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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
第七BF:ヌー マラソンクイズおそろしや

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◆ペナ仕置き:ヌー◆


「ねー? 吸血まだー?」


「お坊ちゃまは成長期ゆえ、健全な睡眠時間が必要でございますゆえ……」


 ソファで足をぱたぱたさせているお行儀の悪いモーリーに、正対した老執事は慇懃に答える。

 現在時刻、18:30。

 本来は18時にペナ仕置きの撮影を開始する筈だったんだ。

 でも、スタッフたちが燃え上がっちゃったんだ。


『ハイ! 牙の鋭い真祖がいいでっす!』


 モーリーが敗北時に発した、その一言に。

 モーリーにペナ仕置きを楽しませてなるものか、と。

 だから緊急会議を開いてまで、ペナ仕置きの形を変えようとしている。

 モーリーだからこそお仕置きになる形を組み立てている。

 嬉々として。

 或いは爛々として。


 君たちさぁ……

 番組の進行を遅らせてまでさぁ……

 そんな私怨まみれの理由でさぁ……

 わかってるじゃないか!


「黄石アナ。例の件、まとまりました」


「どうなった?」


「こちらの進行表をご覧ください」


 ほうほう。ふむふむ。

 成程、な。

 これならモーリーにはきっついお仕置きになるだろうな!


「モーリー、晩餐室に移動だ」


「あ、折角の少年バンパイアならバックハグからの首筋ちゅーちゅーで!」


 能天気に欲望を駄々洩れさせるモーリーの表情はだらしなく弛んでる。

 おおよそ年頃のお嬢さんがしてはいけない顔だ。

 この顔が数分後には歪む……

 楽しみだ。

 実に楽しみだ!



  *



「あの? 私? 鎖で雁字搦めなんですけど?」


「君にゃー前科がありすぎるからね。フリーハンドでご子息様に合わせるわけにはいかないよ」


「高貴なお方!? ブルーブラッド!?」


「とびっきりだぜぇ? なんせ王子様なんだからな!」


「ロイヤルブラッド!」


 モーリーの身体が喜びの余り跳ね回る。

 椅子の背もたれに括りつけられているので、水揚げされた海老の様な動き。

 本当にこいつは我慢が利かない。


「王子、ご入室されます。ご静粛に」


「麗しのかんばせ…… もごーもごー」


 絶叫を迸せらんとしたモーリーの口を手で塞ぐ女性スタッフ。

 君にも苦労かけたな。

 円形脱毛したらしいな。

 せめてこのペナ仕置きで多少なりともその鬱憤を晴らしてくれ。


 キィ……


 年季の入った重々しい扉が軋みながら開くと、その向こうから一人の少年が現れた。

 表情は不遜にして不機嫌。

 漆黒のユニセックスタキシードに金の縁取り。

 金髪碧眼の王子様がお出ましだ。


「はぁ……」


 王子様は憂鬱気に上座に付くと、我々を一瞥して一言。


「その女が、我に供されし日本女か」


「左様に御座います」


「変わらんな。日本人だろうと、大陸人だろうと」


 冷やかにして怜悧な眼差しで、あからさまな落胆を口にした。


「えっ……」


 期待からの落差に絶句するモーリー。

 くっくっくっ……

 始まるぜェ、お前にとっての地獄がな!


「説明しよう! 王子は大の偏食家で、ヒューマンの血液嫌い。栄えあるバンパイアの王子がこのままではいけないと、現在奮起されて人間の血を糧にすべく努力されているんだ」


「吸血鬼には吸血鬼の伝統というものがあるからな。下らぬ拘りだが、その血を引く以上責任もまた存在する」


 王子は控えていたメイドにナプキンを付けて貰うと、老執事に合図した。


「良きに計らえ」


「畏まりました」


 慇懃に頭を下げる老執事。


「えっ? えっ? 首筋ちゅーちゅーは!? なんで王子様そんな遠くに座っちゃうの!?」


 混乱するモーリー。


「生物に直接牙を立てるなど、そんな野蛮で汚らわしいことなどできるか」


 王子は実に不快気に眉根を寄せ、つまらぬものを見る目でモーリーに吐き捨てた。


「えっ? じゃあ吸血は?」


「この注射器で行いますな」


 老執事が手にしているのは日本産の安っぽい注射器。


「失礼いたします、日本人様」


 いつの間にかモーリーの傍に寄っていたメイド隊の一人がカーテシーにて優雅に一礼。

 その手にしているのはアルコールの染み渡ったガーゼ。

 それが、拘束されているモーリーの二の腕を清拭する。


「えっ、これって採血……」


 眼を白黒させているモーリーの事情など斟酌せず、老紳士は注射針をモーリーの二の腕に静かに差し込むと、ゆっくりと丁寧に血を抜き出した。


「グロテスクな色をしているな」


「こちらのヒューマンより幾分、栄養素が芳醇なようです」


「そう栄養満点なの? だからお姉さんから直接ちゅーちゅーしよ?」


「……なんだこの女は? 誰か魅了したのか?」


「いいえ王子。この者は既にして吸血鬼に…… 魔の物に尋常でない執着を見せておりますれば、これはこの者の素であるかと」


「度し難いな」


「ああっ、その目! 冷たい目! 蔑んだ目!」


「……喜んでないか?」


「これ日本女よ。あまり若の教育に悪い言動をするでない」


 そうして数十cc程の血液が無機質な注射器に収められ。

 老執事は王子に恭しく注射器を掲げた。


「ふんふん…… 成程。事前の話通り、魔素は低いな」


「地球には魔術がございませぬ故に」


「ならば…… 行けるのか?」


「王子の血液嫌いの理由は魔素嫌いにあるという推測が確かならば」


「まあ、試してみるか。メイド」


「は」


 控えていたメイドが王子から注射器を受け取ると、白ワインの入っていたグラスに数滴、注射器に蓄えられていたモーリーの血を垂らした。

 白に溶け切らず、漂う赤黒のマーブル模様。

 老執事とメイドは血の匂いに喉を鳴らす。


「お試しください」


「うむ」


 そうしてワインをテイスティングするように、王子はグラスをゆらゆらと回し。

 眼を閉じて。

 香りをかぐと…… 顔を青くした。


「無理だ」


 コトン。

 テーブルに小さな音を立てて置かれるグラス。

 広い天井に染み渡る静寂と失望。


「どぼじでぞんな゛ひどいごどゆ゛うの゛おぉぉぉお゛!?」


 この状況に、ついにモーリーが切れた。

 死霊でも憑依しているかの如く、びたんばたんと、体中の動かせる部分を無秩序に暴れさせて絶叫する。


「の゛んで! の゛んでよ゛ぉ゛! く゛わ゛ずぎらいし゛な゛い゛でぇ゛! お゛いし゛いか゛ら! ク゛セ゛にな゛る゛か゛ら!」


「うるさいぞ日本女。美味しい訳あるものか。こんな不純物塗れな…… コレステロールが充満した血液など。吐き気がする! 我の贄としてその血を捧げたいというのなら、まずは己が血をサラサラにしてこい!」


「うっ!」


 思い当たることがあったのか。

 モーリーは己の腹部あたりに目をやると、俯いたまま沈黙した。

 そして、モーリー担当の女性スタッフ。

 彼女の眼が愉悦に輝いていた。

 あの目。

 まるで僕のような目じゃないか!


「口直しだ、爺や。いつもの奴を」


「かしこまりました」


 老執事は慇懃に頷くと、メイドの一人を呼びつける。

 その手には一本の瓶が握られていた。

 それを、空のグラスに音も無く注ぎ込む。


「昼獲れの豚の血液でございます」


「ぶた……?」


「こくこく…… うん。実に美味」


「な゛ん゛て゛……?」


「やはり管理された獣の血は旨い! そこな女の野放図に汚れた血とは違ってな!」


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛ま゛り゛だぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」




【第七バトルフィールド】

【敗者:毛利井栞――― 強制送還】

【ヌーへの恒久的な入国禁止措置(ヌー政府発令)】





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