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最強の《土魔法》使いの少年――バレると面倒なのでレベル1ポーターを演じてます  作者: 猫野 にくきゅう


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第51話 地下の密会と魔改造の始まり

「ユキ、本当に一人で大丈夫か? 最近は街の警備も物々しい。やはり私が、一緒にいこうか?」  


 燃えるような赤髪を揺らし、アリアが心配そうに身を乗り出してくる。  


「ありがとうございます、アリアさん。でも、市場はすぐそこですから。ルナさんの分のお菓子も忘れないようにメモしてきました」  


 俺、ユキは「レベル1のポーター」としての気弱な少年の笑みを完璧に維持したまま、彼女たちの過保護な包囲網を、シチューの具材を吟味するという名目で突破した。


 ハウスを離れ、人通りの多い大通りから脇道へ。

 俺は《土魔法:探知ソナー》を足裏から大地へ走らせ、監視が一切ないことを確認した。  


(《土魔法:土流転移》)


 向かったのは、街を一望できるクレセント辺境伯の別荘だ。

 中庭のガゼボでは、水色の髪と金色の瞳を持つ令嬢、セレスティーナ・クレセントが、既に茶を飲み終えて俺を待っていた。  


「遅いではありませんか、婚約者様。わたくし、待ちくたびれてしまいましたわ」  


「……すみません。お姉さんたちを説得するのに少し手間取りました」  


 彼女は優雅な所作で椅子から立ち上がり、俺の元へ歩み寄った。

 彼女だけが、俺の《神をも欺く偽装》を無効化した「共犯者」だ。  


 俺は彼女の細い腰を支える形で、転移陣を発動させた。  


 視界が暗転し、魔力が全身を包む圧迫感の後、俺たちは地下四百メートルの遺跡へと現れた。  



 **


「何度経験しても、この移動術は洗練されていますわね……」  


 セレスティーナが感嘆の息を吐きながら、ドーム状の格納庫を見上げる。

 その中央には、俺が先日発見し、構造解析を終えた「古代ゴーレム」の予備機が、虚ろな沈黙を保っていた。  


「セバスからの報告では、ジャガーが古代兵器を本格的に起動させ、進軍を開始する兆候があるそうです。アリアさんたちの実力なら負けはしないでしょうが、相手の古代ゴーレムには『反魔法装甲』がある」  


 ルナさんやアリアさんの攻撃が通用しない場合、最悪の結果を招く。

 それを防ぐには、俺が正体を隠したまま戦える――絶対的な物理的暴力を用意しておく必要がある。


「ですから、この機体を『魔改造』します」  


 俺はゴーレムの脚部に手を触れた。

 レベル1617の魔力を一点に集束させ、原子レベルでの再構築を開始する。  


「(《土魔法:分子構造再構築・超高密度炭素置換》)」  


 鈍い石の色だったゴーレムの装甲が、中心からじわじわと透明度を帯びた漆黒へと変わっていく。地中の炭素成分を抽出し、魔法耐性を無視する純粋なダイヤモンド並みの硬度を持つ「ダイヤモンド装甲」へと置換したのだ。  


「……あら。まあ……なんと美しい」  


 セレスティーナが蜂蜜色の瞳を輝かせ、鏡のように磨き上げられた装甲を指先でなぞった。  


「これで帝国のゴーレムの拳をまともに受けても、傷一つ付かないはずです。次は動力源と関節駆動系の調整を――」  


 作業を続けようとした俺の袖を、セレスティーナがぐいと引いた。    


「待ちなさい、ユキ様。……この装甲の強度は信じますが、この内部、操縦席はどうなるのかしら?」  


「基本的には石の椅子と操作盤の簡素な構造になりますね。改善しようとは思っていますが、それは後回しになります」  


「却下ですわ。わたくしも一緒に乗り込むのですから、硬い椅子に座るなど考えられません。……そう。操縦席は最高級の羽毛を使い、身体を包み込むようなフカフカのソファ仕様にしてくださいませ。カラーは深紅かゴールドがいいですわね」    


「……セレスティーナ様。これは実戦兵器であって、別荘の談話室ではないのですが」  


「あら。王子様としての力を振るうのですから、ふさわしい『玉座』でなくてはなりませんわ。それに……」  


 彼女は一歩、俺との距離を詰めた。

 ドレスの華やかな香りと甘い熱量が、至近距離で伝わってくる。  


「狭い空間で密着することになりますのに、座り心地が悪いとお喋りも楽しめませんでしょう?」  


 蜂蜜色の瞳が、俺の困惑を愉しむように潤んでいる。彼女は俺の「正体」を握っている精神的優位を理解した上で、確信犯的に誘惑を仕掛けているのだ。


 「……分かりました。内装については、あなたの指示通りにします」  


 俺は溜息をつき、要求を受け入れることにした。

 セバスが材料を用意しているはずだから、それを取りに行く。


 ダイヤモンド装甲を纏う最強の盾を持ちながら、内部はフカフカの高級家具という、俺のスローライフ志向と彼女のわがままが奇跡的に合流した「自分専用機」が形作られていく。


 数時間の作業を終え、俺は地上へと意識を戻した。  

 土魔法の《ソナー》が、街から十数キロ離れた森の奥で、巨大な振動が連続して発生しているのを捉えた。  


(……来たか。ジャガー)  


 地響きの周期から、奴のゴーレムは既に歩行を開始している。

 さらには、帝国から呼び寄せた軍隊も引き連れていた。


 明日には街の防衛線と接触するだろう。    


「セレスティーナ様、今日はここまでです。ジャガーが動き出しました。明日、アリアさんたちがピンチになったら、俺たちが地下から出撃します」  


「ふふ、楽しみにしておりますわ、ユキ様。わたくしたちの『共同作業』の初陣を」    


 俺は彼女を別荘へ送り届けると、急いでハウスへと戻った。  

 夕食を心待ちにしている「無自覚な姉」たちの笑顔を守るために。  


 亡国の王子の平穏な日常を守るための戦いは、地下に隠した漆黒の巨人と共に、静かに、そして激しく幕を上げようとしていた。

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