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交際クラブの男 ~会員番号の3618~  山城誠四郎  作者: 山城誠四郎
第五章 2000本超に出演したセクシー女優 保奈美
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第28話 【セクシー女優】二千本のAV女優が、なぜか交際クラブで俺を待っていた

保奈美編、いよいよ始まりました。

本作のヒロインの中で最も艶やかな彼女との出会いを、

丁寧に描いていきます。

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サキ先生との講義が終わると、山城は少しだけ腕試しをしたくなった。


これまでの自分は、交際クラブの女性たちに対して、最初から重い気持ちをぶつけすぎていたのではないか。支援と恋愛を混同し、相手の言葉を自分に都合よく受け取り、勝手に期待して、勝手に傷ついていたのではないか。


そう思うようになっていた。


ならば、今度はもっと軽くいけばいい。恋愛ではなく、大人の遊びとして。軽い気持ちで、必要以上に踏み込まず、割り切った関係として。


そう考えた時、交際クラブから紹介されたのが、樫村保奈美だった。


「樫村保奈美さん、三十五歳です」


担当者は、いつもの調子で淡々と切り出した。


「業界では、かなり有名な方ですよ」

「業界、というと」

「アダルトビデオ業界です」


山城は一瞬、受話器を持ち直した。


「……ほう」

「驚かれましたか」

「いや、驚いたというより」


山城は、少し笑った。


「私、そっち方面に詳しくないので」


「ご存じなくても問題ありません。樫村さんは、業界では長くトップクラスで活躍されてきた方です。今は落ち着いた男性を希望されています」


「落ち着いた、ですか」


「はい。山城さんがちょうど良いかと」


担当者は、いつもながら歯切れがいい。


「プロフィールをお送りしますので、ご確認ください」


電話を切ってすぐ、スマートフォンに通知が届いた。山城は老眼鏡を取り出し、画面をのぞき込んだ。

三十五歳。身長、スリーサイズ、出演本数。華やかな写真が何枚か並んでいる。出演歴のところに、二千本超、と書かれていた。


山城は思わず声を出した。


「二千本……」


それが多いのか少ないのか、山城には判断がつかない。ただ、365日休みなく、毎日、毎日、その仕事を休まずやっても、5年以上かかる。その数字の向こうに、想像のつかない量の時間と労力があることだけは分かった。


昨今のアダルトビデオ女優は、ただ映像に出るだけの存在ではないらしい。美貌、演技力、トーク力、SNSでの発信力。YouTubeチャンネルを持ち、イベントを開き、ファンを集め、ちょっとした芸能人のように扱われる者も多いと聞く。世間では、アダルトビデオ女優というより、セクシー女優と呼ばれることも増えていた。


樫村保奈美は、その中でも十年以上、第一線を走ってきた女性だった。すでに全盛期は過ぎているのかもしれない。それでも業界内では、知らない者は当然いない存在だという。


山城は画面を見ながら、妙な安心感を覚えた。


相手がアダルトビデオ女優なら、さすがに自分も本気にはならないだろう。


真里や恵美のように、生活の影が見える女性には感情を持っていかれた。みどりには、父性のようなものを刺激された。だが、樫村保奈美は違う。


この世界のプロだ。


男を喜ばせることも、距離の取り方も、割り切り方も知っているはずだ。むしろ、こちらが学ぶことの方が多いかもしれない。


銀座の紗季先生に言われたことを、実戦で試すにはちょうどいい。


山城はそう思った。


何より、自信もあった。五十八歳とはいえ、体力にも男性としての機能にも、まだ大きな衰えは感じていない。仕事でも、女性の前でも、年齢の割には悪くない。そう自分では思っていた。

何か、「力試し」のような気分になった。何よりもアダルトビデオ女優と会う。


~アダルトビデオ女優とベットで勝負してみるか~


男としての好奇心もあった。同時に、少しばかりの見栄もあった。自分でもニヤニヤと顔が緩むのがわかった。


「この方でお願いします」


山城は担当者にそう伝えた。


待ち合わせは、銀座の和食店をセットした。


山城は、保奈美を派手な女性だと思いこんでいた。香水の匂いが強く、露出の多い服を着て、いかにも男慣れした態度で現れる。そんな姿を、どこかで想像していた。


しかし、実際に現れた樫村保奈美は、山城の予想とは違っていた。

山城の考えている押し出しの強い華やかさではなかった。


黒に近い紺のワンピース。派手なアクセサリーはない。髪はきれいにまとめられ、化粧も控えめだった。身体の線は、ワンピースからは、あまり想像できなかった。

ただ、顔立ちは、やはり華やかさはある。面長な顔つきは、大人の笑顔とやさしさを感じ、やはり、色気も感じられた。身長が高く、人に見られる仕事をしているのだろうなと思える美しさがあった。撮影などが始まれば、オーラが出てくるのが想像できる。ただ、今は、そのオーラを自ら抑えているような雰囲気があった。


落ち着いている。

山城は、最初にそう思った。


「樫村です。本日はありがとうございます」


保奈美は、静かに頭を下げた。声も、想像していたより低く、大人を感じさせる。媚びる感じも、必要以上に近づいてくる感じもない。


「山城です。こちらこそ」


山城は少し戸惑いながら答えた。


席に着いてからも、保奈美の印象は変わらなかった。食事の所作がきれいだった。店員への言葉遣いも丁寧だった。会話の間合いも、妙に落ち着いていた。


山城は、少し拍子抜けした。


もっと分かりやすく、男をその気にさせる雌豹のような女性を想像していた。ところが目の前にいるのは、どちらかといえば静かで、常識のあるごく普通の大人の女性だった。


その姿は、山城の中にあった先入観をゆっくりと崩していった。


「山城さんは、何のお仕事をされているんですか」


保奈美が穏やかに聞いた。


「警備の会社をやっています。三十年ほどになります」


「三十年。すごいですね」

「いや、ただ続いてきただけです」

「続けるのが、一番難しいって聞きます」


そう言って、保奈美は少し笑った。お世辞ではなく、本当にそう思っている、という顔だった。

山城も言葉を返した


「樫村さんも業界が長いとお聞きしましたよ」


「そうなんですが、私、もうこの業界を辞めたいんです」


山城は箸を止めた。


「引退を考えているんですか」


「はい。ずっと考えています」


保奈美は、グラスの水に視線を落とした。


「この業界にいても、自分の将来はあまり見えないので」


その言い方には、投げやりさではなく、静かに積もった疲れが滲んでいた。


「もちろん、良い人もいます。助けてもらったこともあります。でも、正直に言うと、本当に人のことを真剣に考えてくれる人はあまりいないですね。」


山城は黙って聞いていた。


「いい加減な人も多いですし、変わった人も多いです。近くにいても、誰も本当には近くにはにない感じがするんです」


保奈美は少し笑った。


「表面上の付き合いはあります。でも、友達と呼べる人はあまりいません」


「二千本以上出ていらっしゃるのに」


山城が思わず言うと、保奈美は少し驚いたように目を上げた。


「プロフィール、ちゃんと読まれたんですね」


「あ、いや」


山城は慌てた。


「数字に驚いて」


「失礼じゃないですよ。普通、皆さん読みます」


保奈美はくすりと笑った。


「むしろ、読まずに来られる方が困ります」


「一般の人とは、付き合いづらいんですか」


山城が聞くと、保奈美は小さくうなずいた。


「はい。名前が知られてしまっているので。最初は普通に接してくれても、途中で知ると態度が変わる人もいます」


「態度が変わる」


「急に興味本位になったり、逆に距離を置かれたり。男性の場合は、勝手な期待をされることもあります」


その言葉に、山城は少しだけ胸が痛んだ。


自分も、会う前はそうだった。


アダルトビデオ女優なら、割り切っているだろう。アダルトビデオ女優なら、本気にならずに済むだろう。アダルトビデオ女優なら、いろいろ教えてくれるかもしれない。


そう考えていた。

結局、自分も彼女を肩書きで見ていたのだ。

保奈美は、山城の表情を見て少し微笑んだ。


「山城さん、意外そうですよね」


「正直に言うと、少し」


「もっと派手な女が来ると思いました? 胸をバーンとだした服を着てくるような。」


保奈美は胸の前に両手を持っていき、胸の大きく見せるように両手で胸を寄せるような仕草をした、

山城は返事に困った。

保奈美は責めるような顔はしなかった。


「よくあることです」


その一言が、かえって山城には重かった。


「山城さんは、私の作品を見たことありますか」


保奈美が聞いた。

山城は正直に答えた。


「ありません。お名前も、先日、初めて知りました」


保奈美は少し驚いたような顔をして、それから笑った。


「それは、少し安心しました」


「安心?」


「最初から作品の話をされると、少し疲れるので。『よく、お世話になりました』とか言われるんです。」


山城は、思わず頭を下げるようにうなずいた。


「私は、観てないので、ただ、……… 聞かなくてよかった。」


「いえ。山城さんは、聞かなそうな方だと思いました」


「そう見えますか」


「はい。ちょっと失礼な言い方ですが、少し不器用そうですけど、変なことはしなさそうです。ちゃんと距離を守ってくれそうというか」


不器用。


山城は苦笑した。その言葉は、最近よく言われる。


だが、保奈美の口から出ると、妙に説得力があった。彼女は、多くの男を見てきたのだろう。その上で、不器用と言われるなら、たぶん本当にそうなのだ。


山城は、その夜、保奈美に対して当初考えていたような腕試しの気持ちを失っていた。

…… 試す相手ではないなぁ ……


そう思った。


目の前にいるのは、肩書きのある女ではなく、疲れた業界から静かに降りようとしている一人の女性だった。


そして山城は、また自分の悪い癖が顔を出すのを感じた。


助けたい。


その気持ちが、胸の奥でゆっくり動き始めていた。



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