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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
第一BF:転移門 座席拘束400問ペーパー四択

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20/121

第一BF:転移門 4


「●▼▼! ◇◆◆□◎Ж♪」


 何者かの手によって、俺の首にレイがかけられる。

 真っ赤で大きな花びらの花。

 甘い匂い。

 目の前に、ビキニにパレオの褐色の女性。

 満面の笑顔。

 ではあるが。

 ハナとは違って余所行きの商品化された笑顔だなと。

 妙に冷静に脳内品評などしまして。


 唐突に気づきました。


 あ、そうか。

 俺。

 通ったのか。

 第一バトルフィールド。


 なんだ、それ。

 あっけないな。


 黄石が、こっちを見てニッと笑う。

 満足そうに。

 底意地悪そうに。

 俺に感謝しろよとでも言いたげに。


 で、すぐに視線を逸らして、次へ。


「次はー。舞網ハナさん!」


「はーい」


 軽くて元気いっぱいの声。

 あいつ、ほんとブレないな。


「家事手伝いか! この親不孝モノ!」


「えー、ちゃんと家事してるもん。ハナちゃん偉いねってパパも褒めてくれるもん!」


「25歳が『もん』とか言うもんじゃないよ!」


 ……え?

 25?

 四つ上?

 年下だと思ってた。


 こどもっぽく見られる、か。

 その年齢だときついかな。

 うんちょっとだいぶキツい。


「で、ペーパークイズはどうだったの?」


「ほとんどダメだと思います、とりゃーー!」


「なんでとりゃーだ、こらこら階段を駆け下りるな、危ないから!」


「だって! 勢いつけないと! 怖くてゲート踏めないから!……とうっ!」


 ジャンプ。

 まさかのジャンプ。

 勢い任せ。


「…………あれ? 鳴らない?」


「そうだ、鳴らないんだ。ということは?」


「予選、通過?」


「……ペーパー、クリアだ。おめでとう! 舞網ちゃんのペーパー記載率は最下位だが、正答率はトップだった! 凄いのか凄くないのかよくわからないな!」


「きゃーきゃーきゃー! ありがとう、ありがとーーー!!」


 レイをかけたお姉さんに抱きつく。

 全力で喜んでる。


「こらこら、レイのお姉さんから手を離しなさい。困ってるから、次があるから!」


 ……すげえな。

 この場を持ってく力。

 見習いたくないし、巻き込まれたくないな。


「キミの場合、おめでとうなのかどうなのかわからんから、こう言っておく。おつかれ、市籠くん」


「あ、大渓さん。おめでとうございます」


 振り向くと、大渓さん。

 レイの花の匂いが、じわじわと鼻に香る。


 さっきまであんなにどうでもよかったはずの結果が、首にぶら下がってるだけで、妙に現実味を帯びてくる。


 通った。

 残った。

 異世界に、行ける。


 ――まあ、だからどうしたって話なんだけど。


 なのに。


 足取りが、少しだけ軽い。

 浮かれてるな、これ。

 自覚がある分、余計にタチが悪い。


「よお、市籠」


 振り向くと、後さん。

 腕を組んで、にやっと笑ってる。

 いかにも町工場の社長って感じの、熱と力が入った立ち姿。


「やったな。いい顔してるじゃねえか」


「そうですか?」


「そうだよ。タラップ降りるまでの、迷子になったガキみてえなツラとは違う」


 ……見られてたか。

 そりゃそうか。

 この人、自分の工場で人を見てきてる側だしな。


「今晩は祝勝会だ。浴びるくらい飲むぞ」


「はい」


 軽く拳を合わせる。

 ……つもりだったのに。

 後さんは遠慮なくガツンとぶつけて来やがった。

 俺の拳は肩ごと後ろに流れる。

 手荒い歓迎。

 でも、確かな祝福が拳に籠ってた。


 その横で、塩湖(しおのみ)さんが腕を組んだまま口を開く。


「通過、おめでとう」


 短い。

 声が低い。

 現場叩き上げって感じの、無駄のない言い方。

 でも、こっちはこっちで重い。


「塩湖さんもおめでとうございます」


「今の君なら現場でも持つ気がするよ」


 その道のプロからの評価上方修正。

 なんとなく、背筋が伸びる。

 

 視線を横にずらす。

 少し離れた場所。

 クイ研の連中が、固まっている。

 中心にいるのは―― 荒火。

 ああ、もう完全に「キング」だな、あれは。


 誰も騒いでない。

 誰もはしゃいでない。

 ボーイですら。

 静かに、整然と。

 まるで、通過するのが当たり前みたいな顔で。

 次の段取りでも確認してるのか、淡々と話している。

 さっきまでの機内の浮ついた空気とは、別の世界。


 ああいうの、ちょっと憧れる。

 いや、憧れるっていうか。

 ああいう「ちゃんとしてる感じ」に、自分がいないのがわかるから、ちょっと目につくだけか。


 そのさらに端。

 ぽつん、と一人。

 椅子に座っている影。


 衿衣。


 背筋を伸ばして、足を揃えて。

 膝の上に手を置いて。

 まっすぐ前を見ている。

 誰とも話していない。

 誰にも寄らない。

 でも、浮いてるわけじゃない。

 むしろ。

 その場の空気を全部引き締めてるみたいな、妙な存在感。


 ドームの時もそうだったけど。

 こういう場所で、こういう顔をするやつは強い。

 わかる。

 理屈じゃなくて。

 なんか、わかる。


 ……絵になるな。


 妙に、完成されてる。

 このまま雑誌の一ページに載せても成立しそうな。

 そういう一枚。


 なんでだろうな。

 ちょっと、息が詰まる。

 別に何もされてないのに。

 なんか、胸が締め付けられる。

 ただ座ってるだけなのに。


 視線を外す。

 長く見てると、なんか引きずられそうで。


 ――で。


 俺はどこに立ってるんだろうな。


 浮かれてる社長の隣でもなく。

 落ち着いてる現場叩き上げの横でもなく。

 整然としたクイ研の一部でもなく。

 一人で成立してるあいつみたいでもなく。


 中途半端な位置。


 ハナさんどこかな。


 まあ、今さらか。

 今までもずっとそうだったし。

 でも。

 さっき、あのゲートを越えたとき。

 ほんの少しだけ。

 どこかに踏み込んだ気はする。


 ……気のせいかもしれないけど。


「あー天馬くんおめでとー!」


「ハナさんもおめでとう」


「おう。エアバスの中で市籠といちゃいちゃしてた子か。おめでとさん」


「おじさんありがとー!」


 ハナさんが屈託なく潜り込んできて、屈託なく大人連中の間のポジションをキープ。

 

「んーーー、おめでとう、は、時期尚早かな?」


 その隣で、眼鏡をクイっと上げる女性。

 さっきの、あのタイトスーツの出来る女性(推定)だ。


「はいはーい、機内一位の椰子泉(やしいずみ)サマがご見識をお述べになりますよー。市籠くん、傾聴ーーー」


「もう、茶化さない」


 ああ。

 さっきの歓声。

 この人、機内一位だったのか。


「この席にね、無いのよ。『次は楽しい、オランシェ行き』の立て札がね」


 言われて、周りを見る。

 確かに。

 それっぽい案内が、どこにもない。

 ただの休憩所って感じだ。


「おめでとう!」


 歓迎のダンスとリズムに迎え入れられ。

 現地の笑顔しかないお姉さんにレイをかけられて。

 また一人、合格。


「にしし」


 無防備な八重歯を晒して照れ笑いする女の子。

 さすがにあの子は年下だよな?

 ハナさんに見事に騙されたから、女性の年齢はわからん。


 ……あれ?


 残り二枠で、今ので三人目じゃないか?


「どうかしたかい?」


「俺の順番が来た時、脱落者七名で残り五名だったんですよ」


 敗者の勘定が合わない。

 俺とハナさんが勝ち抜けた時点で、残り3名は全て脱落。

 なぜなら第一BFの敗者は10名とアナウンスされているから。

 なのに。


「そこで三連続で合格。計算が合わないのね?」


「はい」


 ドンドコドコドコ

 ドンドコドコドコ

 ……ヘイ!


「おめでとう!」


「四人目も出ちゃったね」


「と、いうことは……」


 不吉な予感を胸に思考を巡らせる俺らを他所に、ざわっ、と周囲が揺れた。

 眼差しが注がれているのはタラップの上。


「なんだぁ、その格好はぁ!?」


 黄石の声が、わずかに崩れる。

 珍しい。


 男が立っている。

 僧衣。


 …え僧衣?

 なんで金襴の袈裟!?

 こいつの顔には見覚えあるぞ?

 さっきまでスーツ着てなかったか?


「お前、エアバス内で着替えたのか!?」


「クワさん……俺、決めたんです! 脱サラして実家の寺を継ぐと! この袈裟は、その決意の表れ…… そして……」


 男が、頭に手をかける。

 髪を。

 いや。

 鬘を。

 すぽん、と外す。


「この頭は、覚悟の表れだーーーっ!」


 つるっぱげ。

 見事なまでの。

 なんだそれ。

 気合いの方向がおかしい。


「……あーーーはっはっはっ! こりゃ見事な坊主っぷりだ。そこまで仕込んでブー!なら笑ってやるよ! さあこい! はよこい!」


 黄石、笑ってる。

 でも。

 目は笑ってない。


 肩が、ほんの少し震えてる。

 イラついてる。

 わかりやすい。


「狙いすぎてるっていうか……あざと味が強すぎるよね」


「制作側の演出を食うスタンドプレーは嫌われるよ」


「出る杭は打たれる、か」


「ただ、ね」


「転移門BFの主役は、アイツだな」


「最後の一人ってのがもう持ってるもの」


 大渓さんと椰子泉さんの会話。

 冷静な分析。

 俺は、その横で。

 レイのお姉さんの頬にキスしてる坊主を見ていた。

 お姉さんのパッケージングされた完璧な笑顔が引き攣ってる。


「こーの生臭坊主!」


「だっはっは! Uターン系現代っ子僧侶、羽合《はわい》悟道《ごどう》27歳独身! ヨロシク!」


 なんだこの祭り。

 ほんとに。

 

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