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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
二次予選:奪え3カウント! ナリタレアジャンケンリング

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14/121

二次予選:ナリタレア 2


「君たちは親友同士なんだって?」


 マイク越しの声。

 黒い礼装の男―― 黄石が、笑ってる。


 知ってるのか。

 いや、そりゃ知ってるか。

 あの面談、あんなに掘られたんだから。


 その上で、これ。

 ほんと性格悪い。


「さて、港ヶ陸くん」


「……はい」


「君ぃ、いろんなクイズで優勝してるんだってな?」


「恐縮です」


「ぐるりウルティモが原点なんだって?」


「子供の頃憧れてて。いつか俺も異世界行くんだって」


「そっか。じゃ、是非とも夢を叶えないとな! 親友を踏み台にして!」


 ……ヤロウ。


 笑いが起きる。

 観客って便利だな。何言われても笑う。


「逆に青コーナーの市籠くんは、クイズ経験がないんだって?」


「テレビも初出場です」


「それなのに一次を突破した。とんだラッキーボーイじゃないか!」


「ラッキーなんですかね?」


「……これだよ。やはり君は間違いなく【新人類】だ」


「よく言われます」


 適当に返す。

 もう張られちゃったレッテルに、ムキになって逆らうのはダサい。

 そういう反応はきっと散々弄られるんだろうから、低体温でやり過ごすのが吉だ。


 でも、まだマイクが離れない。


「じゃあ、もう一回聞くぞぉ。異世界に行きたいかー!?」


 ああ、はいはい。

 お約束。


「……それなりに」


 これで終わり。

 そういう呼吸の筈なのに。


「でも君はラッキーだ」


 まだ続いた。


「ウルティモのモットーは、INT値VIT値FORTUNE値だ」


 知らねえよ。


 黄石は、ぐっと距離を詰めてきて――

 肩を掴まれる。

 弛んだおっちゃん体形の割に、妙に力がある。


「百戦錬磨のクイズ猛者にだって、ジャンケン一つで勝てちゃうんだぜ?」


 耳元で、囁く。


 マイクは通ってるのに。

 全部、会場に筒抜けなのに。

 赤コーナーの穂積にまで届いてしまうのに。


 わざわざ、こういう形を取る。


 演出。

 いや、違うか。

 試してる。


「じゃあいくぞ!」


 反射的に、肩に力が入る。

 赤コーナーの向こうで、穂積が息を呑んだ。


 立ち合いは共に不十分。

 しかし行司は待ったなし。


「じゃんけんポン!」


 掛け声に押されてグーが出る。

 条件反射。


「港ヶ陸くんワンポイント!」


 穂積はパーを出していた。


「……っし!」


 小さくガッツポーズ。

 相当気合、入ってる。


 勝ちに来てるな、俺相手に。

 勝ちに来るよな、俺相手でも。


 たかがクイズ。

 たかがテレビ番組。

 友情を裏切るとかそんな話じゃない。

 穂積は俺がウルティモにかける思いなんて無いことを知ってる。

 だから当然。


 ちょっと淋しく思う必要なんてない。


「二回戦、行くぞ。じゃんけんポン!」


 掛け声に押されてグーが出る。

 条件反射。


「市籠くんワンポイント!」


 穂積はチョキを出していた。


「……くっ!」


 小さく額を叩く。

 ポイント取っちまった。

 しかたないよな、じゃんけんだし。

 INTの通じないFORTUNEの領域だし。

 俺のせいじゃない。


「勝負は五分に戻ったぞ」


 わあわあと盛り上がる周囲。

 そんな盛り上がるところか?


 あ、あそこにちっちゃな女の子がいる。

 衿衣(えりい)って子だ。

 ひさしぶり。

 あの子だけは違うな。

 全然盛り上がってない。

 黄石の煽りに乗ってない。

 こっちに興味を示してない。


 変わんないな。

 強いな。

 あーいう強さ、俺にないよな。


 人目ばっか気にして、どう思われるかばっか考えて。

 もともとそんな人間じゃなかったのにな。

 就活で変わっちゃったのかな。


「三戦目! じゃんけんポン!」


 またしても条件反射。

 俺はまたしてもグー。

 穂積はまたしてもチョキ。


「ポイント! 青コーナー!」


 青の柱に電球が灯る。

 二つ目の電球。

 リーチ確定の演出。


 ……あれ?

 俺、勝っちゃうかも?


 視線を感じる。赤コーナーから。

 見てきてる。

 親友が、俺の目を、じっと。

 穂積の瞳は燃えている。

 俺は即座に目を逸らす。


 俺と、既に戦っている。

 俺は、戦えてないのに。


 思い出せ。

 たった二時間くらい前、バスの中でこいつはジャンケンの必勝法を語ってたじゃないか。


 なんだったっけ。


 次に出す手を心に思い浮かべて、相手の目を見る…… だったか?

 で、相手が逸らしたらそのままゴーだと。

 あ、俺、秒でそらしてたわ。

 てことは穂積は今思い描いてる手を出してくる。


 ……わかるわけねーだろ、あいつの心の中なんて!

 思い出し損だったわ!


「さーあ、青コーナーにリーチがかかったぞ」


 司会、煽る。

 煽り先は穂積。


「負けられないな?」


「負けられないです」


「親友でもか?」


「親友でもです」


 そうだよな。

 ずっと憧れてた舞台なんだもんな。

 そりゃ、負けられないよな。

 俺と違って。


 …………そうだよ。

 キングも言ってたじゃん。

 勝負の舞台に立つ資格ないって。

 ウルティモ辞退しろって。


 それでいいじゃん。


 負けたら穂積の願いが叶うんだし。

 どうせ俺、逃げる人間だし。

 【新人類】だし。


 本来、俺は物見湯山でしかなく。

 就職活動に行き詰ったことへの逃避でしかなく。

 十分に気分転換、出来たから。


 こいつは本気で。

 これに賭けてて。


 だから、俺は……


「パーで、行く」


 勝ちを譲ることに、決めた。


「天馬……」


 楽しかったよ、親友。

 行って来いよ、異世界。

 そんでちょっと高級なお土産でも買ってきてくれたら、俺は満足だから。


「おっとー。赤コーナー市籠君、やる気なく見せかけておいて、まさかの心理戦を仕掛けたぞー!?」


 黄石の声で。

 親友の瞳が、揺らいだ。


 惑わされるな、親友。

 俺はお前に勝ちを譲りたいだけなんだ。

 そんな小狡いこと、これっぽっちも考えてない!


 左腕を突き出して、手のひらを開いた。


「パーで、行く」


 よく見ろ、親友、俺の目を!

 よく見ろ、親友、俺の手を!


「さらに新人類、パーの右手を前に出したー!?」


 もう煽るなよ!

 俺たちの友情をこれ以上揺さぶるな!


「プレッシャーを重ねていくねー。この策士気取り、吉と出るか、凶と出るか?」


 あ……

 親友が、目を瞑った。


 集中してる。

 考えてる。


 俺のコレが作戦かどうかを。


 裏目に出たか!?


 ここで俺が勝ちに行くと踏んでいるならば。


 俺がグーに切り替える前提でパーを出す……?

 か、そう読まれてると呼んであえてのグー?

 じゃあ、俺はそれに合わせてチョキ?


 ……いやいや。


 あいつが目を閉じたのは周囲の雑音を、余計な情報を排除する為だろう。

 それは、俺のパーを信じたいがこその行為なのでは?


 じゃあ、俺はこのままパーを……


 くそっ、どうしたら負けられるんだ!?


 どうしたら……


「運命の一戦! じゃーんけーん……」


 だから……


「ぽん!」


 あいつは、右腕を振り下ろした。グー。


 俺は、右手を動かさなかった。パー。


「勝者、新人類!」


 コールとともに、穂積の膝が崩れた。


「あれ…… 俺…… グー?」


 信じられないものを見るように、自分の握りこぶしを見つめている。


 信じられないのは俺もだよ、親友。

 お前がどういう判断でそれを選んだのか解らない。

 でも、俺の言動を信じきれなかったから選んだことは解る。


 友情を否定したんだ。

 友情が否定されたんだ。


「いやー勝負の世界は非情だなー。でも胸を張って進もうぜ、新人類。勝者にはその権利と義務があるんだからな!」


 黄石は親し気に俺の肩を叩く。

 バンバンと。

 痛いくらいに。


「おめでとう!」


 めでたいわけ、あるか。

 

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