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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
第二BF:オランシェ スライムプールへようこそ! 突撃マルペケクイズ

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記号の少ない女 1


 メインディッシュをペヘポにして、ドリンクを特産の海苔ティーに、デザートをメヒシハンのツルルにした。


 名前だけ聞くと、どれも罰ゲームみたいだ。


 ペヘポは、見た目は白身魚っぽいのに、口に入れると妙に弾力があって、最後に少し甘い。海苔ティーは、文字通り海苔の匂いがするお茶で、飲んだ瞬間「違うだろ」って思うのに、二口目で慣れる。ツルルは、なんかこう、ゼリーと寒天の中間みたいなやつで、舌の上を逃げる感じがちょっと面白い。


 未だにそれらが何なのか、よく分かってないけど、まあ、まずくはなかった。


 ただ。

 止めどなく出てくる唾液で、頬の奥がじんじんする。

 どれのせいか分からないのが、ちょっと怖い。


 隣では、後さんたちが景気よく酒をあおってる。

 この世界にもいろんな種類の酒があるんだな。

 とか思いながら見てたら、あっという間に何本も空けてた。

 ペースがおかしい。


 で。


 コテージに戻った瞬間。

 三人とも、バタンキュー。

 ほんとに、漫画みたいに倒れた。

 さっきまであんなに元気だったのに。


 ……大人ってすごいな。


 いや、違うか。

 単に飲みすぎか。


 部屋の中は、ランプの明かりでぼんやり照らされてる。

 外からは、波の音。

 さっきまで自分がその上を走ってたと思うと、なんか変な感じだ。


 火照った体を冷ましに夜の散歩にでも出ようか、と一瞬思う。

 でも。

 カンポス氏とのランデブーで、思った以上に体を使ってたらしい。

 腕も脚も、じわっと重い。

 普段使ってない筋肉が、休めと抗議してる感じ。

 けだるさが、じわじわ全身に広がる。


 ……もういいか。

 今日は、もう十分だろ。

 そう思って、ランプに手を伸ばした。


 その時。


 ガンガン!


 扉が揺れる。

 強いノック。


「皆さんお揃いですか。スタッフです。開けてください」


 声が、やけに硬い。


 夕食のあたりから、なんかバタバタしてるなとは思ってた。

 スタッフの動きが、少し慌ただしかった。

 でも、特に説明もなかったし、まあそんなもんかって流してた。


「今開けます」


 扉を開ける。

 どこか見覚えのあるスタッフの顔。

 あ、俺の回答ペーパー回収したやつだ。

 でも。

 なんか、目つきが違う。

 さっきまでの「運営」って感じじゃない。

 もっと、切羽詰まってる。


「失礼ですが、参加者ナンバーとお名前を名乗って頂き、パスポートを拝見させてください」


「え?」


 思わず、間の抜けた声が出る。

 思ってたより、事態が重そうだ。


「あ、99番、市籠天馬です。パスポートはこれで」


 差し出す。


「確認しました」


 手早くチェック。

 用紙に印がつく。


「ゲリラクイズか!?」


 背後で、布団が跳ねる。

 大渓さんが起きた。

 早い。

 あと、何そのワード?

 物騒すぎるだろ。


「いや、それはその……」


 スタッフが少し言い淀む。


「そういえば何回か前に、夜中に全員叩き起こして、廊下でクイズさせたのがあったよな。枕投げる奴」


 塩湖さんも起きてる。

 この人たち、適応力高すぎないか。


「ひとまず、点呼とパスポート確認、先にお願いします」


 スタッフが押し切る。


「ほら後さん、起きて起きて」


「ゲリラクイズか!」


 だからそれ何なんだよ。

 流行ってるのか。


「後さん、塩湖さん、大渓さん、市籠さん、確認!」


 無線で報告。

 そのまま、こっちに向き直る。

 顔が。

 さっきより、さらに硬い。


「緊急事態につき、運営側から解除のアナウンスがあるまで、ぜったいにお部屋から出ないでください」


 言ってることが重い。

 さっきまでの「楽しい旅行」の空気と、明らかに違う。

 事故か。

 事件か。

 そんな単語が、頭の中に浮かぶ。


「何があった」


 後さんが低い声で詰め寄る。

 さっきまで寝てた人とは思えない圧。


「現時点ではなにもお伝えできません」


「俺たちに危険はないのか?」


「当方はあらゆる想定をしております」


「答えになってないぞ」


「それが答えです」


 ぴしゃり。


「話す気なし、と」


「まあ、切羽詰まってる風だし、ここはさ、後さん」


「ふん」


「よろしいですか? 次のコテージに行かないといけませんので」


 スタッフは、それだけ言って去っていく。

 足早に。

 扉が閉まる。

 少しだけ、波の音が大きくなる。


「大渓、どうして止めたよ」


 後さんが振り返る。


「問い詰めようと思えばできたろ」


「あれは緘口令敷かれてるね。聞くだけ無駄だし、足止めするのも多分問題だった」


 大渓さんは、もう完全に覚醒してる。

 頭の回転が早い。


「次のコテージに行くって言ってたからな。点呼を遅らせるのはよくない」


 塩湖さんも冷静。


「何が起きたと思います?」


 なんとなく、聞いてみる。


「まあ、事件だろうね。規模や被害は不明だけど」


 即答。

 迷いがない。


「部屋から出るなっていうことは、出たら何らかの危険があるのか?」


「だったらスタッフが一人じゃ動かないんじゃないのか?」


「そういえばスタッフの数、飯時に少なくなかったですか?」


 自分で言いながら、少し引っかかる。


「ああ、そういえば……」


「若手が何人か、居なかったな」


 空気が、少し重くなる。

 最悪に近い想像が、頭をよぎる。


「ああ、彼等ならスライム捕獲に行ってるよ」


 大渓さんが、あっさり言う。


「それか」


 後さんが頷く。


「現地人じゃなくてスタッフが取ってるのか。過酷な現場だな」


 スライム。

 さすがに知ってる。

 ぶよぶよして、うねうねして。

 強さはピンキリ。

 でも、こういうイベントで使うなら、たぶん安全なやつだ。


「そこで何かあったか?」


「なら挑戦者に点呼ってならないだろ」


「なにかあったのは挑戦者か」


 沈黙。

 誰も、続きを言わない。


 コンコン。

 再び、ノック。

 今度は、さっきより落ち着いた音。


「スタッフです。食堂に集合をお願いします」


さっきとは別の声。

でも、少しだけ整理されてる。


「なにがあったか教えてくれるんだろうな」


 後さんが言う。


「はい、仔細を明かす方向で決まりました」


「聞かせてくれ」


 一拍。

 その後。


「挑戦者から、行方不明者が出ました」


 言葉が、部屋の空気を一段、重くする。

 さっきまでの海の匂いが、急に遠くなる。

 楽しかったはずの一日が、別のものに変わる音がした。


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