表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
交際クラブの男 ~会員番号の3618~  山城誠四郎  作者: 山城誠四郎
第三章 理想の女性 シングルマザー 恵美編
21/42

第21話 彼女は二人いる──愛と金を分ける女の本音 恵美の二面性

恵美は、娘を寝かしつけた後、自分の部屋で一人、ベッドに腰を下ろした 。

やっと静かになった夜。今日の時間を反芻する 。

母親からは、またLINEが来ていた。


「結婚はどうなの。いい人はいるのか?」


恵美は、スマホの画面を見つめながら、少しだけ山城の顔が横切った。

でも、すぐに違うと思った 。


 ……  山城さんは、いい人だけど……違う  ……  


恵美は、純情な部分を残しつつ、実は交際クラブの常習者だった。

大学生のころから、会員になったり、出たりを繰り返していた。

大学生の時に、一度、別れた男からストーカーまがいのことをされて、家族にバレそうになったこともあった 。

それでも止められないのは、お金と夜の寂しさからだった。

やはり、誰かに抱かれるのが好きだった。

もちろん、複数の人と同時に付き合うわけではない。

自分の頭の中では、恋愛と交際クラブで会う人とは、まったく区分されていた 。

交際クラブで出会うときには、「3Pはどう?」と言われて、女性二人、男性一人でセックスするようなことも経験した。

それは、興味と快楽とお金だった。

頭の中がセパレートされているので、日常的にそれは、自分ではない気がしていた 。

今では、お金と結びつき、やめられなくなっている。

特に、娘ができてからは、お金が入用で山城からの毎月の送金は、本当に心から感謝で助かっている 。

恵美は、山城の気持ちには気づいていた。


最初は、その気持ちに応えながらも、少しずつ「重たい」と思うようにもなっている 。


  …… 私であれば。男と付き合おうと思えば、いくらでも普通に若い男を捕まえられる  ……  

 ……  家庭に入れば、良い妻を演じられる自信がある  ……  

 ……  何も、年齢が親ほどの人と付き合う必要もない  ……  

 ……  金持ちは普通にいる  ……  


恵美は、一度、定額のお金を何度か山城にお断りしたが、山城はLINEでこう言った。

「私の気持ちです。実は、好きになってしまったので、ホテルの後にお金を渡すのが嫌なのだ」

「拘束されているのが嫌なら考えるが……」


恵美は、「いえ、そんなことはないよ。一緒にいるのが楽しいです」と返した 。


実際にそうで、一緒にいると安心していられる。

いつも疲れている恵美は、ことが終わるとすぐにベッドで寝てしまうのが習慣だった。

時間がないので、ほんの20分程度だが、ベッドや、自動車での送り迎えの時も寝てしまうことが多かった。

それは、安心という言葉が一番だった。

安心できる特別な人だったかもしれない

ただ、それでも『交際クラブで出会った人』という区分を自分の頭を整理するつもりはなかった。

それは、彼女も気が付かない先入観のようなもので、気が付きたくもなかったのかもしれない。

恵美の中には、二つの自分がいた。

一つは、娘を愛し、母親に心配をかけまいとする、真面目で家庭的な恵美。

保育園の送り迎えをして、夕飯を作り、絵本を読み聞かせる。

友達とランチをして、「いい人いないかな」と笑いながら話す、普通の女性。

もう一つは、交際クラブで男性と会い、お金をもらい、身体を許す恵美。

3Pの誘いを受け入れ、快楽と興味とお金を天秤にかける、もう一人の自分。その時は、完全に「はじけられる。」恵美は、この二つを完全に分けていた。


その切り分けは意識的な選択というより、生きるために身につけた防衛本能だった。


 ……  これは仕事。これは私の生活じゃない  ……  

 ……  ここで会う人たちは、私の人生には入ってこない  ……  


そう信じることで、恵美は自分を守っていた。

罪悪感も、恥も、後ろめたさも、すべて「別の自分のこと」として切り離していた。

そのもう一人の自分の姿を知ってしまっている山城のことを「いい人」だと思いながらも、「結婚相手」として見ることはできなかった。

娘と一緒に食事をして、優しく抱きしめてくれる山城。

毎月お金を振り込んでくれて、何も求めずに支えてくれる山城。

それでも、彼は「交際クラブの男」というカテゴリーから、一歩も出ることはない。


 ……  山城さんは、外側の人  ……  

 ……  私の本当の生活に入る人じゃない  ……  


そういうものだと自分で信じて、自分の二面性を確保していた。

恵美は、その矛盾に気づいていなかった。

いや、気づかないふりをしていたのかもしれない。

もし気づいてしまったら、自分が何をしているのか、正面から向き合わなければならなくなる。

山城を傷つけていることも、母親を裏切っていることも、娘にいつか説明しなければならないことも。

だから、気づかない。

だから、分ける。

だから、「そういうもの」だと信じ続ける。

それが、恵美の生き方だった。


恵美は、スマホを閉じて、ため息をついた。


 ……  山城さんは優しい。でも、私の生活には入らない人  ……  


そう思いながら、恵美は、静かに目を閉じた。


山城の独白シーン — 同じ夜、自室で


山城も、自分の部屋で一人、ソファに深く沈み込んでいた。

スマホを握りしめたまま、何度もLINEの画面を開いては閉じる。

恵美に送ったメッセージには、おどけたスタンプと一緒に「大好き」「愛しているよ」という言葉が並んでいた。

それが、山城の精一杯の表現だった。

会ったときには、もちろん、ぞっこんの態度は見せる。

彼女の荷物を持ち、ドアを開け、食事を選び、車で送り迎えをする。

だが、言葉では、一度も伝えたことがない。


…… 好きだ、とか……付き合ってほしい、とか、そんなこと、言えるわけがない  ……  


それは、自分の年齢のことが一番大きかった。

五十八歳と三十一歳。

その差が、どうしても山城に引け目を感じさせる。

恵美は、素直に色々なことを話してくれる。

娘のこと、仕事のこと、母親のこと。

何よりも、身体を許してくれた。

山城のような昭和の男にとって、セックスをしたら、それは「付き合っている」ということだった。


「自分と付き合ってください」などと、改まって言ったことはない。


もちろん、結婚のときには「結婚してください」と言ったことはあるが、それ以外で正式に告白したことなど、一度もなかった。


 ……  だから、俺たちは、もう付き合ってるんだろう……?  

  

そう信じたかった。

だが、同時に、恵美の素直さが怖かった。

簡単に自分のことを断ってくるのではないか?


「ごめんなさい、そういうつもりじゃなかったんです」


そんなふうに言われるのではないか?

その不安が、山城の中でずっとくすぶっていた。


山城は、女性を崇めてしまう癖がある。


男ばかり四人兄弟の末っ子として育ったせいか、若い頃から女性に対して、どこか特別視するような感覚を持っていた。

女性には、純真な心がある。

自分よりも、ずっと美しいものを持っている。

もちろん、交際クラブという特殊な付き合いで、お小遣いを上げる関係であったとしても、その純真な心は変わっていないと思っている。


 ……  恵美は、綺麗だ。心も、身体も  ……  


何よりも、肌を重ねた人は、他人ではない気がした。

大事にしたい気持ちが、より大きくなる。

会って、言葉を交わせない自分がつらい。

「好きだ」と、なぜ言えないのか。

「俺と一緒にいてほしい」と、なぜ言えないのか。

だが、それでも、そのままの関係を続けたいと、普通に思っていた。


 ……  このまま、何も変えずに……ずっとこうしていたい  ……  


山城は、スマホの画面を見つめたまま、静かにため息をついた。

恵美が送ってきた「おやすみなさい」のスタンプに、山城は「おやすみ。また明日ね」と返した。

本当は、「愛してる」と書きたかった。

だが、それを送る勇気は、まだ持てなかった。

画面を閉じて、天井を見上げる。


 ……  俺は、何を怖がっているんだろう  ……  


答えは、分かっていた。

拒絶されることが怖い。

恵美に「それは違います」と言われることが怖い。

自分が、ただの「交際クラブの男」だと確定されることが怖い。

だから、言わない。

だから、このまま、曖昧な関係を続ける。

それ以上のことを踏み込む勇気はなかった



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ