俗物三羽烏 7
その後。
墨塗りのエの字をしっかり削り取って止めを刺し。
学者たちと力を合わせて出口を塞ぐ瓦礫の一つをなんとかどかして。
牝馬ちゃんたちのいななきをバックに学者用のポータルゲートを潜り。
青肌ちゃん達がギルドに報告したゴーレム出現の報を訂正し。
急遽組まれようとしていた俺たちの救出チームを解散してもらい。
三人でのゴーレム討伐を改めて報告すると、ギルドは沸騰した。
「「「飲み放題だあああああ!」」」
なんか、大金星が発生すると翌朝までのギルド付属居酒屋での冒険者の飲み食いを、
全て奢らなくてはならない暗黙のルールが存在しているとかで……
金欠の俺らには無理無理無理無理って主張したら、青肌ちゃんが教えてくれた。
「殆ど素材に傷をつけずにガーディアンゴーレム討伐したんでしょ? 討伐報酬と素材売却合わせたら、一年は働かずにホテル暮らし出来るお金が三人に入るって!」
一年は働かずに?
ホテル暮らし?
三等分しても、なお!?
「「「よっしゃああああ!」」」
幸節ですら大声を張り上げた。
死闘、転じて、至福。
困難を達成した挑戦者には、困難に準じた報いがあるものだ。
いやあ、冒険者って本当に素晴らしいですね!
「幸節は何に使う?」
「魔道具を買いまくり、使いまくり、クイズ問題を作りまくりますぞ!」
「幼一郎は?」
「ハーレムパーティーの軍資金にするっす!」
「天馬くんの使い道は?」
「日本初のツルル農家になる!」
「「「わはははは!」」」
俺たちは無敵だ!
調子に乗ってることは重々承知!
でも今くらいいいだろ?
あんな怖い思いをしたんだぞ?
ハイにならずばやってられるか!
「チーム・俗物三羽烏さま、別室へどうぞ」
「別室?」
「賞金が多かったり、討伐方法が特殊でギルドが聞き取りをしたい場合とか、わりと呼ばれるよ、別室」
今回の解説キャラは幸節ではなくて青肌ちゃんでしたか。
まあいいや。
美人受付嬢に促されるまま、俺たち俗物三羽烏(パーティー名登録済)は相談室2、って部屋に通された。
応接室ではなくて小会議室とか戦略分析室な雰囲気の部屋で、一人の愛想のよい糸目眼鏡が待っていた。
「サブマス・お三方お連れしました」
「ご苦労。君は下がってください」
「了解しました」
事務的な態度を貫いたまま、受付嬢は会釈も無しに回れ右。
「おっぱい……」
そうかお前か。
お前の目線がそんなあからさまだったから、受付嬢はあんなそっけない感じなんだな!
「まあ、掛けてください」
言葉は緩めだが、なんか緊張感を覚える声色。
手放しで俺たちを祝う、とか、称賛するって感じではないな。
なんか……
浮かれ幸節や緩み幼一郎は気付いてないけど、あんまりよくない空気、あるな。
俺だけでも気を引き締めとこう。
三人が木製の簡素な椅子に腰かけるのを待ってから、サブマスとやらは話し始めた。
「ガーディアンゴーレムの討伐おめでとうございます。先ほど、ギルドからの確認の者から現地報告があり、あなた方の申告に違わぬ形での討伐が確認されました。つきましては――」
さあ、なんかくるぞ。
難癖か?
粗を見つけて減額交渉か?
揉めそうだったらサンタフェさんに頼るか。
もうホテルに戻ってる時間だし。
「就労ビザをご提示ください」
……ん?
んんん!?
「しゅーろーびざ?」
「はい。幾分か発音が怪しくはありますが、就労ビザ。あなた方、日本人ですよね?」
「そうです」
「いかなる生業にもかかわらず、地球側生命体が当世界で収入を得る時には、就労ビザの提示が必要になります」
なんだそれ!?
そんなの聞いてないぞ!?
や、そりゃ聞かなきゃ答えられない性質の問題だろうし、
異国に来たんだからそりゃ言われたら当たり前の話なんだけどさ……
「ええと、俺たち。パスポートしかないんですけど」
「では双方にとって誠に残念な話ながら、討伐報酬はお渡しできかねますね」
じゃあなにか?
そもそも俺たち、スタートからして間違ってた感じ?
今日一日、棒に振った?
骨折り損のくたびれ儲け?
「「「そりゃないよ……」」」
なお、ギルドのご祝儀飲み放題の負担は流石に免除してもらえた。
*
「やほーテイマーさん、もー、おっそいなー!」
とぼとぼとギルドを出たところ、青肌ちゃんが待っていた。
「はいこれ、依頼料!」
お金を握らされた。
ツアー五回は行けて、その上で毎夕食にツルルを二個つけれる程度の金額。
お馬さん運搬の代金。
……あ、なんかホロリと来た。
待っててくれて。
こんな、当たり前に約束守ってくれて。
今日は情緒があっちいったりこっちいったり振り切れ過ぎたから、なんか過敏になってるわ。
目の前の悪魔が天使に見えてきた。
「もし良ければ今から」
夕食でも、って続けようとしたところで。
「行方不明の三名発見! 現在地冒険者ギルド前!」
と、幸節の肩をぎゅっと握って離さない、般若の顔をしたチーフスタッフさんが!
「行方不明?」
「なにとぼけてるんですか! もうすぐ21時ですよ! 自由時間は19時の夕食開始まで。今朝ちゃんと確認取りましたよね!?」
あ、もう21時なのか……
ゴーレム倒すときは19時に間に合うように必死だったのに、
倒してから時間の事、頭から抜けてたわ……
最大の脅威を倒した達成感と安心感で。
なんかタスクが全部終わった気になってたわ。
「あー、なんか立て込んでるみたいだから、あたしたちはここで。たすかったよみんな。ありがとー♪」
ウインクと投げキッスを残して、トランジスタグラマーな青肌ちゃんはドロンした。
「ほー。随分と充実した門限違反を送られていたようで」
チーフさんの額に青筋。
近づいてくる複数の足音。
「叱られようか」
「そうっすね」
「違反は違反ですからな」
*
たっぷり一時間。
チーフさんにしこたま怒られました。
*
たっぷり一時間。
ハナさんに泣かれました。
*
たっぷり一時間。
閑君に冷静なお叱りを受けました。
*
たっぷり一時間。
サンタフェさんにマジ説教されてしまいまシた。
*
これで開放かと思ったら。
黄石が愉悦まみれの顔で近づいてきました。
*
――翌朝。
『おっぱいに目がくらみました』
と書かれたフリップボードを首から下げて正座している幼一郎と。
『金が無いのがいかんのや!(責任転嫁)』
と書かれたフリップボードを首から下げて正座している俺と。
『反省するまで知識を与えないでください』
と書かれたフリップボードを首から下げて正座している幸節がいた。
そこにふらふらと寄って来たのは名も知れぬスタッフの皆さま。
昨日俺らが一番迷惑をかけた人たちだ。
「よ、三羽烏」
「おまえらのせいで睡眠不足だよ三羽烏」
「遺跡で仕入れた知識はウマかったか三羽烏」
「それはもう格別ですぞ!」
「こいつ反省してないぞ!吊るせ!」
「あのギルドの風見鶏でいいな?」
「ご存じでしたかな? あの風見鶏は警報の魔道具であり――」
「「「黙れ三羽烏!」」」
「「俺らまで一緒くたにするな!」」
*
さて、後日談にはなるけど。一応。
俺たち三人の方々に迷惑をかけたゴーレム事件は、結局、オンエアされなかった。
つまりはモーリーの二番煎じだし、あれほどのビジュアルインパクトもないわけだし。
お茶の間の皆さんに恥を晒すのも何だしね。
良かったんじゃないかな?
放送なんかされなくて。
何かモーリーに負けた気がするのは、たぶん気のせい。




