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交際クラブの男 ~会員番号の3618~  山城誠四郎  作者: 山城誠四郎
第四章 銀座クラブ上がり ジジ転がしのプロ 恋愛HOW TO 紗季先生登場
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第27話 ― キスと余韻の講義


 薄暗い照明の下、二人はさっきと同じベッドの上に並んでいた。

 天井の明かりは落とされ、スタンドライトだけが、柔らかく輪を作っている。


「なあ、紗季」


 山城が、枕に頭を預けたまま、横目で紗季を見る。


「さっきの話、続きがあるって言ってただろ。


 “終わったあとの振る舞い”とか、“翌日の連絡”とか」


「お、ちゃんと覚えてるじゃん」


 紗季は、シーツの上で肘をつき、頬に手を当てた。


「そこ、かなり大事なところなんだよね。男の人が一番、気が抜けちゃうタイミングでもあるから」


「そこもダメ出しされるのか……」


「される覚悟、できてるんでしょ?」


 口調は軽いが、目は真剣だった。


「じゃあ順番にいこっか。 “キスのテンポ” → “終わったあとの抱きしめ方・声のかけ方” → “翌日の連絡”。今日のカリキュラムは、この三本立て」


「立派なカリキュラムだな」

________________________________________


1.キスのテンポ ―「スイッチ」じゃなく「会話」にする


「まず、キス」


 紗季は、少しだけ身体を近づけながら言った。


「男の人ってさ、キスを“スイッチ”だと思ってること多いんだよね」


「スイッチ?」


「“ここからエロモードです”っていう、切り替えボタンみたいな扱い」


 紗季は、わざと真顔で言う。

「でも、女からすると、キスって“会話”に近いの」


「会話?」


「うん。キスが上手いかどうかって、テクニックじゃなくて、“相手のリズムを感じようとしてるかどうか”」


 紗季は、指先でシーツをゆっくり撫でながら、言葉を続ける。


「男の人のNGパターン、いくつかあるんだけどね――」


「またNGか……」


「これは本当に多いから言うよ」

 

紗季は指を折る。


「キスNG例 ・いきなり深くしすぎる(舌から入る) ・時間が常に同じで、休憩がない

 ・相手の唇の動きや呼吸を見ない」


「……耳が痛いな」


「キスってね、“触れるだけの軽いの”と、“少し長めの深いの”を混ぜて、間に“”を入れてあげると、すごく安心するの」


「間、か」


「そう。例えば――」


 紗季は、天井を見ながらイメージを言葉にしていく。


「最初は、軽く触れるくらい。そこで一回、離れる。相手の目を見て、少し笑って、もう一度近づく。これだけで、女は『選べる余裕』を感じられる」


「選べる余裕?」


「“この人に、ついていくかどうか、私が決めていい”って感覚。間もなく、ずっと押し込まれると、“流されてるだけ”って感じて、心が引いていくこともある」


「じゃあ、深いキスはどうなんだ」


「深いのがダメなんじゃなくて、“最初から最後まで深いの一本”がきついの」

 

紗季は、少し笑う。


「軽いの → ちょっと深いの → ふっと離れる → また軽く触れるみたいに、強弱つけてくれると、女は呼吸が整えやすい」


「呼吸か」


「そう。女のキスの気持ちよさって、“呼吸が乱されすぎないこと”も大事だからね。男の人はすぐに、“どれだけ激しくできるか”に意識いっちゃうけど」


「……思い当たることしかないな」

________________________________________


2.終わったあとの抱きしめ方と、たった一言の差


「じゃあ次」


 紗季は、少し真顔になる。


「“終わったあとの男の振る舞い”」


「それが一番、怖いところかもな」


「正直に言うよ?」


 紗季は、布団を指でつまんで、きゅっと握る。


「どれだけ途中が良くても、終わったあとに雑に扱われると、女はその日全体を“失敗だった”って感じることがある」


「そんなにか」


「そんなに。 例えば――」

 

紗季は、過去の光景を思い出すように、静かに話した。


「“終わった瞬間に、すぐスマホを見る”“すぐシャワーに行って、戻ってきてもタオルを投げるだけ”“横を向いて寝る、または背中を向ける”」


「……よく聞くな、それ」


「これをされるとね、“さっきまでの私は、何だったんだろう”って、急に虚しくなるの」


「じゃあ、どうしてほしいんだ?」


「難しいことはいらないよ」


 紗季は、ふっと微笑んだ。


「たった三つだけ」


「三つ?」


「1つ、“すぐ離れないで、少し抱きしめる”2つ、“短くてもいいから、言葉をかける”3つ、“相手の身体を気遣う一言を入れる”」


「具体的に言うと?」


「例えば――」


 紗季は、仰向けのまま、イメージを紡ぐ。


「終わったあと、そのまま少し抱き寄せる。ぎゅうっとじゃなくて、ゆるく。そこで、一言」

 

紗季の声が、少しだけ柔らかくなる。


「『大丈夫?』『痛くなかった?』『疲れてない?』」


「そんな簡単な言葉でいいのか?」


「うん。 “できた男っぽいセリフ”はいらない。それより、“ちゃんと今の私を見てる?”って確認が欲しい」


「……たしかに、それなら俺にも言えそうだ」


「そして、できればもう一つ」


 紗季は、少し照れくさそうに視線をそらした。


「『ありがとう』って、一言言ってくれる男は、かなりポイント高い」


「ありがとう?」


「そう。“させてくれてありがとう”って意味じゃなくて、“一緒に時間を過ごしてくれてありがとう”って感覚でね」


「なるほどな……」


「私ね」


 紗季は、少しだけ遠くを見る目になる。


「昔、“終わったあとに、何も言わずに寝られたこと”があってさ。それまで楽しいふりしてたけど、その瞬間に、“あ、この人とは長く続かないな”って、どこかで悟ったんだよね」


「きついな、それは」


「逆に、“終わったあと、何度も抱きしめてくれて、『大丈夫?』って聞いてくれた人のことは、今でもちゃんと覚えてる」


 紗季の頬が、少しだけやわらかくゆるむ。


「そういうセックスは、身体の記憶だけじゃなくて、“安心の記憶”になるから」

________________________________________


3.“終わり方”と“翌日の一通”で、全体の印象が決まる


「最後、“翌日の連絡”ね」


 紗季は、仰向けから横向きになり、山城の方に顔を向けた。


「ここ、地味に一番差が出るところ」


「正直、今までは“まあ、そのうち連絡すればいいか”くらいだったな」


「それ、かなりもったいない」


 紗季は苦笑する。


「女の子の中で、“昨日のことがどんな意味を持つか”って、


 翌日の連絡でかなり決まるの」


「そんなにか」


「例えばNGの例――」


 紗季は、指で「バツ」を作る。


「・何も連絡をしない ・数日あけてから、いきなり“また会おう”だけ送る・『昨日は楽しかったね(だけ)』で終わる」


「最後のもダメなのか?」


「“楽しかったね”だけだとね、“都合のいい楽しい時間だった”って感じになりやすいの」

 

紗季は、静かに言う。


「“楽しかった”のはいいんだけど、そこに“どう扱いたいか”のニュアンスが欲しい」

「じゃあ、どう送ればいい?」


「理想はね――」


 紗季は、自分のスマホを取るふりだけして、声に出して例を作る。OK寄りの翌日LINE例


『昨日は一緒にいてくれてありがとう。ちょっと緊張してたけど、○○の話が聞けて嬉しかった。 今日はゆっくり休めてる? また、無理のないタイミングで会えたらうれしいです。』


「……なるほど」


「ポイントは三つ」


 紗季は、指を折る。


「1.“ありがとう”で始める 2.“体”じゃなく、“話したこと”や“時間そのもの”に触れる 3.“また会いたい”を押しつけずに、“無理のないタイミングで”と添える」


「“体じゃなくて時間に触れる”ってのは、分かりやすいな」


「そう。『昨日はすごく気持ちよかった』みたいなことを、翌日にいきなり書かない。あれは本当にやめた方がいい」


 紗季は、はっきり言い切った。


「それを言われて嫌じゃない女の子もいるけど、“それだけだったの?”って、モヤッとする子も多いから」


「……たぶん、俺はそこまで露骨には送ってなかったが、 どこかで“楽しかったね”だけで終わってたかもしれないな」


「そこにちょっと、“その人をちゃんと見てた”ニュアンスを足すといいよ」


 紗季は、やわらかく笑う。


「例えば――」


「『あのとき、少し緊張してるように見えたけど、大丈夫だった?』

 とか、『帰り道、ちゃんと寒くなかった?』とかね」


「細かいな」


「でも、その細かさが、“ああ、この人はちゃんと見てくれてたんだな”って安心になるの。

 セックスの上手さより、“見てくれてる人”かどうかの方が、ずっと大事」


________________________________________


4.“終わり方”を丁寧にできる男へ

「山城さん」


 紗季は、少しだけ真面目な目で見つめる。


「最初の誘い方とか、ベッドでの振る舞いもそうだけど――“終わり方を丁寧にできる男”って、本当に少ないの」


「終わり方、か」


「うん。終わり方が丁寧だとね、たとえ関係が続かなかったとしても、その女の子の中で、“悪い思い出”になりにくい」


「……それは、恵美にも、してやれなかったことかもしれないな」


「だからこそ、次からでいいんだよ」


 紗季は、そっと言う。


「全部を取り返そうとしなくていい。ただ、“これからどうするか”は、いくらでも変えられるから」


「そう簡単に、変われるかな」


「変わろうとしてる時点で、半分は変わってるよ」


 紗季は、やわらかく笑う。


「女心講義もLINE講義も、セックス講義も、


 全部“女を攻略するため”じゃなくて――」


 少しだけ間をあけて、続けた。


「“恵美さんに、胸を張って会える男になるため”だと思ってて」


 その言葉に、山城は小さく息を呑んだ。

 目の奥のどこかが、じんと熱くなる。


「紗季」


「なに?」


「……ありがとうな」


「お、今日は“ありがとう”が多いね」


 紗季は、わざと冗談めかして笑う。


「でも、その“ありがとう”を、本当に言うべき相手に、いつかちゃんと言えるといいね」


「恵美に、か」


「うん」


 紗季は、静かに頷いた。


「そのとき、“昔のままの山城さん”じゃなくて、ちゃんと“今の山城さん”として、会えるように」


 ベッドの上で、二人はしばらく黙って天井を見ていた。

 夜の静けさの中で、その沈黙は、以前より少しだけやさしいものになっていた。

 ただ、山城は、恵美に会うことはないだろうなと理解はしていた

________________________________________


第四章「紗季編」、最後までお読みいただきありがとうございました。


銀座のクラブ上がりの紗季は、山城がこれまで会ってきた女たちとは、また違う種類の女でした。

五十八歳の男が、四十を過ぎた女と向き合う時間──それは、若い女たちとの時間とは別の重みを持っていました。


次章「保奈美編」では、現役のセクシー女優・保奈美が登場します。

これまでで最も派手な、そして最も生々しい章になります。


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