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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
第二BF:オランシェ スライムプールへようこそ! 突撃マルペケクイズ

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笑顔 1


「単純に和解とはいかなかったようですね」


 背後から声をかけられて、足が止まる。

 振り返ると、李野くんがいた。

 いつもの、ちょっと楽しそうな顔。


 ……見られてたのか。


 いや、この開けた場所だ。

 見えない方が不自然か。


「穂積から聞いたんですか?」


「今後は通すなと頼まれました」


 ああ。

 なるほど。

 そういう、段取りか。


「本気だな」


 自分でも驚くくらい、あっさり口に出た。


「そのようですね。なので彼は今、キングの下に集まってクイズ訓練中ですよ」


「クイズ訓練」


 思わず、同じ言葉をなぞる。


 視線を少し遠くにやると、ビーチの端の方に人だかりが見える。

 あれか。


 誰かが声を張って、何かを読み上げてる。

 そのたびに、何人かが一歩前に出たり、手を上げたり。

 早押しの真似事か。

 ここまで来て、やるんだな。

 いや、むしろここからが本番か。


「彼らはここに『勝ちに』来てますからね」


 李野くんは、まるで他人の話みたいに言う。

 軽い。

 いや、軽いっていうか、距離がある。

 お前もそっち側だろ、って言いたくなるけど、まあ、ちょっと違うのか。


「李野くんは特訓しないの?」


「私は競技者ではなくてクイズ作家狙いですからなぁ。あり方が半歩ブレるのですよ」


 半歩。

 便利な言い方だ。

 完全に外でもないし、中でもない。


「勝ちにいかない?」


「勝てたらいいなくらいで。それよりも」


「それよりも?」


 李野くんの目が、少しだけ輝く。


「折角異世界に来れたというのに、面白いこと探さなくてどうするんですか!」


 ……おお。

 ちょっと意外。

 さっきまで、クイズだなんだって言ってたやつが、急に観光客みたいなことを言い出した。


 いや、違うか。

 観光客じゃない。

 探検家寄りだ。


「ビーチ行きます?」


 なんとなく、無難な選択肢を出す。

 ピンクの砂浜。

 乳白色の海。

 二つの太陽。

 いかにも「見どころ」って感じだし。


 でも。


「あんな手垢のついた場所行っても発見は少ないでしょう?」


 ばっさり。

 手垢って。

 異世界のビーチにまでその評価使うのか。


「発見」


 思わず繰り返す。


「それよりも珍しい場所へ行って、新しい体験をして…… それを新鮮なクイズ問題にするんですよ!」


 ああ、うん。

 やっぱり李野くんは李野くんだ。

 どこまで行っても、そこに帰ってくる。

 

 でも、なんか。

 さっき穂積と別れた直後に聞くと、このスタンス、ちょっとだけ救いに感じる。


「ホテルのフロントでこんなリーフレット見つけちゃいましてね。

 最新のオランシェ旅行雑誌にも載っていない催しです」


 差し出された紙。

 ざらっとした手触り。

 印刷も少し粗い。

 確かに、いかにも「最新」ではなさそうだ。


「ヒッポカンポス乗馬体験……?」


 文字を追いながら、首をかしげる。

 乗馬、って書いてある。

 でも、ヒッポカンポスってなんだ。

 どっかで聞いたことあるような、ないような。


「知ってます? ヒッポカンポス」


「乗馬っていうからには馬なんでしょう?」


 我ながら雑な推測。

 でも、情報が少なすぎる。


「ふっふっふ。百聞は一見に如かず」


 李野くんが、やたら含みのある笑い方をする。

 なんか、嫌な予感するなこれ。


「どうでしょう、市籠くん。 一緒にヒッポカンポス、乗っちゃいません?」


 視線の先。

 ビーチとは反対側。

 ソテツみたいな木が、ゆっくりと位置を変えてる。

 風に揺れてるわけじゃなくて、根ごと移動してる感じの、妙な動き。


 その奥に、少し暗い林みたいな場所が見える。

 観光地の表側じゃなくて、裏側。

 さっきまでなら、たぶん選ばなかった方向。


 でも。


 穂積は「勝ちに」行ってる。


 俺は――


 どうする。


 ……まあ。


 少なくとも、ぼーっと立ってるよりはマシか。


「それ、どこでやってるんだ?」


 口が、先に動く。

 李野くんが、にやっと笑った。




=================================




 ビーチから馬車に揺られること十分。

 最初は観光用の飾りみたいな道を走ってたのに、途中から、だんだん人の手が入ってない感じの地形に変わっていく。


 ピンクの砂が薄れて、土の色が濃くなる。

 ソテツみたいな木が、相変わらずじわじわ位置を変えながら並んでて、その向こうに、乳白色の海がちらちら見える。


 半島の付け根。

 そこに、その厩舎はあった。


 屋根は低くて、木組みも粗い。

 いかにも「現地の施設です」って顔してる。

 で、近づいた瞬間。


 ……おえ。


 獣臭いのと、魚臭いのが、どっちも一歩も引かない感じでぶつかってくる。

 どっちかに寄せてくれればまだいいのに、完全に共存してる。

 鼻がバグる。

 思わず顔をしかめながら中を見る。


 で。


 正直。


 びびった。


「はえー……」


「すご……」


 そこにいたのは、馬だった。

 いや、正確には、馬「みたいなもの」。

 頭部から胸、前脚までは、ほとんどそのまま馬だ。

 筋肉がしっかりしてて、立ち姿も堂々としてる。


 でも、近くで見ると違和感がある。


 たてがみの代わりに、背中に沿って薄い鰭みたいなものが揺れてる。

 耳も、どこか魚っぽい形で、ひらひら動く。

 で、胴体の途中から完全に別物になる。


 後ろ半分が、長く伸びた魚の尾。

 鱗に覆われてて、光を受けて青や銀にきらつく。

 尾の先は大きく広がって、ゆっくり水をかくみたいに揺れてる。

 床は乾いてるのに、その動きだけは完全に「水の中」のやつだ。


 全体としては、滑らかな皮膚と細かい鱗が混ざったような質感で、触ったらたぶん、ひんやりしてる。


 そしてデカい。

 思ってたよりずっと。


 ヒッポカンポスは全部で八頭。

 それが、ビシッと整列してる。

 こっちを見てる。


 ……いや。

 見すぎじゃないか?

 全員、こっちに視線が集中してる。

 しかも、なんか。

 目線が熱い。

 待ってました!とでも言いたげな雰囲気。

 なんだこの圧。


「ふぉふぉふぉ。わしがこの子らをみて五十年。これほど興味を持たれた方はあなたが初めてですよ」


 声の方を見る。

 モンスター爺さんだ。

 顔の皺の入り方が、なんかもう年季入りすぎてる。


 あ、日本語。

 ……と思ったら、指にリングしてる。

 なるほど。


「あの、こちらのリーフレット見て来たんですけど」


 紙を見せる。


「ええ、もちろん乗馬も馬車もやっておりますよ」


 穏やかに頷く。

 その横で。


「こんなところにエラと思しき機構が!?」


 李野くん。

 完全にスイッチ入ってる。

 もう俺のこと見てない。

 海馬の一頭の周りをぐるぐる回りながら、


「いや、これは鰓裂の名残ですかね……鱗の生え際が実に……」


 とかぶつぶつ言ってる。

 怖いくらい集中してる。


「李野くん、どっちで乗る?」


 一応聞いてみる。


「あ、市籠くんはお好きにどうぞ。 私はここで観察と聞き取りに努めます」


 はい、了解。

 完全に置いてかれた。

 お前が一緒に乗ろうって誘って来たのに。


 まあいいか。

 野郎二人がタンデムするのも、馬車で片寄せ合うのも、なんかいやだし。


「俺、馬にも乗ったことないんですけど、大丈夫ですかね、乗馬」


 正直に聞く。


「手綱から手を離さなければ大丈夫ですよ」


 さらっと言う。


「離したら?」


「まあ、落っこちても海ですし、ビーチ周辺には危険生物はいませんから」


 うーん。

 その「まあ」が気になる。

 安心材料なのか、それ。


 ……ちらっと、海馬たちを見る。


 まだ見てる。

 ずっと。


「それに賢い子たちですから、落馬しても咥え上げてくれますよ」


「咥えて」


「まあ、手なんてありませんからな。大丈夫。ちょっと歯形がつく程度ですよ。ふぉふぉふぉ」


 いやいやいや。

 歯形は結構嫌だぞ。


 嫌、なんだけど。


 なんていうか。


 ちょっと前までなら、ここで引いてたと思う。

 やめときますって。

 安全圏に戻ってた。


 でも。


 今。


 なんだろう。


 ……わくわくしてる。


 こいつの背中に乗って、あの乳白色の海を。

 ばーって、波を切って走ったら。


 たぶん、すごい。

 爽快、ってやつ。

 やってみたいなって、普通に思ってる。


 ……俺、こんなタイプだっけ。


 もう一回、海馬たちを見る。

 さっきより、さらに視線が強い気がする。

 

 で。

 一頭が、前脚を軽く踏み鳴らした。

 

 それに釣られるみたいに、他のやつもざわっと動く。

 いななき。


「「「「ぶひひひひ!」」」」


 ……いや。

 豚かよ。


「うひっ!」


 隣で前のめりに検分してた李野くんが飛び退る。

 さっきまであんなに近づいてたのに。

 怖がらなくていいのに。


 だって。

 こいつら、どう見ても喜んでる。


 あれ?

 なんで分かるんだ。

 初めて見るのに。

 地球で馬とか生で見たことないのに。


 まあいいか。


 そういうもんかもしれないし。


 ここは異世界だし。


 なんか、モンスター爺さんがつけてる指輪的なサムシングが都合よく働いて、なんとなく意志が通じちゃった感じなんだろう。


「落っこちても、拾ってくれるよな?」


 軽く声をかける。


「ぶひひひひ!」


 さっきより大きい。

 なんか、いい返事もらった気がする。

 頼もしいじゃないか。


「お爺さん。乗馬コースで」




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