第八BF:ザ・バレー 4
一問目は、ちょっと目端が利けばわかるご当地問題。
これは暗黙の了解。
ペネトレイター衿衣の独断場。
「この丘のすぐ近くにある禁足――」
バスの中で椰子泉さんが説明してくれたやつ!
あれを聞いていたいつメンと、おそらくは調べていたソサメンが一斉に叫ぶ!
「辞表提」「一歩」「我がソ」「ハッピに」「ボーイっ」
「クイ」「みんな」「負けな」「黄石」「僕は」「ママ」
《まけない》
恐らく衿衣は最後まで発言出来てないはず。
それでもこだまされたのは恐らく――
「一番意志が強かったのは衿衣ちゃんか! じゃあ聞くぞ。答えは?」
「マンドラゴラ」
ぴんぽん!
やはり意志か。
想いの力か。
じゃあ俺はあの黄石のテカテカした顔をしっかり見て、ムカつきエネルギーを充填しないとな!
「次行くぞ問題。ヘギエンドラーの――」
ヘギ……?
解らん。
響き的に異世界問題か?
「――シボルヌイ問題について提唱された――」
「我がソサエティーに栄光あれ!」「ハッピに誓う!」「辞表提出します」
声量は一番小さかった。
なんならいつものアルカイック椰子泉スマイルのまま。
でも、こだまされたのは。
《じひょうていしゅつします》
「椰子泉さん、あんた本気なんだな…… ソサエティーやハッピなんかより!」
「生半可な覚悟で言えることではないわね」
「じゃあ聞くぞ。お答えは?」
「ヒーギンソン理論」
ぴんぽん!
すげえ!
まさかの東西の雄のクイズに賭ける想いを踏み越えるとは!
椰子泉さん、よっぽどストレス溜めてたんだな、職場に。
「ぐむぅ……」
「くそっ!」
悔しさを表す負け犬二匹。
そうだよな。
自分の大事な想いが、辞表より小さいんだって超越存在に判定されたんだからな。
この形式むっちゃえぐいわ。
そりゃ黄石がテカテカしながら二人をいじるはずだわ。
……黄石畜生!
「問題。天下二分のアスクホルムの戦いにおいて――」
あ、世界史問題だわ。
ヨーロッパ近世の、重火器が出始めた時代。
これ行けるんじゃないか!?
「――アッシュ内親王の懐刀として――」
誰も押してない今だからこそ、先読み行ったれ!
「黄石畜生!!」
《おういしちくしょう》
「……正直、君をコールしたくないんだが」
「司会の責務を果たそう」
「市籠この野郎、答えは?」
「摂政ブロイデル」
懐刀は「宮廷道化ハンス」。
表の顔が「摂政ブロイデル」。
アッシュ陣営の二大巨頭。
あと5文字か六文字聞けば、短い設問でハンスを聞いてくるか、
一旦ハンスを出しといて、二大巨頭のもう一人を聞いてくるか誰だってわかるだろうし、
その段に至ったら俺では勝ち目がない。
さあ、結果は如何に――
ぴんぽん!
――先読み成功!
っていうか椰子泉さんやクイ研精鋭たちと押し合いでは絶対勝てないからな。
どっかで先読みするか賭けに出るしかない。
気を引き締めて、もう一問行くぞ。
「問題。宇宙に漂うエモーションをつぶさに観察し、絶対性理論を――」
「我がソ」「ハッピに」「辞表」「僕はこ」
《はっぴにちかう》
「おっとー。2問目と同じ思い、同じワード、同じ相手なのに結果が変わったぞ? つまりは思いの強さは揺蕩うものってことか」
言われてみれば確かに不思議だ。
目鼻耳口様のおうむがえしにはまだ隠し条件でもあるのか?
「港ヶ陸くん、2問目となにか違いはあるのかい?」
うん黄石。
それいい質問だ。
「みんなの顔を思い浮かべました」
「ひゅう! カッコイイねぇ! ……答えは?」
「ポーキンツ博士」
ぴんぽん!
うん。
ここで覚醒・逆転とかカッコイイよな。
正に主人公の所業だ。
「成程な。同じワード、同じ思いでも、解答した時の心持ち一つで結果が変わる。つまりは想いは揺蕩うものということか」
黄石が感慨深げに追加ヒントをよこしてくる。
これって今気づいた仕様だろうか。
それともスタッフたちは把握済みの反応だろうか。
「いくぞ問題。メッソ遺伝子は通常の塩基ATGC――」
まずこのメッソっていうのが分からない。
サイエンスは異世界問題以上に俺の苦手分野。
……と、隣の席の茂侍が大きく息を吸い込んだ。
「――の他に――」
「ママ!」
流石茂侍だ。
ジャンルに穴が無い。
「Dという異常塩基を――」
「ママ!」「我がソサエティーに栄光あれ」「クイズ作家になりたい!」
キングと幸節も追って来たな。
この大声、目鼻耳口様が選ぶのは果たして――
《まま》
おおっ! 茂侍来た!
ソサエティーへの想いも将来の夢もぶっちぎって!
感謝と愛情が押し勝った!
……いやホント残酷だなこのクイズ形式。
俺、底の浅い絶叫ワード選んどいてよかったよ。
衿衣大好きとか叫んで反応遅れたら憤死モンだぜ。
「じゃあ聞こう茂侍君、答えは?」
「ドグラマグラ」
ぴんぽん!
「君はあの精霊の事が本当に大事なんだな」
「この旅一番の出会いでした」
夢見るような声色で茂侍が想いを構えなく答える。
俺の胸もなんかほわっと温かくなった。
こいつも変わったな。
こういう変化を成長っていうんだろうな。
「では行くぞ、も――」
黄石がMCを切り上げてクイズに戻ろうとしたその時。
三度思いが届かなかった黒い王様が、動いた。
「黄石アナ。ワード変更の権利を行使する」
野太い声で、す、と手を上げたキング荒火。
「早い決断だな。フリップボードの裏面にワードを書いてこっちに向けて立ててくれ」
「了解した」
キングはボードに油性ペンで何事かを書き込む。
黄石がそんな彼を煽った。
「たった三問の敗北でワードチェンジなんて、君の信念は意外と脆かったな」
だが荒火は馬耳東風。
「原点を見失っていた」
《げんてんをみうしなっていた》
荒火は静かに語る。
「俺は王としてではなく」
《おれはおうとしてでなく》
フリップボードを裏返す。
「一介のクイズ戦士としてここに立っている」
《いっかいのくいずせんしとしてここにたっている》
『俺は戦士だ』
ボードにはそう、書かれていた。
原点。
覚悟。
静かな迫力がこだまをも揺さぶる。
《おれはせんしだ》「荒火くん」「とかくこの世は面白い」ぴんぽん!
《おれはせんしだ》「荒火くん」「威禍」ぴんぽんぴんぽんぴんぽん!
「荒火君圧巻の一抜け! おめでとう!」
くそう荒火。
こいつはこいつでカッコイイぜ。




