第八BF:ザ・バレー 3
「さて、通常の大声クイズなら僕が君らにマッチした絶叫ワードをつけてあげるんだが――」
ああ、合宿で俺が「それなりに!」って叫ばされたあれな。
幼一郎は「ボーイって呼ぶな!」だったな。
確かに白樫部長、クワさんがワードをつけるって言ってたわ。
「流石に今回の魂の絶叫はな。自分自身にしかわからないだろうということで、5分与える。じっくり自分の絶叫ワードを考えてくれ。仲間内で相談してもいいぞ。撮影再開とともにみんなに発表してもらうからな。おもしろおかしいやつ頼むぜ」
ピッ!
「撮影中断」
閑君の合図と共に挑戦者たちにざわめきが走る。
「ねぇねぇ天馬くん、どうするどうする?」
ハナさんまっしぐら。
衿衣と俺の間に陣取って手を握り、上下にぶんぶんしてくる。
隣の茂侍は俺に一礼すると、主君荒火の下へ。
「ここまでやるかウルティモって感じ」
「私信心深いほうではないのだけれど…… 流石に罰当たりと思えてしまうわ」
垂須兄貴とワイズメン椰子泉さんも友情グループに合流。
あっちではソサエティー陣+穂積がキングを囲んでる。
「迷ってる人、いる?」
椰子泉さんは俺を見て言った。
いつメンたちも俺を見てる。
あれ?
なんで視線があつまってるの?
「迷ってるも何も、まだ何も考えてないです」
「五分って意外と短いわよ?」
それはそうなんだけど。
「じゃあ、みんなも考えないと」
「きっとこの中で決まってないの、あなただけよ?」
「え?」
「はいはーい! ハナは『みんななかよく!』でーす!」
「一歩でも、前へ。」
「負けない」
「私は…… ふふっ。 本番のお楽しみということで」
あ、マジで俺だけだわ。
「あと三分です」
スタッフが残り時間を告げてきた。
いやホント俺、何を絶叫すりゃいいんだろう?
あんまりダサいこと言いたくないし。
パッと思い浮かぶのは「逃げない」ってワードだけど、
それってお茶の間の皆さんに俺が普段は逃げる奴だって宣言してるのと同じだよな。
流石にそれは避けたい。
就活に悪影響ありそうだし。
えーと。
うーんと。
視線を感じた。
いやーな感じの。
振り返る。
いた。テカテカ笑顔の嗜虐的な笑み。
俺が考え込んでるの見て笑ってる。
――よし。
「決めました」
「五分経過。さあ解答席につけ」
その笑顔のまま黄石はフェーズを一つ進めた。
*
「フリップに絶叫ワードを書いて解答台の溝に立ててくれ」
解答席に用意されていたペンでフリップにさらさら。
漢字四文字。
熟語じゃないやつ。
さっと立てる。
一番乗り。
「市籠お前!?」
黄石のマジ困惑トーン。
よっしゃ一泡吹かせたぜ。
『黄石畜生』
スタッフから拍手。
閑君は冷静に黄石のアップを2カメに指示。
ウケてる。
イケる。
これなら俺は魂の底から絶叫できる。
『負けない』
「衿衣ちゃんはブレないな」
「そう」
クイズに臨む姿勢はね。
でも視聴者はプライベートのこの子の可愛さを誰も知らない。
ふふっ…… 優越感。
『ママ』
「茂侍くん。君はてっきり王を称えるワードを選ぶと思ったが……」
「精霊の森での彼女の想い、決して忘れません」
茂侍……先生の俺が教えてやる。
親和した精霊との絆な。
あれ、ずっとつながってるから。
距離を超えて、ずっと。
『法被に誓う』
「君はステックソンからずっと背負ってるんだな」
「二次予選からです」
かっこいいぜ穂積。
流石は主人公体質。
でも俺は知ってるぞ?
女子大生コンビが袖口の裏に連絡先をこっそり書いてたことをな!
『みんななかよく』
「舞網ちゃんさぁ。きみホントに25歳なのか?」
「はーい!」
ハナさんの年齢は本当に謎。
肌の張りも心の在り様も明らかに10代。
いや、もっと下の『よいこ』
こんなピースフルな絶叫ワードにもきっと、裏なんてない。
『ボーイって呼ぶな』
「仮に僕がつけるとしてもこれにしてたぜボーイ」
「ボーイって呼ぶな!」
いや幼一郎よ。
嫌がってる割に自分でもちょいちょい自称してるよな?
冒険心とか女子への興味とかに迸ってる時は。
『一歩でも、前へ。』
「垂須くん。まさに君を象徴するワードだな」
「早く問題!」
ずっと言い続けてる言葉。
座右の名ってこういうのを言うんだろうな。
イラちなコメントは、もうこの兄貴の個性。
『辞表提出します』
「おいおいおいおい椰子泉さん!? 物凄い爆弾投下してきたな?」
「ごめんなさいね会社のみなさん。でも決めたことだから」
確かに爆弾発言ではあるが…… なんとなく腑に落ちた。
たしか椰子泉さんは一部上場企業の秘書。
お堅くて真面目な職業。
この旅でバックパッカーの魂が疼いちゃったんだろう。
『クイズ作家になりたい』
「李野くん。君はどんなクイズを作りたいんだい?」
「もちろん鮮度の良い問題ですぞ」
うん。幸節はこれだと思ってた。
でも幸節。
人見知りのお前がクイズの売り込みとか営業とか、できるの?
『僕はここにいます』
「何か……切ないな墨市君、このワード」
「影が薄いっていわれるの気にしてるんです」
こいつとはホントに縁が無い。
一言たりとて話してないし、いつメンたちもそうらしい。
でも、まあ。
ワードに選ぶくらい影の薄さ気にしてるなら、今度こっちから挨拶してみるかね。
『我がソサエティーに栄光あれ』
「そして荒火くん。その杖似合ってるね。まるで魔王みたいだ」
「我が王錫に相応しい」
おい黄石。
絶叫ワードの方を聞いてやれよ。
でもそれで完結してるし、既存の話題でもある。
新たな装備に話を振るのは、それはそれでテレビマンの技術か。
「ワードも出揃ったところでルール説明だ。2ポイント勝ち抜け。お手付き誤答はマイナス1ポイント。解答権はおうむ返しをしてもらった者が得る。落っこちるのはたったの1名」
なんだろう。
こうしていざ戦いを迎えると。
ウルトラハットの制限された視界が無くても、周囲の情報がすーっと消えていく。
目鼻耳口様への畏れさえも。
きっとこれは脳内モードの切り替えが起きている故で。
俺の身体が俺の意志に先んじて勝負の姿勢という物を会得したのだろう。
「そして救済措置。どうしても目鼻耳口様に絶叫が届かない、途中でワードと魂の不一致に気づいちゃった。そんな時、一回だけワードを変更する権利を与える。希望者は問題文が読み上げられる前に挙手してくれ」
ざっとみんなのワードを聞き取った感じ、そんな配慮要らないとは思うけどね。
これで穂積とか荒火とかのキャラ付けワードがひっくり返ったらおもしろいな。
逆にハナさんや衿衣のワードが通らない姿は見たくない。
「では行くぞ問題」
黄石が腕を振り上げる。
空間に走るノイズ。
宇宙の谷底の目鼻耳口様が耳と化した。




