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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
第一BF:転移門 座席拘束400問ペーパー四択

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19/121

第一BF:転移門 3


「33番」


「おっ来たね」


 前の席。

 大渓さんが立ち上がる。


 一度振り返って、俺と目が合う。

 ひらひらと手を振る。


 軽い。

 本当に軽い。

 でも、その軽さがいい。

 この人がいると、空気が少しだけ緩む。

 遊んでるようで。

 でも、ちゃんとやってるのが分かる。

 そのバランス。

 たぶん、俺にはまだ無理だ。

 大渓さんは、俺以外の何人かにも手を振って。


「それじゃお先に」


 そのまま、降りていった。

 ――戻って来なかった。

 少しだけ、胸の奥がざわつく。


 それから、見覚えのある顔が続く。

 ボーイ。

 李野。

 茂侍。

 キング。

 ……あ、俺もキングって言っちゃってる。

 荒火だよ、荒火。


 あの関西の連中。

 全員、戻って来ない。

 当たり前みたいに。

 当たり前なんだろうけど。


「100番」


 小柄な女の子が立ち上がる。

 返事はない。


「あの子の手荷物、すっごく多いねー」


 横でハナがぼそっと言う。

 視線を向ける。

 強い目。

 強い意志。

 何故か脳裏にずっと静止画として残ってる背中。

 ドームの最終問題。

 一緒に残ったやつだ。

 

 衿衣こよい。


 あの荷物。

 たぶん、一か月分。

 最後まで勝ち進む前提の量。


「絶対、行く」


 小さく、でもはっきり聞こえた。

 そのまま、足早に降りていく。


 ――戻って来ない。


 それから、立て続けに五人、戻ってきた。


 ある子は、すすり泣く。

 ある人は、座るなり前の席を蹴る。

 ある人は、無言で頭を抱える。

 ある子は、夢遊病みたいな足取りで。

 ある人は、何もなかったみたいに淡々と。


 脱落するのはあと四人。

 残り人数は十人ちょっと。

 4割。

 数字が、やけに重くなる。


 プレッシャー。


 ……いや。

 雰囲気に呑まれてるだけだ。

 本来、俺は緊張する必要はない。

 ちゃんとやった。

 逃げなかった。

 だから、負けてもいいはずだ。


 なのに。


 ペーパーテストの形式が、妙に馴染みのあるものだったせいか。

 そこそこ出来た、っていう手応えのせいか。

 どこかで。

 ――負けたくない。

 そんな声が、胸の奥から聞こえてくる。


「ちくしょーーーー!!」


 叫び声。

 びくっとして、意識が戻る。

 七人目が戻ってきた。


「おはよー天馬くん」


 横の座席には定位置に戻らないままのハナ。

 くりくりした瞳でこっちを見てる。

 いや、寝てたわけじゃないけど。

 目、閉じてただけだし。


「それにしても新人類はやっぱりクールだねー。こんなときにお昼寝なんて。私なんてもう、ほら。こんなに膝がさ、わらっちゃって……」


 す、と。

 手を取られる。

 そのまま、自分の膝――ほぼ太腿に誘導される。


 やめなされ。

 やめなされ。

 その無自覚誘惑やめなされ。

 自然すぎるだろ。

 距離感どうなってんだ。

 一瞬、頭が真っ白になる。

 でも、当の本人は気にしてない。


「ねー、がくがくがくがくってさー」


 へにょっとした眉。

 あからさまに無防備。

 こっちの動揺なんて、全然見えてない。


「17番」


 呼ばれる。

 タイトスーツに眼鏡の女性。

 いかにもできそうな雰囲気。

 クイ、と眼鏡を直して、ヒールを鳴らして歩いていく。


「わ、自信ありげだね」


「出来る女って感じ」


 ふと気づく。

 後さんも、塩湖さんもいない。

 ってことは、通ったのか。


 女性が出て行ってから、少しして。

 外がざわつく。


 何だ?

 何のざわめきだ?

 階段でも踏み外したか?


 でも、戻って来ない。

 次の男も、戻らない。


「99番」


 呼ばれた。


 ――来たか。


「じゃあ、行ってきます」


 立ち上がる。

 機内に残っているのは、五人。

 落ちるのは、あと三人。

 六割で負け。


「殿、ご武運を!」


 横から、変な言葉。


「ぬ?」


 なんだよそのチョイス。

 ちょっとだけ、力が抜ける。


「ありがとう、ハナ。短い間だったけど、楽しかったよ」


「なんかハナ、敗者決定って思われてる?」


「や、そういうんじゃなくて。本当に楽しかったから」


 ナリタレアからここまで。

 この三十分くらいが、一番気が楽だった。


「なら、よし! いってらっしゃい! ハナもすぐに追いつくから!」


「そっちも俺が勝ち抜ける前提で話してない?」


「思い込んでる! なんとなく! でもま、だめならだめで、帰ったら残念会しよ!」


「いいね」


 通路を進む。

 ぽつりぽつりと座る、敗者の横を通る。

 窓の外をぼんやり見てる人。

 新聞を持つ手が震えてる人。

 みんな、同じ顔。

 打ちひしがれてる。


 ……やっぱり、少しだけ疎外感。


 もし負けても。

 悔しいとは思うだろうけど。

 でも、それだけだろう。

 外面は、そのまま。

 適当に本でも読んで時間潰して。


 終わり。


 でも。


 勝てるなら。


 勝てたなら……


 タラップへ。


 外に出る。


 ダブル太陽からの容赦ない直射日光。


 思わず手でひさしを作る。


「さー、来たぞ問題児が!」


 ――黄石。


「やる気がなさそーなのになぜか参加してるイマイチわからん就活生、新人類のお出ましだ」


 もう、俺は新人類で確定らしい。

 大声クイズ、もしこの先あったら、「それなりに」か「新人類」か、どっちを叫ばされるんだろうな。

 

 ……いや、そんな先のこと考えても仕方ないか。


「どうも」


 タラップの上。

 足元は金属の階段で、日差しを照り返してじりっと熱い。


 その先、数メートル。

 下り階段の果て。

 単管に支えられたチープな屋台の屋根つきの一角。

 地面に白いラインとケーブル着きゴムマット。

 

 ――それが、ブーブーゲート。


 見た目は、ただの枠。

 でも、その先に進めるかどうかを分ける境界線。


「市籠くん、どうだい、自信は?」


 自信?

 そういえば、あった気がするな。

 大学入る頃までは。

 その後、就活で丁寧に砕かれて、粉にされて、どっかに飛んでったけど。


「合格ラインがわからないと、なんとも」


「自己採点はしたか?」


「6割……少々?」


「おお、見事に当落線上じゃないか!」


 まあ、そんなもんだと思ってた。


「で、なんでいつまでたっても降りてこないんだ君は?」


 いや、それ。

 お前がゴーサイン出すんじゃないの?

 なら機内で説明しとけよ。

 余計なインタビュー受けずに済んだのに。

 とっとと降り――


 降り……


 降り……


 ……あれ?


 足が、動かない。


 頭では分かってる。

 一歩出ればいいだけ。

 それだけなのに。


「おいおいどうした新人類? まさかまさか、此処に来て初めて勝負の怖さに竦んだか?」


 このオヤジ。

 呼吸するみたいに人を煽るな。

 腹立つ。


 俺は別に、恐れてなんて――


 降り……


 降り……?


 えー嘘だろ?

 マジで足動かない感じ?

 これ、撮影されてるんだよな?

 うっそだろ、おい?

 俺、こんなダサい姿取られてるの!?


「それともそのクールなお顔は表面だけで、中にはナイーブで柔らかな素顔を隠してるとでもいうのかい新人類?」


 だからさあ。

 お前はさあ。

 黄石さあ!


 その呼吸するかの如く人を煽るのを止めろって!

 人を暴こうとするのを止めろって!

 この畜生め!


 気づいたら、足が前に出ていた。

 あのテカテカな脂ぎった笑顔にどうしようもなく腹が立って。

 奮い立って。

 ……乗せられて。


 ドンドコドコドコ

 ドンドコドコドコ

 ……ヘイ!


 音が、割り込んでくる。

 太鼓みたいなリズム。


 気づけば階段を降りきった足が、ブーブーゲートを踏みしめて。

 境界線を、越えていた。


「市籠君おめでとう!」


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