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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
第八BF:ザ・バレー 届け魂の叫び! こだまでしょうか? いいえ、上位存在です

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俗物三羽烏 4


 遺跡の最奥部は、思っていたよりもずっと静かだった。

 いや。

 静かという表現は少し違うかもしれない。

 長い年月をかけて削れ、砕け、忘れ去られた空間特有の、重たい沈黙。

 学者先生たちに先導されながら、封印の先に広がる部屋へと足を踏み入れた。


「雰囲気あるー」


 青肌ちゃんの言葉は軽いが、装飾を削ぎ落せば俺の感想もそんな感じだ。

 ほえー、って呆ける感じじゃなくて。

 むぅ、って言葉も無く息を呑む方向性。


 そこはかつて立派な神殿か何かだったのだろう。

 崩れた石柱。

 床に散らばる彫像の欠片。

 壁面には無数の彫刻が並んでいた痕跡がある。

 ただ、そのほとんどは風化し、あるいは崩落によって原型を失っていた。


 何が描かれていたのかもわからない。

 英雄か。

 王か。

 神か。

 今となっては誰にも判別できない。

 ただ光輪と思しきくすんだ黄色の背景を残すのみ。


 壁面もぼろぼろだった。

 ところどころ大穴が開き、ひび割れが走り、天井など半分以上崩れ落ちている。

 それなのに。

 部屋の正面。

 壁際に設置された長方形の台座だけは異様だった。


 大きい。

 学校の教壇を何倍も大きくしたようなサイズ。

 それが、木造だった。


 木目が見える。

 しかも表面にはニスのような光沢まで残っている。

 だというのに、朽ちていない。

 傷一つない。

 周囲が数百年、数千年単位で風化しているというのに、その台座だけが昨日作られたみたいに綺麗だった。


「聖櫃《アーク》です」


 学者先生が興奮を隠しきれない声で言った。

 映画染みて来たな。

 例の考古学教授が例の活躍をして結果的に例の超自然にたどり着くやつ。

 冒険心を煽るカッコイイ映画音楽の。


「さあ日本人のリドラーよ。貴方の解いた千年パズルをいま聖櫃のくぼみに!」


 視線が李野くんへ集まる。


 が、当の本人は、すっと俺の背中に隠れた。


「市籠くん」


「うん?」


「お願いしますぞ」


「は?」


 気付けばルービックキューブを押し付けられていた。


「いやいや俺全然貢献してないし」


「主体になったら観察できないじゃないですか!」


 真顔だった。

 こいつ本気だ。


「例の冒険家教授も鞭使いですぞ。そして市籠くんもテイマーという名の鞭使い」


 やっぱりそこ連想するよな。

 遺跡だし、聖櫃だし。


「関係なくない?」


「ありますぞ」


 断言された。

 どこにだ。

 どこに因果関係がある。


 俺が困惑していると、李野くんはさらに一歩下がった。

 完全に押し付ける気だ。

 くそ。

 この男、興味あることになると途端に図太くなるな。


 さっきまで俺を盾にしてたくせに。

 主体になる段になったら逃げやがった。


 押し付け合いが始まる。


「いやお前がやれよ」


「市籠くんですぞ」


「発見者お前」


「解いただけですぞ」


「十分だろ」


「観察したいんですぞ」


「俺は撮影したい」


「私は市籠くんにタダ働きを約束させられましたな。遺跡見学を餌に」


「うぐっ」


 それはそう。

 俺の目的は報酬で、こいつの目的は調査。

 確かにそれで釣ったわ。

 ……しゃーない、ここは折れるか。


 そう、一歩を踏み出しましたらば。


 ひょい。

 横から手が伸びて、キューブが奪われちゃいました。


「じゃあ俺が!」


「「どうぞどうぞ」」


 ボーイだった。


 まだ左頬が少し赤い。

 青肌ちゃんビンタの名残である。


 回復速いなおい。

 さっきまで半泣きだったろ。

 なのに今は瞳がきらきらしている。

 期待。

 好奇心。

 冒険心。

 少年漫画の主人公みたいな顔だ。


「俺は女より…… 冒険を選ぶ!」


「お前、選んで女の道絶ったんじゃなくて単に振られただけだろが」


「うるさいっす!」


 力強い否定だった。

 否定になってないけど。


 ともあれ。

 ボーイはルービックキューブを手に聖櫃へ向かった。


 お前がやってくれるならありがたい。

 俺はカメラを構える。

 ようやく指に馴染んできたシャッター。

 無骨なフォルムに、クロムの重み。

 レンズ越しの異世界。


 部屋中の視線が聖櫃に集まる。

 本職の学者たち。

 魔法系女子冒険者たち。

 日本のクイズツーリスト。

 全員が息を呑む。


 そして。


 かちゃり。


 ぴたり。


 まるで最初からそう作られていたみたいに。

 ルービックキューブは中央の窪みに収まった。


 次の瞬間。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――――!!


 地鳴り。

 部屋全体が震えた。


「来たねこれ!」

「来ましたな!」

「ここまで完璧っす!」


 まるで映画のスクリーンに飛び込んじゃったような感動。

 さらなるスペクタクルの予感。


 床が揺れる。

 天井から砂が降る。

 正面の壁画に光が走った。

 緑色だ。


 複雑な線。

 まるで回路。

 あるいは血管。

 無数の発光線が蜘蛛の巣のように壁面全体へ広がっていく。


「うおおおお!」


 李野くんが叫んだ。

 猛烈にメモを取り始める。

 紙が足りるのか心配になる勢いだ。


「うおおおお!」


 俺も叫んだ。

 反射的だった。


 シャッター!


 シャッター!


 シャッター!


 フィルム実質無限だからペース配分くそくらえ!


 某ゲーム名人の如く一秒十六連打!


 決定的な何かを!


 シャッターチャンスを見逃すな!


 パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ!


 俺の指が残像になる。

 後で見返したら同じ写真ばっかりだったとしても知らん。


 今は撮る。

 とにかく撮る。


 その間にも緑の光は収束を始める。

 壁一面を埋め尽くした線が。

 チューブに液体が流れ込んで本線に合流するみたいに、中央へ向かって収束した。

 縦に太く、ただ一本。


 振動停止。

 静寂。

 その直後。


 ピカァァァァァァァァァァッ!!


 閃光と共に時が動き出した。

 壁が左右へ動き始めた。

 あれはただの壁画じゃなかった!

 隠し扉だった!

 こりゃマジでインディアナポリス教授だわ。


 古代遺跡。

 封印。

 聖櫃。

 秘密の扉。

 ロマンの塊。


「歴史的発見だ!」


「お宝あるよ! 絶対ある!」


「真実一番乗り!」


 俺たちの興奮がピークに達したころ。


 ガッ!!


 何かが扉の隙間から飛び出した。

 石の塊が何個か。

 いや、何本か。


 あれは…… 巨大な石の指だ。

 人間の腕より太い。

 それが隠し部屋の奥から腕を伸ばしてきて、扉の縁を掴んだ。


 ぎしぎしぎしぎし。


 いや、開いているんじゃない。


 めりめりめりめり。


 壊している。

 無理矢理押し広げている。


「ヤバい!」


 俺はカメラから手を離した。

 即座に逃亡姿勢!


「うおおおおお! ガーディアン登場!」


 李野くんはさらに興奮していた。

 言葉からして状況把握してるのに、ペンが止まらない。


「「「「ゴーレムだ!」」」」


 学者ども、お前らもか。

 畜生!

 なんなんだこいつら!

 知識欲の化け物か!

 知ってたわ畜生!


 どう考えてもあれはヤバい!

 ボスバトル勃発の空気だろ!


 ボーイもさすがに冷や汗を流していた。

 脂汗だらだらで巨体を見上げている。

 それでも男気発動。


「青肌ちゃん逃げるっす!」


 叫んだ。

 だが返事はない。

 さっきまで女ふたりいた場所に、今は誰もいない。

 背後の通路から走る足音だけむなしく響いてくる。


 速ぇな!

 判断が冒険者!

 さすがCランク!


 ズシン。


 地面が揺れた。

 視線を隠し扉に戻す。


 ズシン。


 ズシン。


 扉の奥から現れたのは、三メートル近い茶筒型のボディ。

 全身これ岩。

 つるつるの肌に、複雑な文様がびっしり絡む。

 人の形をしているが人ではない。


 顔らしきものもある。

 だが表情はない。

 生命感もない。

 ただ存在している。

 俺でも知ってる有名モンスター。

 ゴーレムだ。


 モーリーがいたらこいつのどこをハムハムしただろうか。

 いや、ぺろぺろしに行ってパンチ一発で壁の染みだな。

 間違いない。


 そしてゴーレムは。

 言葉を発さない。

 咆哮もしない。

 威嚇もしない。

 怒りもしない。

 殺意すらない。


 なのにわかる。

 本能でわかる。


 こいつは俺たちを破壊する。

 ただそれだけのために動いている。


 テイマー的な感覚も、まったく接続できる感じが無い。

 親和できる魂がない。


 心無き意思。

 機械的な破壊衝動。

 それが巨体から滲み出ていた。


 ズシン。


 また一歩ゴーレムは踏み出した。


 聖櫃を踏みつぶして。



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