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交際クラブの男 ~会員番号の3618~  山城誠四郎  作者: 山城誠四郎
第三章 理想の女性 シングルマザー 恵美編
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第20話 家族ごっこ 揺れるシングルマザー

山城は、次第に恵美の「夜」だけでなく、「昼」の顔——私生活を知りたいと思うようになっていった。

その一番の象徴が、子どもと一緒に食事をすることだった。

いつもLINEの文面には、「今日は保育園の迎えが」「寝かしつけでバタバタしてて」など、子どもの話が必ず出てくる。

恵美の頭の中は、いつも娘のことでいっぱいなのだろうと、自然と分かってくる。

 

……  負担をかけない形で、会えないだろうか  ……  


そう考えて、山城はある日、思い切って切り出した。


「もしよかったら……今度は、お子さんも一緒にどうですか。恵美さんのご自宅の近くで、三人でご飯とか」


メッセージを送ってから、しばらく既読がつかない時間が続いた。

ようやく返ってきた返事には、戸惑いがにじんでいた。


「子どもと一緒だと、本当に大変よ?

落ち着いて食事もできないかも……」


それを読んで、山城は、もう一歩踏み込むことにした。

恵美が気にしているのは、きっと「子どもと会う大変さ」だけではない。

お小遣いのこと、つまり「対価」としての時間の使い方も、気にしているはずだ。

山城は、指を止めずに文字を打った。


「エッチがなくてもいいよ。会えれば、それで十分。

お金は、今後は振り込みにしよう」


送信したあと、しばらくスマホを握ったまま、天井を見上げる。


 ……  他の女性たちとは、違う付き合い方でいい  ……  


これまでの相手とは、会って、セックスをして、その場で封筒を渡す——それが当たり前の流れだった。

だが、恵美に対してだけは、その形が、どうしても耐えられなくなっていた。

まるで、「商売として会っている」という印を、自分の手で押しているような気がしたのだ。

彼女に渡すお金は、もう少し別のもの——生活費の一部、支えのようなもの——だと、自分に言い聞かせたかった。

しばらくして、恵美から返信が来る。


「何もしていないのに、お金だけ頂くなんて できないわ」

当然の反応だった。


それでも、山城は、少しだけ強引になった。


「これは、恵美とお子さんが生活していくためのお金だよ。会う、会わないに関係なく、振り込にしよう振込先を教えて」


何度かのやりとりの末、恵美は、ようやく口座情報を送ってきた。

最後には、「本当に、無理はしないでね」と、申し訳なさそうな一文が添えられていた。

山城は、その日のうちに、静かに振り込みを済ませた。

そのうえで、もう一度だけ、丁寧にお願いを重ねる。


「いつかでいいので……お子さんと一緒に、ご飯を食べさせて」

初めて、子どもと会う日。

駅前の、子連れでも入りやすいファミレスの前で、山城はソワソワと落ち着かない時間を過ごしていた。


「お待たせしました」


恵美が、ベビーカーを押しながら現れる。

そこには、まだオムツをした、小さな男の子が乗っていた。


「この子が、せいら」

「か、かわいいな」


せいらは、最初、山城を見るなり、恵美の後ろに隠れるようにして顔を背けた。

人見知りらしく、じっとこちらの様子をうかがっている。

店に入り、席に着いても、恵美の腕から離れようとしない。

山城が、おそるおそる手を伸ばして抱っこしようとした瞬間——


「……うわぁぁぁぁぁぁん!!」


店中に響き渡るくらいの大音量で泣き出した。

山城の感覚では、百ホーンくらいの勢いだ。


「ごめんなさい、ごめんなさい」


恵美が慌ててあやす。


「いや、俺がびっくりさせたんだろう。大丈夫だよ」


せいらは、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、母親の首にしがみついて離れない。

山城は、抱っこを諦め、少し離れた位置から、ジュースやおもちゃで機嫌を取ろうとした。


「この人形、好きなのか」

「……」

「ほら、これ、かわいいな」


最初は、完全に無視。

だが、二度目、三度目と会ううちに、その距離は少しずつ縮まっていった。

次に会ったときには、恵美の背中に隠れながらも、ちらっと山城の方を見てくる。

三回目には、テーブル越しにスプーンを渡してくれるようになった。

そして、あるとき——


「抱っこ、してもいいか?」


恵美が、「どうする?」とせいらに尋ねると、彼は少し考えてから、小さくうなずいた。

おそるおそる腕を差し出すと、せいらは、予想よりもずっと軽い体重で、その中にすっぽり収まった。


「おお……」


小さな手が、山城のシャツをつかむ。

さっきまで泣き叫んでいた子どもが、今は胸元でじっとしている。


「すごい。最初は、全然ダメだったのに」


恵美が、驚いたように、そしてうれしそうに笑う。


「なあ、せいら。重くないぞ」


そう言いながら、山城は、自分の胸の奥が、じんわりと温かくなるのを感じていた。


 ……  俺なんかでも、こういう時間を持てるんだな…… 


店の窓の外では、相変わらず人や車が忙しなく行き交っている。

その喧騒から切り離された、小さなテーブルの上。

子ども用のプレート、ハンバーグの残り、こぼれたジュース。

恵美とせいら、その隣に自分が座っている光景が、信じられないほど愛おしかった。

山城は、その瞬間、自分が本当に「幸せ」を感じていることに気づいた。

交際クラブで出会った相手と、こんな時間を過ごすとは、想像もしていなかった。

それでも今は、目の前の小さな命の重みが、何よりも心地よかった。


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