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交際クラブの男 ~会員番号の3618~  山城誠四郎  作者: 山城誠四郎
第二章 ハイスペックの女 みどり編
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第12話 みどりと初めて心を初めて通わせた夜 

背中から抱き寄せると、みどりの肌はまだ眠りの熱を含んでいた。山城の胸に彼女の背中が触れ、柔らかな髪が顎先をくすぐる。


みどりは小さく身じろぎしたが、目を覚まさなかった。


山城は、正面から彼女を見つめることを避けるように、顔を横へずらしたまま、両手で彼女の胸を包み込んだ。


形の整った胸は、横から抱くと想像以上に豊かだった。山城の手の中に収まりきらず、柔らかな重みが指の間からこぼれ落ちそうになる。


みどりの身体が、ほんのわずかに震えた。


山城はすぐには動かなかった。


ただ、逃げ道を塞がないように、力を入れずに抱いていた。彼女が嫌なら、すぐに離れられるように。彼女が怖がるものを、昨夜、彼は知ってしまったからだ。


やがて、山城はみどりの背中に唇を落とした。


その瞬間、みどりの身体がびくりと反応した。


だが、昨夜までのような硬さではなかった。恐怖で固まる反応ではなく、触れられた場所から熱が広がるような、小さな震えだった。


山城は正面から顔を覗き込まなかった。


みどりが怖がるものを、彼はもう知っていた。


だから、彼女の顔を見ようとはせず、後ろから抱いたまま、首筋に唇を寄せ、耳元に息を落とした。指先は急がず、胸の丸みを確かめるように動き、肌の温度をゆっくりと探っていく。


みどりは、山城の腕の中で小さく息を漏らした。


それは、これまで山城が聞いてきた声とは違っていた。店で客を喜ばせるための甘い声でも、行為を早く終わらせるための作られた声でもない。自分でも驚いているような、喉の奥からこぼれ落ちた声だった。


山城は、その声に反応して、指を止めた。


「大丈夫か」


耳元でそう囁くと、みどりは少しだけ肩を揺らした。

いつもなら、ここで「大丈夫」と明るく笑ってごまかす。あるいは、身体を硬くして黙り込む。


だが、今朝のみどりは違った。


「……止めないで」


その声は、とても小さかった。

山城は聞き間違いかと思った。


「え?」


みどりは顔をこちらへ向けようとはしなかった。枕に頬を押しつけたまま、耳まで赤くしている。

「今のままがいい」


その言葉に、山城の身体も反応した

今のまま。

正面から見つめず、上から押さえつけず、後ろから包むように触れるこの距離。

みどりにとって、それは初めて恐怖と切り離された触れられ方だったのかもしれない。


山城は、急がなかった。


背中に唇を落とし、肩先に触れ、耳元で息をかける。みどりはそのたびに小さく震えたが、もう逃げなかった。むしろ、ほんの少しだけ、山城の胸に背中を預けてくる。


その動きが、山城には何よりも艶めかしく見えた。

みどりのそこは、いつも以上に濡れていた


「みどり」


名前を呼ぶと、彼女は小さく首を横に振った。


「見ないで」

「見ないよ」

「顔、見られると……まだ、だめ」

「分かってる」


山城がそう答えると、みどりの身体からまた少し力が抜けた。

それは信頼というより、恐る恐る差し出された許可だった。


怖い。

でも、嫌ではない。

逃げたい。

でも、離れたくない。

その矛盾が、彼女の背中の震えにそのまま表れていた。


山城はその震えごと、抱きしめた。


みどりの呼吸が少しずつ深くなっていく。昨日までの浅く張りつめた息ではなく、熱を帯びて、乱れて、時々自分でも抑えきれなくなるような息だった。


「……せいちゃん」


みどりがもう一度呼んだ。


「私、変かも」

「何が」

「怖いのに……」

「気持ちい……」


そこで言葉が途切れた。


山城は何も言わず、彼女が続きを言うのを待った。

みどりは、しばらく黙っていた。だが、やがて布団の中で、そっと山城の手に自分の手を重ねた。


そして、消え入りそうな声で言った。


「もっと、触って、激しくして」


その一言は、山城の中に深く沈んだ。

これまで、みどりは求められる女だった。望まれることに慣れ、買われることに慣れ、男の欲を受け流すことに慣れていた。


だが今、初めて彼女は、自分の欲を言葉にした。

山城は胸が詰まるような思いで、彼女の手を握った。


「怖くない。すごく感じてる」


みどりは少しだけ強く言った。

その声に、かすかな苛立ちが混じっていた。自分の怖さに対する苛立ち。自分の身体が反応していることへの戸惑い。そして、それでも今だけは逃げたくないという、精一杯の意地。


「今なら……大丈夫な気がする」


山城は答えなかった。

ただ、彼女の首筋に唇を寄せた。


みどりの肩が跳ねる。


けれど、次の瞬間、彼女は自分から山城を正面から受け止めて、腕の中に自らを身体を沈めた。


その動きは、わずかだった。

だが、山城には分かった。

みどりが初めて、自分から近づいてきたのだ。


「せいちゃん」

「うん」

「離れないで」

「離れない」


その言葉を聞いたみどりは、目を閉じたまま、震える息を吐いた。

背中越しに伝わる彼女の体温が、少しずつ高くなっていく。緊張で硬く閉じていた身体が、ゆっくりとほどけ、女としての熱を取り戻していく。


山城はその変化を、驚きと愛しさの混じった気持ちで受け止めていた。

みどりはもう、演じていなかった。


明るいラウンジ嬢でも、男に金を使わせる女でも、傷を隠して笑う女でもなかった。

ただ、怖がりながらも、初めて自分から誰かに触れられたいと願っている一人の女だった。


「……せいちゃん」


みどりは、山城の顔を見つめながら、震える声で言った。


「今日だけは、私から逃げないから」


山城はその言葉に、静かに息を呑んだ。

みどりの指が、山城の手を握り返した。


それは頼りない力だった。

けれど、確かな意思があった。


山城は彼女を包み込んだまま、焦らず、壊れものに触れるように、しかしもう遠慮だけではない熱を込めて抱いた。


みどりの身体は、朝の淡い光の中で少しずつ弾けていった。


恐怖で固まっていたものがほどけ、押し殺していた声がこぼれ、拒むためではなく求めるために背中が反る。


山城はその瞬間、初めて知った。


みどりは淡白な女ではなかった。

ただ、ずっと閉じ込めていただけだった。

その扉が、今、彼の腕の中で少しだけ開いたのだった。

みどりは、自らキスを求めて、舌を絡めて乱れた。


しばらくして、二人は言葉もなく横たわっていた。


朝の光は少しずつ濃くなり、窓の外の木々を淡く照らし始めていた。みどりは山城に背を預けたまま、静かに息を整えている。


山城は、彼女の肩にそっと布団をかけた。

昨夜とは違う沈黙だった。


重く、苦しい沈黙ではない。どこか柔らかく、まだ触れてはいけないものを二人でそっと守っているような沈黙だった。


みどりは顔を見せないまま、小さく呟いた。

「……お腹すいた」

その一言に、山城は思わず笑いそうになった。


みどりも、枕に顔を埋めたまま、少しだけ笑った。

その笑いがあまりにも普通で、山城の胸はかえって締めつけられた。

二人はしばらくして起き上がり、遅い朝食を取ることにした。



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