第七BF:ヌー 6
「左の席が空いてるな」
「膠着状態を打破するために解放したらどうかな?」
垂須さんの提案に穂積が乗っかるが。
「反対反対!」
先頭に立ってるモーリーは当然却下する訳で。
それから数問。
ぽーん!「波名真くん!」「えっと…… ゲリマルディ?」 ブー!
異世界問題をまたしてもボーイに阻止されて。
トン…… ダン!
ぽーん! 「押し勝ったのは李野くん!」「ネクストヒッピー」ぴんぽん!
珍しく簡単な時事問題に反応しかけたモーリーだったが、
そのアクションが大きかったために察せられ、
続く李野くんに時事問題で1ポイント取られて。
「モーリーは最後尾に映りなさい、さあ、急いで急いで」
「ううーーーっ」
モーリーが穂積と垂須さんの後ろに回って。
「やっぱり左の列埋めようよ」
「それがいい!」
不利になったモーリーが一転、同意して。
「俺は反対っすよ」
戻って来たばかりのボーイが反対した。
「なんでそんなこというの!」
「じゃあ俺が左列を貰うなら賛成に転じるっす」
「なんでそんなこというの!」
睨み合うモーリーとボーイ。
一斉に足を止める挑戦者たち。
「僕はレディーファーストに一票かなぁ…… やっぱり男女、体力差あるし」
「ここは公平にシャッフルだろう」
意見百出、盤面騒然。
様子を伺っていた黄石が閑君に手を振り、判断を仰ぐ。
「放送中断!」
馬車が、止まった。
あれ……
これ……
もしかして…… 茶番?
俺の視線を感じたのか、穂積が明らかにこっちに向けてニヤリと笑った。
垂須さんは人差し指を唇に立てて、シー、のポーズ。
やりやがったなこいつら!
もっともらしい騎士道精神押し出して、進行を止めようと企んだか!
ソサエティは察して乗っかったのか!
いや、乗っかったのはソサエティだけではなく……
相談している筈の黄石と閑君。
これがもうおかしい。
俺の知ってる閑君って男はいつだって即断即決。
撮影中に黄石と相談タイムなんて持った試しはない。
奴らの表情が「オトコノコ」してるのは気のせいじゃないはずだ。
「ふぅん」
椰子泉さんがさっきから、何か怖い。
気付かんふりしとこ。
そして数分後。
ともあれ閑君からも席移動は認められ、次は誰が移動するかという話し合いに移った。
馬車はこの間、ずっと止まっている。
ダンシングアンデッツもBGMを止めて休憩中。
そのゾンビの群れを割って。
男の子たちの待ち人がついに現れた。
外したバンダナで左足の膝を縛り。
魔王の王錫が如き禍々しい杖を突き。
髪を振り乱して。
並足より速く。
走行より遅く。
しかし着実に、荒火は近づいてくる。
「あの杖は一体……?」
黄石が閑君に尋ねる。
「立ち上がっては崩れる彼を見て、応援に来ていた老紳士が杖を譲ったようです」
「スタッフでも挑戦者でもなく?」
「スタッフでも挑戦者でもなく」
「ならば。見過ごさぬわけにはまいりませんな、閑君プロデューサー?」
「ルールを一切逸脱していませんからね、黄石アナウンサー」
空席の補填は認められた。
結果、垂須さんのレディファースト案が認められ。
その建前でモーリーが左の早押し台を独占した。
他のメンバーは散らなかった。
なんか茶番臭い言い争いをした末に、結局だれも動かなかった。
荒火の顔はもう、肉眼で見えている。
気高く歪んだ顔だ。
剥き出しの闘争本能。
崩れかけの肉体連動。
その化学反応が、在り得ぬほどの存在感を醸し出している。
音声さんの「ひっ」という短い悲鳴がマイクに拾われてしまうほどに。
だが俺はカメラを迷わずパシャリ。
わかる人にはわかる最高の一枚だ。
「よし! 撮影再開!」
さらに速度を一段落とした馬車が進みだす。
無線を受けたチーフスタッフが、ダンサーズに何やら指示を出している。
おそらくダンサーズ追跡速度を馬車の速度に合わせさせるのだろう。
「いくぞ問題。」
再開したなお、タイムアップは続く。
これらを全て答えていたら、とっくにマラソンクイズは終わっていただろう。
彼等に解答する力は十二分にある。
でも、誰もそれを選ばなかったし、出し抜かなかった。
言葉も無く、契約も無く。
ただ、誇りと意地とが結んだ連帯感。
俺は一人勝者席。
正直、羨ましかった。
あの熱量の中にいたかった。
それは旅の絆とはまた別な、戦士のシンパシー。
「男の子ね…… 男の子」
椰子泉さんが口内で消化できない何かを転がしている。
「せっせっせーの」
「よいよいよい」
退屈になったハナさんは衿衣を巻き込んで手遊んでいる。
温度差。
温度差よ。
クイ研の問題潰しがさらに一周し。
問題にして13問を消費した頃。
黒き王は魔王の錫杖を伴い帰還した。
「しぶといなー荒火。とっくに諦めちゃったかとおもったぞ僕ぁ」
黄石はいつもの黄石で。
「我がソサエティーに敗北はあれども停滞は無し」
荒火はいつもの荒火で。
「しっかり最後までついてこい。いくぞ問題!」
戦いが再開された。
男子協定がここに解除された。
「シンドリッタ・シンドレッタのコレクションで発表された、胸元の――」
ポーン!
「墨市くん!」
「ローブ・デ・コルテ」
ピンポンピンポンピンポン!
「勝ち抜けおめでとう!」
しかし墨市氏は勝者席に移らずに挑戦者に並走する。
一歩前へ出てきたのは一歩前へ進む男、垂須歩。
「問題。北ポンガン寺の狐囃し――」
ポーン!
「垂須くん!」
「ジョウジョウ寺!」
ピンポンピンポンピンポン!
「勝ち抜け! おめでとう!」
「しゃああっ!」
ひとしきり叫ぶと垂須さんは勝者席に移って来た。
「やりましたね垂須さん!」
「はは……今回も沢山走らされたよ。きっとマメ出来ちゃってる」
グーパンを重ね合う。
はしゃいでる。
俺も、垂須の兄貴も。
「あなたは彼等と走らないのね?」
すっと差し込まれたのは椰子泉さんの声。
どこか冷たさがコーティングされている。
「そこまでの絆はないんで」
「でも遅延工作には乗ったでしょ?」
「その程度の絆はあるんで」
「男の子ですからね!」
「男の子だったろう?」
俺と垂須さん、再びのグーパン重ね。
一方の椰子泉さんは軽くため息をつくと。
「男女の溝は深いわね」
そう呟いて、怖い雰囲気を解除した。
ポーン!
「港ヶ陸くん!」
「スーパーカルロブラザーズ!」
ピンポンピンポンピンポン!
「勝ち抜け! おめでとう!」
穂積の勝利。
気付けば王の配下たちはみな勝ち抜けていた。
勝ち抜けてなお走っている。
自らの王に並走している。
ルールに厳しい閑君も彼等を勝者席に強制移動させないし、
黄石も彼等をちゃかさない。
画になるからだ。
感動を呼ぶからだ。
彼等が優秀なテレビマンで――
そして男の子だからだ。
「あー、もう! 異世界問題来てよ異世界問題!」
残っているのはただ二人。
落っこちるのはただ一人。
勝負は最終局面。
苛立つモーリーに意識朦朧の荒火。
そして最後の問題が放たれた。
「ワイズメンズタワーが定める魔術分野において――」
六問ぶりに来た異世界問題。
モーリーが猛禽の様にボタンを鷲掴む。
問題の形が明確になり次第、押しの構え。
対するキングは常の猫握り。
脂汗塗れのその姿は、しかしどこか、いつかの座禅姿と重なった。
風が止まる。
呼吸も止まる。
チュ、ランラン、デューワーラッ!
「現在け――」
バン! ドン!
打釦音は同時。
しかして感嘆符が起き上がったのはキングの早押し台!
黄石が息も絶え絶えに王の名を叫ぶ!
「あら、すか、くんっ!」
王は静かに、勝利を自ずから宣言する!
「時空魔法」
ピンポンピンポンピンポン!
「君の気概、見せてもらったぜ」
馬車が止まる。
モーリーは絶叫しながら後方へ倒れる。
「あ゛~~~~~~~っ゛!!」
キングは言葉も無く前のめりに崩れる。
「…………」
が、地面にぶつかる前にソサエティーの面々が王を支えた。
「我が王~~ッ!」
「押し勝ちましたな」
「勝利ですよ」
「お疲れさまっス」
一方のモーリーは仰向けに寝っ転がって手足をバタバタさせていた。
「もーもーもーもー!」
駄々っ子の構え。
黄石はてかてか笑顔で敗者インタビューに向かう。
「モーリー、おっこっちゃったなぁ!」
「くやしいいいいいっっ!」
「お前、集中砲火くらってたもんなぁ」
「そんなのはどうでもいいの! 悔しいのは! 異世界問題で押し負けたこと!」
「僕も最後の問題を読み上げながら、君が勝つだろうなと思っていたよ。でもこれが勝負の世界なんだよなぁ」
「あ゛あ゛ん゛! もーもーもー!」
感情を整理しきれないまま再びの駄々っ子の構え。
疲れを見せないアンデッドダンサーズの踊りは揃って「アぉウ!」して終了。
沿道からは見物客からのあたたかな拍手。
「く゛や゛し゛い゛い゛い゛! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
第7バトルフィールド。
魔物偏愛の異世界オタク・モーリーこと毛利井栞。
唯一の武器を正面から返り討たれ、悔しさを抱いて敗北。
「ペナ仕置きではなぁ……バンパイアにお前の血をちゅーちゅー吸って貰うぞ?」
「ハイ! 牙の鋭い真祖がいいでっす!」
――悔しさどこ行ったよ?




