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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
第七BF:ヌー マラソンクイズおそろしや

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第七BF:ヌー 5


「モーリーには一度、人の道ってもんを骨の髄まで叩き込んでやらないといけないな!」


 黄石の声は笑っている。

 瞳は笑っていない。

 冗談めかした口調の裏に、確かな苛立ちと、そして――わずかな期待。

 モーリーではそれに気づけない。

 周りの冷え切った空気にも。

 毛利井栞とはそういう女だ。


 欲望第一。

 ほかのことはお構いなし。

 その姿勢は一周回って清々しいほどで、だからこそ厄介でもある。

 スライム捕獲騒動から一度もその芯をぶらしたことはない。


『ずらいむ゛ぢゃんをぶにぶにじだいがだめに゛ぃ!』


 あのときもそうだった。

 危険だとか迷惑だとか、そういう概念が最初から彼女の思考に入っていない。

 欲しいと思ったから捕る。

 それだけ。


『大精霊様しゅきしゅき!』

『ペガサスファンタジー!!!』

『ぽんぽんを猫吸いしなきゃ!』

『100霊和合超モーリー、爆誕!』

『わわわ私は何にもやってない!』


 ……最悪だなコイツ!


「貰っちゃった」


 モーリーが誇らしげに掲げるのは麻の包帯の切れ端。

 本当に貰ったのか、つい千切っちゃったのかはわからない。


「この沈香の香りが凄い!」


 だが、その浮かれポンチで他者を顧みない。

 その、態度が。

 クイ研たちに火をつけた。


「「「「…………!」」」」


 傍目にも分かる。

 ソサエティの四人が。


「…………」


 関東の雄が。


「…………」


 そして、元クイ研の公務員一人が。

 その背に、炎を背負ったことに。


 空気が変わる。

 走っているだけなのに、まるで戦場の陣形が整っていくような気配。

 あれは、間違いない。

 反撃の狼煙だ。

 クイズを愛する者からクイズを弁えぬ者に対する、静かなる宣戦布告だ。


 その怒りは、叫びにはならない。

 ただ、行動に変わる。

 それが彼らの流儀なのだろう。


「波名真くん!」「ズビズバ☆フェスティバルっす」ぴんぽん!


 次の問題をボーイが拾って一ポイント。

 垂須さんが下がり、モーリーが最前列へ。


「異世界問題プリーズ!」


 黄石はモーリーの軽口を無視して読み上げ開始。


「問題。デュラハン――」


 運よくか、折悪しくか。

 モーリー、復帰一発目で得意の異世界魔物問題。


 だが、ここからデュラハンの何が問われるのだろうか。

 種族か、性質か、伝承か。

 そのあたりまで問いが進めば、モーリーならば確実に正答する。

 既にリーチの身。

 勝ち抜けは確定したといっていい。


 しかし前提として、そのあたりまで問いが進めば、だ。


 ポーン!


 問いは、進まなかった。

 この少年が崩した。


「ボーイ!」


 モーリーの唖然とした表情の横で、波名真が自信なさげに解答する。


「えっと…… 妖精族っすか?」


 ブー!


「ヤマを張り過ぎだ馬鹿者。ゾンビダンサーズに揉まれて来い!」


 でもナイスファイト!


「……っス!」


 ボーイは全力ダッシュでおそろしやダンサーズへと駆けてゆく。

 背後では、相変わらずガニマタで踊り続けるアンデッドたち。

 リズムは陽気なのに、距離が縮まるたびに本能的な恐怖がせり上がる。

 あれに触れられること自体がペナルティだと分かっていても、やっぱり嫌だ。

 嫌だからこそのペナルティ。


 次に出てきたのは李野くん。

 呼吸は乱れている。

 瞳は燃えている。


「問題。とっぴんぱらりのぷうでおなじみの喜劇役者桔梗屋新右衛門。彼のトレードマークといえば?」


 チキチキチキ……


 カウントが進み……


 ブブー!


 タイムアップが来る。


 解答順の入れ替わりはない。


 向こうにダンサーズにタッチしたボーイの姿が見える。

 彼はそこで立ち止まった。

 そして後方のキングに向かって何事かを叫び。

 くるり回れ右。

 こちらに向かって猛ダッシュ。


 カボチャの馬車の中までは声は届かない。

 だが、その必死なボディーランゲージと。

 強い想いによって生じた熱は伝わってくる。


「問題。」


 次いで世界史の問題。


 次いで食物の問題。


 次いで時事問題。


 決して難しい問題ではない。

 俺ですら二問はわかった。

 むしろ、サービス問題に近い。


 だが。


 誰も押さない。

 押せるはずの者が、押さない。

 全てがタイムアップ。

 時間だけが無駄に消費されていく。


 李野くんは答えなかった。

 モーリーでは答えられなかった。

 左の列には誰もいない。


 そして五問目。

 パターン的には異世界問題が来てもおかしくない頃。


「問題。やられ役として有名なゴブリ――」


 やはり挟まれる異世界問題。

 しかもまたしても魔物問題。

 さらにはゴブリンが出るあたり、もうあと10文字も読み上げればモーリーなら正答間違いなしだろう。

 デジャブを感じる戦局。


 しかし。

 やはり。


 またもやそのタイミングで。


 ポーン!


「李野くん!」


「……ゴブリンキング?」


 ブー!


「んもう!」


 ボーイの時の焼き直しだ。

 モーリーが解答に確信を得る前の読み押し。

 あるいはカン押しか。


「ふぅん」


 椰子泉さんが感情の乗らぬ音で頷いた。

 何かを察したのだろう。


「しからばペナルティを受けて参ります」


 苛立ちをあらわにし始めたモーリーを一顧だにせずに、李野くんは駆けだす。

 もたもたと。

 よろよろと。

 決して体力が余っているわけではあるまいに。


「おっ、自分からゾンビの群れに突っ込むか」


 李野くんもやはりゾンビの群れの向こうのキングにエールを贈る。

 一瞬だけ振り返り、何かを叫ぶ。

 こちらに戻って来た時、李野くんの顔は笑っていた。

 苦しいはずなのに。


 最前列には茂侍が出てきた。

 本来キングが出てくる番だが、彼はここにいないので飛ばされる。

 残酷なルール。


「問題潰し」


 衿衣が後方を睨みながら呟いた。


「問題潰し?」


 ハナさんの問いに椰子泉さんが答える。


「他人の答えられそうな問題をわざと先回りで誤答して、ポイントを上げさせない戦術よ」


 戦術。

 その言葉が妙に重く響く。


「それってズルくない!?」


「ズルいから戦術として成り立つの」


 ばっさり椰子泉は健在。


「それだけじゃなくありません?」


「そうね」


「何が? ほかにもズルいことしてるの?」


「わかる問題もわざとタイムアップにしてます」


「え。えー? なんでそんなことを!?」


 ハナさんでは分からないか。

 そういう悪意も。

 きっと熱意も。

 彼女には無縁の世界だろうから。


 あれから七問。

 三度の異世界問題。

 今度は音楽史ではあったのだが。

 モーリーが動く気配を察した茂侍が。

 問題を、潰した。


「伝統派」


 ブー!


「問題は最後まで聞く! 伝統派の中の最古派閥は? バイロイト派でしょ!」


「失礼」


 茂侍が慇懃に一礼し、後方のアンデッドの群れに突貫。

 その背中もまた、どこか晴れやかだった。


「もー! もー!」


 モーリーが牛の鳴き声で不快感をお気持ち表明。

 だが誰も取り合わない。

 もう空気は完全に変わっている。

 彼女以外の挑戦者は無言のうちに団結している。


「毛利井潰しなら問題潰しだけで事足りるはず」


 衿衣にもわからないか。

 あんまり人と関わった生き方してないみたいだから。


「無意味な問題浪費」


「なんでそんなことするのかな?」


「自業自得ではあるけれど…… 流石にモーリーが可哀そうになってくるわ」


 俺だって積極的に仲間作りしてこなかったし。

 寧ろチームプレイ必須なスポーツって苦手だったし。


 でもさ。


 それでもわかるのは男の子だからかな。

 理屈じゃなくて、感覚で。

 あいつらの動きの意味が。


「あいつらはね、衿衣、ハナさん、椰子泉さん」


 クイ研の卑怯な行いで、胸が熱くなってしまうのは。

 ただの嫌がらせなんかじゃない。

 勝ちたいからでもない。

 もっと真っ直ぐで、もっと熱い理由が、そこに見えるからだ。


「王の帰還を待ってるんだよ」


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