第八BF:ザ・バレー 6
今まで俺はクイズ中に内省したり、解説したり、傍観したり。
束ねると集中を欠いていることがあって。
それを逃げだと定義して、自分なりに気づき次第律してきたけれど。
ここはクイズを措いてでも考えないと。
誰の想いも目鼻耳口様に拾ってもらえない理由を推測しないと。
闇雲に声を張り上げることこそ思考からの――勝負からの逃げだ。
「僕はここにいます!」「ボーイって呼ぶな!」
「クイズ作家になりたい!」「ママ!」
次の問題にソサエティー四人衆が声を張り上げている。
大声出さなくてもこだまするときはこだまするのに。
それでも彼らは声を張り上げている。
祈っている。
どうか自分の想いを本物であると認めて欲しいと。
無常のタイムアップ。
墨市氏の声はすでに掠れ、幸節は激しくせき込んでいる。
想いが届いて欲しいという想いについては、多分この二人がツートップだろう。
「いやー、じつに気持ちいいね! 君らがそうやって七転八倒してる姿を拝むのは!」
《いやーじつにきもちいいねきみらがそうやってしちてんばっとうしてるすがたをおがむのは》
あんな邪な想いはすっとこだまするくせに。
俺たちの願いは届かない。
「僕はここにいます!」「クイズ作家になりたい!」「ママ!」
次の問題。答えが分からなかったのか、今回はボーイ参戦せず。
三人は5回程、ワードの短い茂侍は10度も繰り返した末に、またしてもタイムアップ。
俺が感じるにどの叫びにも真実の響きが籠っている。
二問「見」に徹したが理由の予測が立たない。
だが、さっきあまり考えずに呟いた『想いが届いて欲しいという想い』。
これにワードチェンジしたらどうだ?
『想いよ届け!』
これ行けないか。
ちょっとキラキラしいというか、アイドルソングっぽさがあるフレーズで口に出すのは恥ずかしい……
恥ずかしい、か。
『想いよ届け!』って叫びながらも心の一部で恥ずかしいと思ってたらどうだ?
それは想いの純度を落とすことになるんじゃないか?
さっき茂侍に対して考えた理屈。
想いの質量と割合。
例え質量が大きくとも、そこに不純物が混ざってるのと。
例え質量が小さくとも、そこに不純物が混ざってないのと。
果たして目鼻耳口様は、どっちを優先するんだろう?
「僕はここにいます!」「ボーイって呼ぶな!」
「クイズ作家になりたい!」「ママ!」
いや待て。
残り6人、誰の言葉にも反応しなかった目鼻耳口様。
繰り返す。
俺も茂侍も一度はこだまされてる。
そのとき通った理由。
その後に通らなくなった理由。
「タイムアップ」
俺が一度目を通した時は、先読み通そうとして……
いや。
通そうとして声出ししてる途中で黄石のテカテカ顔が目に入って。
あー気に食わねぇって一瞬沸騰したはずだ。
あの一瞬。
もしかしたら。
純度百パーセントの想いで「黄石畜生」だったんじゃないか?
「僕はここにいます!」「ボーイって呼ぶな!」
「クイズけほっけほっ!」「ママ!」
さっきのMC時の「黄石畜生」が目鼻耳口様に拾われたのだってそうだ。
あの時俺は黄石が嬲ってくるのが心底気に食わなくて。
反発心が爆発して。
意識せずに「黄石畜生」が言葉となって飛び出してた。
あれはたしかに100%の純度で黄石クソ野郎。
「タイムアップ」
まだあるぞ。椰子泉さんに想い勝った穂積に黄石は言ってたな。
『想いは揺蕩う物』って。
あれ、ワード一回についてのコメントだったとは思うけど。
思うけど。
思うけど。
一問目、衿衣はワードを言い終える前からこだまされた。
他にも何例か、言い終わる前にこだまされたワードもあった。
だから。
閃きを言葉にするなら。
発言を開始してから、発言を終えるまでの間もまた。
想いは揺蕩ってるんじゃないか!?
「はい。ワードチェンジ希望します」
《はいわーどちぇんじきぼうします》
「おお、ついに事実を認める気になったか新人類! で、何にするんだ新ワード。『クワさんごめんなさい』にでもするか? だったら僕はこれまでの無礼を許しちゃうぞ?」
「ははっ笑える」
《ははっわらえる》
「「……」」
俺は黄石が無言のハンドサインで促す通り、ボードの裏に書き込んだ。
『解答権が欲しい』
すっと裏返すとスタッフや勝者の一部から苦笑が零れる。
「これはまあ…… なんとも明け透けで身も蓋も無いワードだな新人類!」
「これでも一種の先読みで、ものすごい博打なんですけどね。俺的には」
「問題5問もスルーして考え込んでたその作戦、吉と出るか凶と出るか……いくぞ問題」
さあ天馬。
頭を空っぽにしろ。
今だけは心を動かすな。
ハナさんの事も。茂侍の事も。幼一郎の事も。幸節の事も。勝者席のみんなのことも。
ムカつく黄石の事も。まだ怖い閑君のことも。就職の事も。誓いの事も。
一切合切。全部。
今だけ忘れて。
まずは答えられる問題かどうか、じっくり判断。
先読みなんてしなくていい。
俺の予想が確かなら、今回もソサエティー連中はこだまされないはず。
今のあいつらの想いには「焦り」とか「迷い」が含有されている。
そいつを胸から追い払わないことには、きっとコズミック存在は気付いてくれないから。
「フランス童謡集、ファーザーグース――」
「僕はここにいます!」
「――に出てくる、メタ――」
「僕はここにいます!」「クイズ作家になりたい!」
「――ファーが過ぎることで、児童――」
「僕はここにいます!」「クイズ作家になりたい!」「ママ!」
「――向け書籍では登場を抹消――」
来た! 答えは卵おぢさん!
ゲフィンな季節のお野菜をほどよい位置に括りつけたぷるんぷるんのシルクハット!
ならばここで参戦だ!
「僕はここにいます!」「クイズ作家になりたい!」
「ママ!」「ボーイって呼ぶな!」
勝ちたいとか、行けるとか。
どう見えてるかなとか、ダサくないかなとか。
余計なことは一切考えるな。
外から入ってくる情報をシャットアウトしろ。
解答権を欲する気持ちだけで、心を埋め尽くせ。
その心の中だけを見つめて叫べ!
「解答――」
《かいとうけんがほしい》
「市籠っっくん!」
「卵おぢさん」
ぴんぽんぴんぽんぴんぽん!
「勝ち抜け! おめでとう!」




