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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
第二BF:オランシェ スライムプールへようこそ! 突撃マルペケクイズ

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記号の少ない女 3


 食堂に入ってきた六人は、空気を読まなかった。

 いや、読めてないのか、読む気がないのか、その両方か。


「スライム捕獲チーム六名、帰還しました!」


 やけに元気な声。

 あ、こいつら現状把握してないな。


「え?なんで挑戦者集まってるんだ?」


「ホンにはこんな予定なかったよな」


「すごいよー本物のスライム!」


 軽い。

 軽すぎる。

 さっきまでの「行方不明者」の空気と、まるで繋がってない。


 格好もバラバラだ。

 つなぎ、長靴、泥汚れ。

 ヘルメット被ってるやつまでいる。

 ロゴTシャツじゃないだけで、急に現場の匂いがする。


「しっかりプールに仕込めましたよ」


「いやーもう、スライムぷるっぷるで楽しかった!」


 最後の女さぁ。

 ……いやほんと、空気読め。


「D」


 閑君の声が、低く落ちる。


「はい」


「捕獲チームは五名だったはずですね?」


「はい」


 即答。


 あれ?

 今戻って来たのって……六人?

 リーダー除いての数?


「捕獲チームリーダー」


「はい」


「部下の名前を全て言いなさい」


 一拍。


「やばっ!」


 一番空気読んでなかった女の身体が、露骨に跳ねた。

 分かりやすい。


「……俺と、あと――」


 リーダーが詰まる。

 空気が固まる。


「「モーリー!?」」


 椰子泉さんと双滝さんが同時に叫ぶ。

 その指先が、六人目の女に突き刺さる。


「あはは…… もしかしてこれ、私のせいな感じ?」


 笑ってる。

 いや、笑って誤魔化そうとしてる。


 ちゃんと顔を見る。

 ……ああ。

 これ、写真のやつだ。

 毛利井。

 お前か。

 化粧してないと、ここまで印象変わるのか。


「犯罪で無かった点は、良かったと言えましょう」


 閑君の質量を伴った睨みつけに毛利井は初手土下座。

 その後の言い訳は、洪水だった。

 でも、聞いてるうちにだんだん整理されてくる。


 要するに――


 奴は異世界が大好きで、異世界生物が好きすぎて、このぐるりに参加した。

 スタッフが自らスライムを捕獲してくることを知った。


 行きたい。

 生息地。

 掴みたい。

 スライム。


 だから奴は、こっそり捕獲スタッフに混じった。

 リーダーにはしれっと、「補助要員でっす!」と嘘をついた。

 化粧と髪型を変えて、挑戦者だってことを誤魔化して。

 ホテルの清掃用具置き場からつなぎと長靴を拝借して――


 ロビーで話を聞きつけてから三十分で、迷いなく、全部やった。

 

 成しちゃって……

 

 ……通っちゃった。


 頭おかしいだろ。

 いや、褒めてない。

 絶対褒めてない。


「わ、わだじわあああ! ずらいむぢゃんだちをぉ! ぷにぷにじだいがだめにぃ! びなざばにめいわぐをおがげじでじまいまじだぁああ! まごどに! まごどに! ごめんぢゃいでずぅうううう!! う゛みよりぶがぐばんぜいじでお゛りまずう゛ううぅぅ!」


 最後はもう、崩壊してた。

 涙も鼻水も涎も全部出てる。

 声もぐちゃぐちゃ。

 ……汚い。


 でも。


 さっきまでの緊張が、全部どっかいった。

 怒るに怒れない。

 なんかもう、いいや、って空気が広がる。

 そのタイミングで。


「かいさーん!」


 黄石。

 やけくそみたいな明るさ。

 雑だな、ほんと。

 でも、この場にはちょうどいい。


 閑君は警察に頭を下げ続けてる。

 あっちはあっちで大変そうだ。


 挑戦者たちは、なんとなく解散。

 さっきまでの「出るな」は、いつの間にか消えてる。

 ……なんだったんだよ、あれ。


「うちのモーリーがご迷惑をおかけしました」


「よく言ってきかせますので」


 なぜか出口で椰子泉さんと双滝さんがぺこぺこしている。

 かわいそう。


 コテージに戻る途中、波の音が、やけに軽く聞こえた。

 さっきまで、あんなに重かったのに。


「流石にこれで朝一でクイズってことはないだろ」


「もー0時回ってるよ」


「しっかし酔いが醒めちまったな」


「二回戦行っとくか」


「「異議なし」」


 さ、寝るか。


「同じ肩透かしを味わった同士だ。逃げんなよ市籠」


 逃げると申したか。


「度数の低い奴で」





 ――翌朝。



『私が責任者です』


 と書かれたフリップボードを首から下げて正座している閑君と。


『管理体制の不備とその改善について』


 と書かれたフリップボードを首から下げて正座している捕獲チームリーダと。


『反省するまでエサを与えないでください』


 と書かれたフリップボードを首から下げて正座している毛利井がいた。


「よ、魔物オタ」


「おまえのせいで睡眠不足だよ魔物オタ」


「スライムの感触はどうだった魔物オタ」


「サイコーだった!」


「こいつ反省してないぞ! 吊るせ!」


「あのうごめくソテツの木でいいな?」


「あ、あの子の葉っぱにも興味ある」


「「「黙れ魔物オタ!」」」


「ごべん゛だざい゛!」


 ……回復、早いな。


 でもまあ、このくらいでいいのかもしれない。

 昨日のこと、ずっと引きずってたら、たぶん持たない。


「10時にホテルプライベートビーチに荷物を持って集合でーす!」


 スタッフの声。

 いつもの調子。

 こういうのが業界のノリってやつなんだろう。


「荷物を持って、か」


「こりゃクイズだな」


「スライムか」


「間違いねえ。魔物オタが取ってきたやつ」


「あいつ、スライムプールに飛び込まないかな」


「むしろ喜んで飛び込むんじゃないですか?」


 クイズの時間が、また始まる。

 ゲームみたいなやつ。

 ……いや。

 ほんとに、ゲームか?







 さて、後日談にはなるけど。一応。

 モーリー行方不明事件、ちゃっかりオンエアされてた。

 号泣謝罪とか。

 反省ボード正座とか。

 

 さすが閑君。

 これぞテレビ局。


 褒めてないけど。


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