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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
二次予選:奪え3カウント! ナリタレアジャンケンリング

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13/121

二次予選:ナリタレア 1


 ナリタレアに向かうチャーターバスの中は、妙に明るかった。

 朝だってのに、遠足前の小学生みたいな声があちこちで弾けてる。

 

 窓の外はいつもの首都高で、見慣れた灰色のガードレールが延々と流れていくのに、中身だけが完全に別の番組だった。


 隣の席で、穂積(ほつみ)がやけに自信ありげに腕を組んでいる。

 細身の体に、無駄のない動き。

 猫背でもなく、かといって肩肘張ってる感じもない。

 やや長めのテクノカットが、バスの振動で軽く揺れる。

 

 その上から羽織ってるクイ研のハッピは、やたらと派手だ。

 スカイブルーに白抜きの大学名。

 その背中いっぱいに、油性ペンの文字が躍ってる。


 「穂積、頼んだぞ!」とか、「女神と会ってこい!」とか。

 

 妙に字の癖がバラバラで、たぶんあいつら五人、順番に書いたんだろう。


 一次予選。

 あのドームで、七人いたクイ研は、結局ここには二人しかいない。

 その「残り五人分」が、布一枚に押し込められてる感じ。


「俺さー、じゃんけんの特訓してきたぜ」


 そんなのを背負ってる本人は、やけに軽い調子で言う。


「神経を研ぎ澄ましてさ」


「特訓ってどんな風に?」


「まずさ。頭に強く思い浮かべるのさ。自分の出す手を」


「ほうほう」


「そしたらおもむろに、相手の目をじっと見る。俺はこの手を出すぞって念を込めながら」


「ふむふむ」


 前の席から、低い声が混じる。


「……気配で崩す、ですか」


 白樫(しらかし)部長。

 背もたれ越しにちらっと見える横顔は、相変わらず無駄がない。

 短く整えた髪に、四角いフレームの眼鏡。

 ワイシャツの上からハッピを羽織ってるのが、どうにもチグハグで、でも本人は一切気にしてない顔をしている。


 その背中にも、同じように寄せ書きがある。

 ただ、穂積のよりも、だいぶ指導寄りだ。

 目に入った順に読む。


 『元気を出して行こう!』


 いや、出すって言われて出るもんなのか、それ。


 『猫背禁止』


 姿勢指導かよ。体育教師か。


 『人の目を見て話すこと』


 面接かよ。もうやってるって。


 『気合を入れろ!』


 結局そこか。穂積と同じこと言ってるな。


 で、極めつけ。


 『手のひらに人と書いて飲むんだよ』


 ――10年前の受験生か。

 

 部長、愛されてんな。

 尊敬はされてなさそうだけど。

 なんか、読んでるだけで肩が凝る。


「で、目を逸らしたらそいつは、俺に負ける手を出す。だから手はそのまま」


「逸らさなかったら?」


「勝てる手を出す。だから手を変える」


 白樫部長が、もう一言だけ挟む。


「……理屈は通らんが、面白いですな」


「だろ?」


 穂積は嬉しそうに笑う。

 しばらく考えて、結論だけ口に出す。


「精神論? ていうか根性論?」


「まあ、言いたかったことは―― 気合いだよ、気合」


「気合な」


「そそ。天馬(てんま)に一番足りないやつ」


「わかるわ」


「わかんなよ!」


 軽く前の席を蹴る音。


「蹴るな」


 白樫が即座に返す。


「すみません部長!」


 反射みたいに謝る穂積。

 熱血エースに冷静キャプテン。

 そのやり取りも、なんかもう、いつもの部室の延長線上にある感じ。

 俺の知らない日常。


 窓に映る自分を見る。

 俺はハッピなんて着てない。私服のまま。

 まあクイ研でもないし。

 なんとなく、着る資格ない気がして。


 穂積は前のめりだ。

 体ごと未来に突っ込んでいく感じ。


 白樫部長は、その少し後ろで支える位置。

 無駄なことは言わないけど、必要なときだけ言う。


 俺は、さらに後ろ。

 景色の一部。


 勝っちゃったらどうしよう、とか。

 キングや関西の連中にまた会うの面倒だな、とか。

 そんなやだなーって思いばかり、頭の隅を巡ってる。


 楽しんでない。

 しかたないって思いが強い。


「市籠」


「ん?」


「お前も、なんか考えとけよ」


「ジャンケンの?」


「そう。なんでもいいからさ。流れでも、癖でも」


「いや、俺そういうの――」


「いいから」


 言い切られる。

 軽い調子なのに、逃げ道が塞がれるやつ。

 白樫部長が、少しだけ振り返る。


「市籠(しかご)クン」


「はい」


「君は、運がいい」


 淡々とした声。


「それを、どう使うかです」


 それだけ言って、また前を向く。


 なんか、面接みたいだな。

 最近そればっかりだから、全部そっちに聞こえる。


 運、ね。


 確かにここまでは、それで来た気もする。

 クイ研の流れに乗って。

 部長の読みを借りて。

 穂積に背中押されて。


 自分で何かしたって感じは、正直あんまりない。


「……気合いか」


 小さく呟く。


「お、やっとわかったか?」


「いや、たぶん一生わからん」


「おい」


 また二人、軽く笑う。


 バスはそのまま、高速を降りて。

 空港方面の標識が見えてくる。


 遠くに、やたらとでかい滑走路。

 飛行機が一機、ゆっくり降りてくるのが見える。


 あそこに行くのか。


 異世界とか言ってるけど。

 見えてるのは普通の日本だ。


 普通の空。

 普通のコンクリート。


 なのに、なんかもう、戻れない感じだけはする。


 隣で、穂積がハッピの背中を軽く叩いた。


「見てろよ」


 誰に言ってるのかは、たぶん残してきた五人全員だ。


 白樫部長は何も言わない。

 ただ、ほんの少しだけ背筋が伸びた。


 俺は。


 そのどっちにも乗り切れずに、窓の外を見てる。



 *



 ナリタレアの施設は、空港の華やかさとは無縁の、やたらと白い箱だった。

 体育館とも違うし、スタジオとも違う。

 ただ、「ここで何かが削られるんだろうな」って予感だけは、嫌に具体的だった。


 中に入ると、まず目に入るのは―― リング。


 ボクシングのやつを、そのまま安っぽくしたみたいな舞台。

 四方を囲むロープは、近くで見ると妙に細くて、ちょっと力入れたら外れそうな感じがする。

 なのに、そこだけ妙にそれっぽく見えるのが腹立つ。


 ジャンケン台。


 名前からして軽いのに、作りはやたら仰々しい。


 中央に、赤と青のポールが一本ずつ立っている。

 その中に、大きな電球が縦に三つ。

 三本勝負だからか、勝つごとに一つずつ点く仕組みらしい。


 胸元に目線を落とすと、「99番:市籠/東京」のプラプレート。

 空港入りの前に100人全員にそれぞれ配られた。

 穂積は71番。

 白樫部長は3番。

 番号は固有、県名は住民票に拠るらしい。


 周りには、さっきまで同じバスに乗ってた連中が、半円状に固まってる。

 100人いたはずなのに、ここに立つと、妙に少なく感じる。


 その中に、白樫部長の姿もあった。


 腕を組んで、じっと舞台を見ている。

 さっきまでの無駄のない顔が、ほんの少しだけ崩れてる。


 ――はあ。


 小さく、ため息。


 聞こえるか聞こえないかくらいの音。

 でも、それだけでわかる。


 ああ、これ、嫌なんだな。


 理詰めでやる人間にとって、ジャンケンは一番性が悪い。

 積み上げたものが、一瞬で無効になるやつ。


 それでもここに立ってる時点で、やるしかないんだけど。


「ハイ、七回戦はこちら!」


 その声が、空気を切り替える。


 黒い礼装。細身の体。

 あの男――黄石(おういし)が、腕を広げるだけで、ざわめきがぴたりと収まる。


 いや、収まるっていうか。


 収められてる。


 スタッフが合図してるわけでもない。

 カンペを掲げるやつもいない。

 サクラっぽい笑いも、見当たらない。


 なのに。


「おおっとォ! ここでまさかのカードだァ!」


 声が跳ねた瞬間、周りがどよめく。


 ちょっと遅れて、笑いが起きる。


 反射だ。

 完全に、反射。


 この人、何やってんだろうな。


 指一本で、観客のスイッチ切り替えてるみたいだ。


「赤コーナー、71番・港ヶ陸 穂積!」


 お、あいつの出番か。


 視線が集まる。


「青コーナー、99番・市籠 天馬!」


 ……え? 俺?


「二人とも同じ学院大学の三年生だ!」


 さらに、ざわっと空気が揺れる。


「くそっ!」


 横で、穂積が舌打ちした。


「え、あ、あの、なんで?」


 思わず口に出る。


 いや、そりゃそうだろ。100人いるのに、ここで当てるか普通。


「しかしコンピューターってのは残酷だねぇ。組み合わせに情を挟まないで、完全な乱数で決めちゃうんだから」


 うそつけ。

 絶対お前だろ。

 ――か、あいつだ。


 視線が、自然と奥に向く。

 挑戦者の山のさらに向こう。

 スタッフの中心。


 閑君(かんくん)。


 あの面談のときと同じ目で、こっちを見てる。


 体温のない、カメラみたいな視線。


 その横。

 勝者席。

 そこに、ふんぞり返ってるやつがいる。


 黒。

 上から下まで、全部黒。


 革のジャケット。革のパンツ。

 光沢のあるブーツ。腕も首も、余計な色が一切ない。


 キング・荒火(あらすか)。


 やっぱり、ああいうのを地で行くやつはいるんだな。


 こっちを見てる。

 目が合う。

 一瞬。

 何も言わないのに。

 言われる。


 ――お前、降りろ。


 言外に。

 いや、言葉にしたらもっと雑かもしれないけど。

 とにかく歓迎されてないのは、はっきりわかる。


 まあ、そりゃそうだ。

 こっちは置物で終わった人間だし。


「さあ、両者リングへ!」


 促されて、ロープを跨ぐ。


 近くで見ると、やっぱりチープだ。

 手に触れると、軽い。


 こんなもんで区切られてるだけなのに。


 中と外で、空気が違う。


 リングの中央。

 赤と青のポール。


 電球が、まだ全部消えてる。


 ここに一つずつ、灯っていく。


 どっちかが。


 三つ、先に。


「君たちは親友同士なんだって?」


 マイク越しの声。


 ああ、来た。

 知ってるよな。そりゃ。

 あんだけ掘られたんだし。

 その上で、これ。

 ほんと性格悪い。


 赤コーナーの向こうで、穂積が息を呑んだ。


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