ってなんだ?
変な動きするやつ。
都合よく転ぶやつ。
顔に素直な感情が乗るやつ。
でも、閑君は面接の〆にこうも言ってた。
『普通の青年なのですね』
それが「素材」にかかるとなると、きっとこう。
普通の視聴者が自己投影しやすい者。
お茶の間の共感を受ける者。
成程な。
成程。
なんとなく意図が読めた気がする。
そこに来て、今の俺は楽しんでる。
旅を。
異世界を。
ドキドキワクワクを思い出してる。
なんか、小学生の遠足みたいなやつ。
感受性の箍を外して、まっさらに受け止める。
そんな自分を肯定的に見てる。
ちょっと前までなら、ダサいって切り捨ててたやつだ。
ガキっぽいと。
一時の事と。
後先考えてないと。
それを今は、まあいいかって思ってる。
だから、まあ。
イヤな事やらせないなら。
スタッフどもの手のひらの上で踊ってやってもいいかなって。
そんな傲慢な事すら、思う。
「市籠」
呼ばれて、顔を上げる。
俺の前で仁王立ちする少女。
衿衣こよい。
……様子が、違う。
いつもみたいにピンと張り詰めてるんだけど、どこか揺れてる。
強い意志が籠ってる筈の瞳が、少しだけ迷ってる。
それに、なんか両手を組んで、指先をもじもじと動かしてる。
落ち着かない感じ。
「市籠」
緊張感を漂わせ、衿衣は繰り返す。
「どうしたの?」
緊張感が伝染してきた俺は促す。
「私は――」
言葉に詰まる。
珍しい。
というか、初めて見たかもしれない。
この子が、言葉を探してるところ。
衿衣の印象は会うたびに更新される。
無表情の壁だと思ってたのに、最近ちょいちょいヒビが入る。
「私は――」
待ってても出てこないやつだ、これ。
促さないと。
この先の衿衣の言葉を、聞けない。
「うん。何でも言っていいよ」
「……お願いがある」
「うん。大丈夫だよ」
「ともだちを、作らなきゃならない」
来た。
いつもの義務感。
あるいは責任感。
でも。
今の衿衣の表情には、それだけじゃない何かがある。
重さの中に、少しだけ熱いものが混じってる。
意志だけじゃない。
気持ちがある。
「クイズに勝つみたいに」
「そう」
「旅を楽しむみたいに」
「そう」
「友達も必要」
「……そう」
繰り返すしかない。
否定する理由もないし。
たぶん、これは本人の中でようやく言葉になったやつだ。
「じゃないと」
「……」
「私の本当に見たい景色には、届かない」
「景色、なんだ」
「景色」
見たい景色。
その言い方が、妙に引っかかる。
目的地、じゃなくて、景色。
到達点じゃなくて、見えるもの。
衿衣が初めて、目的を語った。
俺はまた一つ、衿衣を知った。
きっとここで友達になったなら、もっと沢山の衿衣を――
「じゃあこよいちゃんとハナはおともだちだね! よろしく!」
華麗なるインターセプト。
おいどっから湧いたハナさん。
台無しじゃないか。
なんかこう、二人の間で醸成されたエモーショナルなやつが台無しじゃないか!
新たな一歩を刻めそうな空気感壊れちゃったじゃないか!
俺たちの緊張感と微熱を返せ!
「私は市籠に申し出た」
衿衣、抵抗する。
行け、衿衣。
もっと言ってやれ!
「うん。ハナは天馬くんの友達だから、こよいちゃんとも友達。なにもおかしくはない!」
論理が雑。
でも強い。
勢いで押し切るタイプ。
「おかしい」
とは、まあ。
衿衣は言うだろうけど。
普通そう思うだろうけど。
でも、まあ。
ハナさんならそうなんだろ。
裏表無く。
駄目だな。
いや、いい事なのかもしれないけど。
俺たち、もう、ハナさん時空に引きずり込まれちゃったみたいだ。
「ともだち?」
ハナさんが俺を指さし確認。
逃げ場なし。
これは否定できんて。
「ともだち」
ひきつった笑顔でお返事。
そうしたらハナさんは。
「ともだち?」
今度は衿衣を指さす。
「ともだち」
衿衣が、ちょっと不満そうに、でもちゃんと答える。
「ともだち!」
満面の笑顔でハナさんリピート。
そのまま、ガバっと。
俺と衿衣に抱き着いた。
距離感ゼロ。
いつものやつ。
「旅は道連れ!」
いや、言い方。
ちょっと縁起でもない。
「いいでスね友情!」
横からジェネリック女神が参戦してきた。
なんでいるの、この人。
「サンタフェさんも友情、する?」
「するー♪」
軽いな。
ノリが軽い。
枯れぬ花園の乙女とジェネリック女神はお互いに指さし合って。
「「ともだち!」」
なんかもう、収拾がつかない。
流れで、よく分からない飲み物を渡される。
固めの杯とか言ってる。
いやそれ、たぶん別の儀式だろ。
俺は一応、匂いを確認する。
……アルコールっぽくはない。
たぶんセーフ。
というかセーフであってくれ。
衿衣、未成年だし。
こういうところで問題起こしたら、番組的にもまずいだろ。
「友情に乾杯!」
「「乾杯!」」
「こよいちゃんも、ほら!」
「……乾杯」
よく分からないまま、杯を合わせる。
カン、と軽い音。
なんだこれ。
クイズでも旅でもなくて、急に青春イベントが始まったみたいだ。
さっきまで火口で死にかけてたのに。
ほんと、振り幅どうなってんだよ。




