俗物三羽烏 3
唐突だがゆかいな仲間を紹介しちゃうぞ!
俺たちサポートメンバー男三人、地球人。
巨乳に釣られたボーイ!
金に釣られた俺!
遺跡に釣られた李野くん!
俗な野心に塗れた俗物三羽烏!
彼女らメインパーティー女三人、現地人。
暗黒魔術師青肌ちゃん!
レンジャーシーフ栗鼠獣人の姉御!
ヒーラーでリーダーなシスターお姉さん!
全員Cランクのバリバリ冒険家だ!
「やはは。お誘いいただいて感謝ですぞ! 私も先例に倣い市籠先生と……」
「やめて」
先生呼びがソサエティー内で感染爆発の予兆。
これで荒火にまで広がっちゃったらどうするよ?
あいつだけなんか「我が師」とか言いそう。
絶対言う。
脳内で、王様みたいな顔をした荒火が大真面目に片膝をついて両手を広げ「我が師よ!」とか叫んでいる光景が再生される。
オペラみたいに。
嫌だ。
心底嫌だ。
で、俺は李野くんと並んで御者席。
例の如く人見知りを発動した李野くんは女冒険者と密室状態の幌の中に耐えられなかったらしい。
筋金入りである。
「異世界の遺跡発掘調査! 新鮮なクイズネタがごろごろ転がってそうで楽しみですなー」
分厚い眼鏡の奥で瞳を輝かせてエアメモ取りをしてる李野くん。
誘った甲斐があったな。
「分け前はいらない」って言質も取ったし。
俺によしお前によし。
持つべきものは友達だ。
ボーイはボーイで幌の中、ずっと青肌ちゃんに絡んでる。
シスターさんもお綺麗な方なのに全然声かけしない。
おっぱいがつつましやかだからだろうな。
そうやって複数女性の前で片方にばっかかまけてると、絶対交流捗らないぞ。
穂積が言ってたんだ、間違いない。
でもボーイったら。
「お姉さんって彼氏いるんすか!?」
とか、
「好きなタイプとかあるんすか!?」
とか、
見ているこっちが胃痛を起こしそうな会話を繰り広げている。
青肌ちゃんは普通に営業用笑顔で流してる。
ボーイとの間に手荷物おいて距離を一定以上詰めさせない。
したたかだな冒険者女子。
「ぶるるる?」
俺の気が逸れてることをを感じてか、お馬ちゃんたちが足を止め、御者席の俺を見つめてくる。
「や、大丈夫。君はそのまま街道を歩いてね」
「ひひん」
ムチなんて振るわない。
一声だけでお馬ちゃんたちはおりこうさんにいうこと聞いてくれる。
なんかやっぱり言葉が通じてる感がする。
テイマーって凄い。
俺はそう思った。
慌てず騒がず、ぽっくりぽっくりと西へ。
街道はよく整備されていた。
石畳ではないが固く踏み固められた土の道が真っ直ぐに伸び、その両脇には背の低い草原が広がっている。
時折、風が吹くたびに緑の波がさらさらと流れていった。
空は高い。
異世界に来てから何度も思ったことだが、この世界の空はやたらと青い。
絵の具を溶かしたみたいな濃い青ではなく、どこまでも透き通った青。
春先の日本で見る空よりも一段階透明度が高い気がする。
白い雲がぽつぽつと浮かんでいて、それがゆっくりと流れていく。
心を開くと泣けてくる。
深呼吸すると思考が解ける。
そんなプリミティブな感覚を揺り動かす空だ。
馬の蹄の音。
車輪の軋む音。
風が草を撫でる音。
のどかな音だけが続いていた。
「こいつら、てめーに恋してるぜ」
女パーティーの一角、栗鼠の姉御がにゅっと幌の中から顔をだし、
なんか微妙な気持ちになる分析をかましてくれた。
「てめーが手綱を握るたびに馬が嬉しそうに鼻を鳴らしてるもん」
鳥ちゃんと何日か意思疎通してきた経験上、生き物に好かれやすくなっている自覚は少しあった。
カンポスもペガサスもやたら協力的だったし。
というか服従的だったし。
まさか?
奴らも俺に恋してたとか?
「アタシも…… てめーがここに留まるっつーんなら? テイムされてやってもいいんだぜ?」
はいリップサービス!
こんなのリップサービスだから!
テイマーのパワーが獣人にまで効くなんてきっと気のせい!
「いーなー! いーなー!」
だからボーイや。
リップサービスを真に受けてボーイが歯ぎしりする必要はないんじゃよ?
や、俺マジの歯ぎしりがホントにギリギリって鳴るなんて初めて知ったわ。
「あわわわ」
それに李野くんや。
これは告白シーンでもないんだから、そんな緊張しなくてもいいんじゃよ?
あ、近くに女性の顔があるから怖いだけなのね了解。
*
そうしておやつの時間を少し回った頃。
何の襲撃もアクシデントもなく無事目的地の遺跡に到着。
拍子抜けするくらい平和な道中だった。
到着した遺跡は、荒野の中にぽつんと存在していた。
地面から突き出た巨大な石柱。
半ば崩れた外壁。
風雨に削られた石像。
遠目にもかなり古い。
近づけば近づくほど、人の手で造られたはずなのにどこか自然物のようにも見える不思議な存在感があった。
石材には見覚えのない紋様が刻まれている。
異世界の歴史。
異世界の文明。
そういうものの残り香が、そこかしこに漂っていた。
李野くんなんかもう興奮で呼吸が荒い。
「これは素晴らしいですぞ……!」
「落ち着け」
「私の知的好奇心の迸りは、たとえキングとて止めること能わずですぞ!」
知ってた。
で、今向こうの出納係のひとが、女子冒険者リーダーのシスターさんと運んだ荷について検品中。
馬車ごと補給物資扱いという意味不明な案件だったので、数も多いらしい。
終わるまで俺ら助っ人組はフリータイム。
さて。
遺跡に到着してからというもの、俺たち助っ人組に与えられた自由時間は思い思いの方向へ散っていった。
まず真っ先に動いたのは李野くんだった。
「失礼! こちらの遺跡はいつ頃発見されたので!? 発掘は何次調査まで進んでいるのでしょう!? 出土品の分類は!? 文字資料は!? 宗教的施設説と行政施設説、どちらが有力ですかな!?」
現地の学者先生を捕まえるなり鬼の聞き込みである。
矢継ぎ早。
息継ぎなし。
もはや尋問。
さっきまで女子冒険者たちの笑い声が聞こえる度にびくっってなって、その度に俺の腕を不安げにつかんできてたのに。
俺は奴がハキハキと質問を投げる様子を遠目に見ながら、毎度おなじみの感想を抱く。
人見知りどこいったよ。
いつだって思う。
何度だって思う。
女の人と話す時は視線が泳いで声も小さくなるくせに、なんなら俺の背中を盾にしてやり過ごすくせに、一旦知的探求心に火がつけば、何も恐れるものの無い質問マシーンに生まれ変わる。
別人か。
人格切り替わってない?
学者先生の方も最初こそ突然の質問攻めに面食らっていたが、相手が本気の知識欲を持っていると分かると徐々に熱が入ってきたようで。
今では李野を囲んで石版だの発掘記録だのを広げて宝物自慢合戦の様相。
みなさん楽しそうで何よりです。
一方その頃。
もう一人の同行者はというと。
「それでですね! 日本って国はすごいんすよ!」
ボーイは青肌ちゃんにずっと付きまとっていた。
目線はおっぱい。
ブレない。
あ、ブレた。
目線は悪魔尻尾の付け根……ケツだ!
ブレてるがブレてない。
どっちにしろ大変失礼で嫌われがちな行為。
もう、あれだ。
カウントダウンは始まってる感じ。
最初のうちは青肌ちゃんも営業スマイルというか、依頼人としての愛想の良さで対応していた。
「すごーい」
「そうなんだー」
なんて相槌も打っていた。
しかし時間が経つにつれ、その表情にだんだんと翳りが見え始める。
笑顔が引きつる。
髪をいじる。
返事が短くなる。
距離を取る。
明らかに不機嫌ですというサインをこれでもかと発している。
だが。
そんなサインをボーイがキャッチできるはずもなく。
むしろ逆だった。
愚直なまでのアピール正面突破。
「俺、日本人なんすよ!」
あれか、エルフみたいに「日本人様!」って称えてくれるあの感じを狙っての発言か。
「日本だとボクシングやってたんす!」
そもそもこっちにボクシングなんてないだろ。
「実はクイズも強いんす!」
そうなの?
俺より若干マシ程度の実力じゃ、素人に毛が生えたようなもんよ?
止めどなく溢れる続く自己アピール。
青肌ちゃんの目が死んでいく。
助けを求めるような視線が一瞬こちらに飛んできた。
見なかったことにした。
巻き込まれたない。
だいたい、お前があざとい色気でそいつを一本釣りしたんだ。
ちゃんと責任持って相手しろ。
帰り着いて依頼料分配するまでの間でいいから。
すると、その時だった。
「「「エウレカ!」」」
遺跡の奥から大声が響いた。
何事かと振り返る。
声を上げたのは学者たち。
その中心にいるのが李野くんだった。
そしてその手元には、色とりどりの面を持つ立方体。
学者先生が震える声で叫ぶ。
「突破したぞ! あの超魔道四方稼働型立方体構築物を! この日本人は!」
周囲がざわめく。
「さすがはリドラーだ!」
「リドラー!」
「リドラー!」
なんだかよくわからない歓声まで上がった。
李野くん本人はというと、褒められすぎて逆に冷静になったらしい。
はっとした顔になると周囲をきょろきょろ見回した。
そして俺を発見する。
次の瞬間。
だだだだっと全力疾走。
俺のところまで駆け寄ってくると、そのまま背後へ隠れた。
「市籠くん!」
「なんだよ」
「なんか大変なことになりましたぞ!」
知ってる。
エウレカだね。
見れば分かる。
だって学者先生たちが追いかけてきてるし。
「日本人様!」
「リドラー!」
「うおおおお!」
なんか凄い集団になってる。
俺は背後に隠れる李野くんへ振り返った。
「なんだか凄いことをやったみたいだね李野くん?」
「ルービックキューブ……」
「え?」
「だから彼らの苦戦してた超魔道四方稼働型立方体構築物とは、ルービックキューブだったんですぞ」
しばし沈黙。
いや。
え?
ルービックキューブ?
あの?
日本の玩具屋とかで売ってる?
何年か前に流行ってた時は4500円とか取ったくせに、いまや500円位で投げ売られてる、諸行無常の代名詞が?
異世界の古代文明のキー……!?
「……それを解いたの?」
「はい」
「何分で?」
「二分ほどで」
まあ、二分は地上でも普通に凄い。
TV出演は出来ないけど学校では一番のレベル。
学者先生たちが騒ぐのも無理はなかった。
向こうからすれば古代文明の叡智が詰まった超難解魔法パズル。
こっちからすれば休日のおもちゃ。
文化の違いって怖い。
そんな俺たちの前へ学者先生が飛び出してくる。
興奮で目が血走っていた。
「これで奥の封印が解かれたぞ!」
「封印?」
「つまり遺跡の基幹部分はまだ生きている!」
おお。
なんか急に冒険っぽくなった。
「「「歴史的発見の予感!」」」
学者先生が拳を握る。
その言葉に反応したのは俺ではなく李野くんだった。
さっきまで俺の背中に隠れていた男が飛び出す。
目が輝いている。
瞳孔が危険なレベルで開いてる。
「参りましょう、封印の間へ!」
誰よりも前のめりだった。
俺の背中がちょっと涼しい。
その瞬間だった。
バチッ!
背後から乾いた衝撃音。
全員が反射的に振り向く。
そこには頬を真っ赤に腫らしたボーイと。
腕を振り抜いた姿勢の青肌ちゃん。
「ごめんっす……」
しょんぼりしたボーイ。
「ほんとサイテー! ちょーサイテー!」
怒り心頭の青肌ちゃん。
状況は知らない。
見てなかったから分からない。
が。
おそらくは先走った挙句何事かをやらかしたボーイが青肌ちゃんにビンタくらってました。
うん。
まあ。
どんまい、予定調和。




