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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
第七BF:ヌー マラソンクイズおそろしや

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第七BF:ヌー 4


 左側の列は俺を含めて三人抜けた。

 だからこの列には俺の後ろで走ってた椰子泉さんしかもういない。

 なので。

 仮に椰子泉さん以外の誰かが正答したとしても、

 椰子泉さんが後ろに下がることはない。

 交代要員がいないからだ。

 ずっと回答権を維持できる。


 凄い歪なルールだ。

 でもゲームとしては面白い。

 番組十年の歴史の重みを感じる。

 垂須さんの時は全員横一列で走ってたっていうしな。

 長年の試行錯誤の末に辿り着いた形なのだろう。


 公平じゃない。

 だが公平じゃないからこそ、極端な展開が生まれる。

 偶然が弱者に意外なチャンスを与えることもある。

 強者に解答機会が回らないこともある。

 勝負としては残酷で、だからこそ視聴者は目を離せない。


 走りながら考える。

 息が上がる。

 肺が焼ける。

 思考が鈍る。

 それでも答えなければならない。

 もはや総合競技だ。


 とは言え。

 真に実力を持つものが機会を得たならば。

 そんな企画意図、簡単にひっくり返ってしまうものなのだ。

 FORTUNEの理不尽があるのなら。

 INTの理不尽だってあるのだから。


 ぽーん!「椰子泉さん!」「倒産の本質」ぴんぽん!

 ぽーん!「椰子泉さん!」「どんタヌキ」ぴんぽんぴんぽんぴんぽん!


 椰子泉さん、ストレート抜け。

 早押しクイズで彼女の速度に追いつける人は誰もいない。

 クイ研にすら。

 キングでさえ。


 ボタンに手を置くその瞬間、彼女の中では既に答えが確定している。

 迷いが無い。

 だから速い。

 だから強い。


「セッカさんおめでとー!」


「うん」


「ワイズメンって凄い。俺はそう思った」


「ふふっ、友情四連結ね?」


 カボチャの馬車の中にいるのはともだちオンリー。

 とても気楽で気安い空気感。

 とても勝負の最中とは思えない。


 が、一歩馬車から外に視界を移せば。

 そこに広がっているのは泥沼のクイズレース。


「……」


 キングが三度、先頭に舞い戻って来た。

 疲弊の色はすさまじい。

 既に、左ひざをかばう様に引きずり気味に走っていた。


 あの体格だ。

 無理もない。

 たしかに鬼門。

 まだ一問も答えていない。


 呼吸が荒い。

 肩が上下する。

 だが視線だけは死んでいない。

 獲物を狙う猛獣のそれだ。


「エナジードレイン凄かった! もうフラフラだよ!」


 真ん中の先頭にはつやつや顔のモーリー。

 でも顔色は青いという矛盾っぷり。

 くちびるも乾いてる。

 そりゃそうだ。

 ゴーストにわざと飛びついて、エナジードレイン強制したんだから。


 ゴーストさん泣き顔だったぞ?

 お前のエナジーまずかったのか、吸った後にげーげーしてたぞ?


 ダンサーズのみんなも引いてたぞ?

 うずくまるゴーストさんに肩を貸してマジうらめしやな視線をお前に送ってたぞ?


「お前なーモーリー。いくらアンデッドと交流したいからって、ああいうわざと負けは感心せんぞ?」


 珍しくマジ声で注意する黄石だが、魔物オタには馬耳東風。


「次の問題いこー!」


 るんるんで次の問題を促す始末。


 異世界ぐるりを謳っている番組故に、必ず異世界問題が仕込まれる。

 大体五問に一つくらい。

 これがモーリーと噛み合う。

 異世界問題しかわからないモーリーがここまで勝ち残れてしまう。

 組み合わせの妙というか、盲点というか。


 そして、次の問題もまた――


「問題。異世界から持ち込まれ、この度特――」


 ポーン!


「モーリー!」


「ウパマンダーでっす!」


 ぴんぽん!


 異世界問題。

 魔物問題。

 それをモーリーはきっちり。

 誰よりも早く抑えてくる。


 沿道では、その様子をアンデッドたちが取り囲んでいる。

 崩れかけた建物の窓から顔を出すゴースト。

 石畳の上で手を振るスケルトン。

 ふわふわ浮かぶ表す顔と手だけの球状集合体。

 誰もが楽しそうに、楽しそうに見えるように応援している。


「おそろしや~~~!」


 リズムに乗って声を上げる者もいる。

 その光景はどこか祭りめいていて。

 だが同時に、リビングマンからしたらどこまでも不気味だった。


「問題。しい――」


 ポーン!


「モーリー!」


「ミイラの包帯解かないとだから!」


 再びのわざと誤答。

 なんて欲望に正直なやつ!

 こいつにはクイズ中でも腰ひもと拘束具が必要だと思う。

 是非前向きにご検討ください閑君さん。


「くーっ、ルールでこれ以上ペナルティ与えられないのが悔やまれるなぁ」


 黄石のボヤキを背に受け、モーリーの身が翻る。

 そこで、アクシデントが発生した。


「うぉっ!?」


 翻ったモーリーの後ろ髪が李野くんの鼻っ面を掠め、李野くんが姿勢を崩す。

 その乱れが後続のクイ研たちを巻き込んで三者転倒。


 足音が乱れる。

 呼吸が途切れる。

 隊列が崩れる。


 マラソンクイズにおいて、それは致命的だ。


 そのうちの一人が――


「ぐあーーーっ!」


 俺はその時初めて、荒火の悲鳴を聞いた。

 今まで決して漏らしてこなかった苦悶の声。

 痛みの訴え。

 顔中を汗まみれにしながらも表情は涼しさを決して崩さなかった。

 圧倒的な自負心からくる絶対的な痩せ我慢。

 それがついに崩れた。


「荒火!」


 思わず俺も叫ぶ。

 荒火は立ち上がろうとして再転倒。

 茂侍と穂積が荒火に肩を貸す。


 貸そうとした。


 ピッ!


 しかし、それをスタッフが短いホイッスルによって止めた。

 どうやら立ち上がらせることも禁止らしい。


 スポーツ界においても。

 競技会でマラソンランナーが転倒しても。

 その原因が己の責に寄らぬ玉突き事故だったとしても。

 人の手を借りた時点で失格になる。

 そういうこと、なのだろう。


 無情。

 だがルールはルール。


 馬車は走る。

 荒火たちを置いて。


 それでも。

 体感でしかないのだけれど。

 馬車の速度が、いくぶんか緩んだ様に感じられた。


 番組スタッフのできる限りの気遣いをそこに感じた。

 あるいは人間味を。


 背後では、相変わらずアンデッドたちがガニマタで迫ってくる。

 妙に陽気な、それでいて重々しいステップのまま。

 腕を振り、腰を振り、笑顔とも咆哮ともつかない表情で。


 動けぬ荒火との距離は確実に詰まっている。

 モーリーが今度はミイラ男に吶喊している。

 笑えない。


 解答席には中央列の垂須さんのみ。

 所在なさげに、それでも強い戦意を五体にみなぎらせ。

 問題の読み上げを待っている。


 黄石がマイクから半歩体をずらす。

 視線を横へ。

 伴走する小型馬車の上の閑君がペケサイン。

 クイズの継続が決定された。

 垂須さん一人に向けて読み上げる。


「問題。」


 後方にはもう顔も見えない集団となったクイ研たち。

 その中心に倒れ込む黒ランニングシャツが、こちらを指差した。

 顔は見えない。

 だが確かに射抜くような鋭い目線を感じた。

 そしてひときわ通る低い声にて家臣へ下知が下される。


「戻れ! 戦士が戦場を放棄するな!」


「しかしキング、その足では……」


「俺がクイズを前に立ち止まることはない。案ずるな。必ず舞い戻る!」


 膝立ちとなった荒火は、戦士たちに戦列復帰を促す。

 その声にはまだ力があった。

 折れていない。

 だからこそ、周囲も動く。


「シータマックス」


 ぴんぽん!


 その間に垂須さんは一問を奪い取っていた。


 この状況、垂須さんにとっておいしい状況のはずだ。

 でもそういう顔をしていない。

 悔しそうな。

 苦しそうな。

 どこか不本意さを感じさせる顔をしている。


 だが、はっきりしていることは。

 彼は、一歩進むと決めていることだ。

 感情ではなく、意志で。


「問題。」


 ボーイが左側先頭に復帰する。

 ばらばらと穂積たちもまた復帰。

 李野くんは遅れて、モーリーと共に復帰。


 荒火はもう、顔が見えないほど小さくなっていた。




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