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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
第一BF:転移門 座席拘束400問ペーパー四択

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俺たちは。

「さてみんな。ペーパークイズ通過、おめでとう」


 とぅ↑、と妙に跳ねた発音で、黄石は笑う。


 ああ、これか。

 ここから、バンザイコール三回。

 勝者はそうするんだって、穂積が言ってた。

 

 ……あ。

 そういえば、白樫部長。

 飛行機で見なかったな。

 ジャンケンで落ちたのか。


 しまったなぁ。

 あの人にも、いろいろ手間かけさせたのに。

 ここまで来て、今の今まで、すっかり頭から消えてた。


 俺って、こういうとこある。

 都合よく、記憶が抜ける。

 いや、抜いてるのか。


「だが、バンザイの前に。少し待って欲しい」


 どよめきが走る。

 さっきまでの浮かれた空気に、うっすらとひびが入る。

 ざわつきの質が変わる。


 ああ、そういえば。

 エセ坊主の登場で会話がお流れになってたけど。

 なんか勝者人数の疑惑について話し合ってたわ。


「…………」


 異界門ペーパートップの椰子泉さんは相変わらずの思案顔。

 周囲の何名かは過剰な笑顔の黄石ではなく周囲の勝者たちを見てる。

 軽いノリのまま、でもどこか探り合うような。


 その中で――


「ねえねえ! バンザイってさ、やっぱ三回やるの!? 三回だよね!? テレビで見たことあるー!」


 ハナさん。

 一人だけテンションキープ。

 不穏な空気に気付かない。


「おう、三回だ三回。せっかくだし腹から声出しとけ」


 後さんが笑いながら乗る。


「肺活量のテストみたいなもんだ。現場じゃ声出ねえと始まらん」


 塩湖さんまで乗っかる。


 この人たち、意外と付き合いいいな。


「えーなにそれー! じゃああたし負けないよ!? 一番おっきな声出すから!」


「お、いいねえ。じゃあ審査員やるか」


 なんだこの会話。

 さっきまでの緊張どこいった。


「ド天然が無邪気にガテン系にチヤホヤされて…… 呪うわ」


 どろりと背後から耳を撫で上げた女性の呪詛には反応せんとこ。

 幸い知らない声だから気づかないふりしとこ。

 腫物には触らないのが心の平穏を保つ秘訣。


「あちらを見ろっっ! あれは何だっっ!?」


 黄石の指差す先。

 仮設の看板。

 白地に派手な文字。


「次は楽しい、オランシェ行き 40名」


 ……40?

 おかしい。

 ここにいるのは――43人、のはずだ。


「己の首にかかっているレイを見ろっっ!! お前のそれは、何色だ?」


 ざわざわと、皆が自分の首元を見る。


「赤……」

「赤……」


 俺も、赤。


「あ、俺黄色だ……」


 空気が、ぴたりと止まる。


「そう、黄色が3人居る筈だ! 機内ペーパーテスト、ドンケツから3人がな!」


「うぇー!」


「マジかよ」


「ぬか喜びさせんなぁ!」


 頭を抱えるイエローフラワー三人衆。


「にしし」


 その失望する様を見て目を細めるのは八重歯が眩しい女学生。

 なんだよこいつ。

 可愛い顔して黄石の同類か?


 そして怖いことに気付いた。

 さっきのハナさんに対する呪詛を零した女性の声と八重歯の彼女の声が違うことに。

 ……クセ強いな女性陣!


「え!? 黄色って負け!? うそでしょ!? やだやだやだやだ!」


 ハナさん、リアクションが正直すぎる。


「まあまあ、まだ終わりじゃねえって言ってるだろ」


「そうだ。話は最後まで聞け」


「そもそもあなたのレイは赤色じゃないの」


「あ、ほんとだ」


 大人たちがなだめる。

 あやしてる感じに近い。


「はい。キミら3人以外の40人。あっちの真の勝者席に移動して。

 今度こそ本当に、おめでとう! 常夏のホワイトビーチがキミたちを待っているぞ!

 せーのっ」


「「「バンザーイ!」」」


 声が揃う。

 ハナさん、めちゃくちゃでかい。

 たしかに一番かもしれない。

 バンザイアクションも大きい。

 ジャンプしなくていいんだよ?

 なんの競争だよ。


 移動する。

 勝者席、とやらへ。

 ほんの数メートル。

 それだけで、線が引かれる。

 見えない空気感の先が。


 二つの太陽に照らされた常夏の島。

 なのに。

 線の向こう側は、途方も無く、寒く、暗い。


「さて、残った3人。残念だったな……とは、未だ言わない。もう一度、あの席にいくチャンスがあるからな」


 まだあるのか。


「敗者を乗せて未だ飛び立たない飛行機のタイヤを見ろっっ!」


 視線が誘導される。

 滑走路の端。

 機体の影。

 その脇に、設えられた席。


「あれ、あの席って……解答席?」


「誰か座ってるぞ?」


「彼らは誰だ。よく目を凝らして見ろ! キミたちも知っている筈だ!」


 目を凝らす。


 ――あ。


 喉の奥で、何かが引っかかる。


 見覚えのある輪郭。


 座り方。


 横顔。


 否定する余地がない。


「穂積」


 口に出ていた。


 ナリタレアで別れたきりの、穂積。

 あいつが、そこにいる。


 その瞬間。

 空気が、もう一段階変わる。


 クイ研の方。

 あいつらの視線も、同じ場所に刺さってる。

 荒火。

 キングを自認する関西クイズ界の支配者。

 その男の口元が、ゆっくりと歪む。


 笑ってる。

 でも、それは歓喜とかじゃなくて。

 牙を剥いてる。


 ライオンが。

 獲物を見つけたときの獰猛な笑み。


「こんなところで消えるはずはないと思っていた」


 低い声。


「それはどちらに向けての言葉なのですか?」


 忠臣・茂侍がすぐに問う。

 間髪入れない。

 荒火は、ほんのわずかに顎を上げて。


「ライバルとして港ヶ陸。仲間として墨市」


「すみいち?」


 ボーイが首を傾げる。


「ナンバーツーだ! 先輩の名前くらい覚えろ!」


 茂侍のツッコミが飛ぶ。


「でもあの人印象薄いんスもん」


 ……緊張感あるのかないのか。

 でも、あいつらの中ではこれが平常運転なんだろうな。


「そう。これから行うのはリベンジマッチ! ナリタレアの敗者との入れ替え戦だ!」


 黄石の声が、現実に引き戻す。

 でも。

 視線は、どうしてもあそこに戻る。

 穂積。

 あいつは、こっちを見てない。


 当たり前か。

 見られても困る。

 見てるこっちも困ってるんだから。


 距離は近いのに。

 やたら遠い。


「先に言っておくぞ! あの3人にもキミらと同じペーパークイズに挑んで貰い、結果。3人ともキミらの平均点を遥かに上回っているとな!」


 周りがざわつく。

 驚きと、納得と、ちょっとした興奮。


「うぇーーー」


「ひでぇ……」


 そりゃそうだ。

 落ちた側のほうが点数高いとか、笑えない。

 平均点か。

 俺も越えられてるんだろうな。

 なんせ相手は穂積だし。

 あと、ナンバーツー氏も。

 顔覚えてないけど。

 俯きがちで伏し目がちだから、今も顔見えないけど。

 ナンバーツーって呼び名は覚えてる。


「ルールは簡単。ハンデキャップ付きの早押しクイズ」


「勝ち抜けるのは3名。キミらは1問先取で勝ち抜け。彼らは3問先取で勝ち抜け」


 なるほど。

 救済っぽいけど、ちゃんと見世物。

 番組的においしいやつ。


「はっはっは。キミらは幸せモノだなぁ。なんせ、本来なら本土上陸しなくちゃ

 押せない早押し機を、いち早く体験できるのだから!!」


 どうでもいい特典を、それっぽく言うな。


「さ、はやく席に就いて」


 促された三人の黄レイたちの足取りが、重い。

 遅いわけじゃないのに、妙に鈍く見える。

 背中が、丸い。

 肩が落ちてる。

 流されるように、配置につく。


 ああ。


 昨晩。


 大渓さんに言われた言葉が、勝手に浮かぶ。


 『君、勝負の場に立っておきながら、敗者の背中をしていたよ』


 あれだ。

 あの背中が、そうだ。

 戦う前から。

 もう負けることを受け入れてる。


 いや。

 受け入れてるっていうか。

 信じ込んでる。

 自分はここまでだって。

 これ以上は行けないって。


 そうか。

 ああいう風に見えてたのか。

 俺も。

 ずっと。

 ああやって、背中で語ってたのか。


 ――ダサいな。


 いや、ダサいで済ませるのも違うか。

 なんていうか。

 もったいない。

 せっかくここまで来てるのに。

 自分で線引いて、止まってる。

 ……まあ、他人のこと言えないけど。


「問題」


 ――そこからは、もう、酷い有様だった。


 結果だけ簡潔に。


 クイズ時間、4分。


 問題数、9問。


 結果、3名総入れ替え。


 つまり。



「よお、市(・)籠(・)」


「ああ、港(・)ヶ(・)陸(・)」


 俺たちは。


 わだかまりを解く間もなく。


 目も合わせないまま。


 苗(・)字(・)で(・)呼び合って。


 一日ぶりの再会を果たした。



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